3話 前線基地、(早くも)壊滅する 前編
まあ、言うまでもない。
最前線基地は二国の共通する場所。犬猿の仲は、どこまで行っても犬猿のまま。
大きな壁に塞がれた基地内は、ラスダンを前に小競り合いが続いていた。
城から書状が届いているはずなのに、出迎える者など誰も居ない。
冬生曰く、実にくだらない争いをしている――そうだ。
「巫女ミナリーの方が胸が大きい!」
「いいや、絶対に巫女マーシアの方だ!」
うん。
すげぇ、くだらないのな。
この世界が滅んでも、別に差し支えないと思うほど、低レベルな争いを繰り広げていた。
「……………………ぶっ壊す」
「え?!」
低く呟かれた言葉を聞き取り、理解した瞬間には遅かった。
「〈エクスプロード〉」
天空から火種が舞い降りる。
それがピタリと宙で止まり、周りの空気と火のマナを吸収するかのように集い――
どうなったかは、誰でも容易に想像できる。
「あー……………………」
隔てる壁ごと、防壁すらもガレキと化し。
何人巻き込んだかは、数える暇もなかった。
ぽっかりと空いたクレーターに、彼はこれでも手加減をしていると呟く。
さすが、セルミーの城をぶっ壊した力だ。絶対に、敵には回したくない。
見晴らしの良くなった最前線基地で、改めて魔王が攻めてきている方向を見る。決して現実逃避ではない。
黒く、闇が渦巻く世界。
その最奥、もっとも闇の濃い所に魔王は居る。
目測、攻撃したら届きそうな感じは錯覚だろう。
「て、敵襲!!」
慌てふためいた声と警鐘。
今頃ですか――というお約束のツッコミはしない。気力の無駄である。
「貴様ら何者だ」
剣を向けられ、面倒くさそうに頭を掻くのは冬生。
決して即答して『勇者』と名乗らないのは、オレたち自身が認めていないからだ。
「くだらない言い争いをする愚か者を滅ぼしに来た」
「目的違うし!」
すかさずツッコミ。
条件反射だ。
「……あ、いや、正論なんだけど」
「では、問題ないだろう」
「………………ありませぬ」
丸め込まれているぞ、オレ。情けない。
いや、勝てない戦いで勝つつもりはないけど。
「救ってやる価値もない。今すぐ滅んでしまえばいいのだ」
「それ……勇者の台詞じゃないって」
ぽつりと呟いたツッコミ。
『ゆ、勇者?!』
反応を示したのは、砦を守る兵士たちだった。
驚くのも無理はない。
未だにオレ自身も驚くことだ。
「た、確かに通達のあった特徴と同じだが……」
「だが、なんだよ?
オレたちはケルミー、セルミー、両方の王から証を貰っている。コレが(迷惑な)証拠だ」
なおも動揺する両兵士たちに、オレはケルミー王から押し付けられた証を掲げる。
何でも、王家に伝わる由緒正しき王章――要は、ピンバッチみたいに衣服に着けられる物だ――とか。着ける気はないけど。
これで水戸のご老公のように、平伏してくれるなら完璧なのだが……世の中、甘くはない。
兵士たちの同様を、ますます広げてしまう結果になった。
何故かは分からない。
「で、では何故、我らを滅ぼすなどと?」
「胸の大きさで争うなどと言う、極めて低レベルな争いをしているからだ」
「そ、それには訳が!」
「どんな理由だろうと、私には関係のないこと。言い争いを行っている時点で、救いようがないのだ。滅べばいいのだ」
言い方はやっぱりキツいが、相変わらず正論だ。
そうだ、そうだと言わんばかりに同意し、頷くオレ。
「元はと言えば、セルミーが悪いんだ!」
「ケルミーが難癖つけ始めたのが原因だろう! 変な言いがかりをつけるな!」
「言いがかりはそっちだ! 十秒遅れたた程度、フォローも出来ないのか?!」
「見習いの教育も出来ないヤツに、できるフォローなんてあるものか!」
「ふんっ! そーゆーお前の言葉は、何年も昇級できない言い訳なんだよ!」
「お前ンとこの昇級制度が甘いんだよ。お前程度の実力、大したことないくせに粋がって!」
「負け惜しみか? どうせお前は、配給当番だよな。ははははっ!」
火種と燃える物があればあるほど、言い争いのレベルが低下している。
個人的な悪口が、最終的に辿り着く末路だろうか?
それにしても、
「いい加減――」
「〈ハウリングブラスト〉」
※くだらない言い争いのネタを考えるのは楽しく、そして何だか辛い……orz