表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

2話 目指す場所は(何故か)ラスダン前




 セルミーの『勇者』冬生。

 彼の能力は魔法。それも潜在能力が高かったらしく、目覚めてすでに高レベルの魔法を扱えるようになっていると言う。

 どこのチートですか?

 一方で、ケルミーの『勇者』オレ――夏芽。

 いきなり泉に押し入れられ、沈み行く中で全てをセルミーの勇者に押し付けようと思った。

 そのせいかどうかは分からないが、目覚めると何も変わらなかった。能力は確かに付与されたらしい。

 何かは分からず、とりあえず濡れた服の代わりをと思い浮かんだのは、普段着のトレーナーとジーンズ。

 ……するとビックリ!

 浮かんだ服が目の前に現れた。

 どうやらオレの能力は、想像したものを具現化させ召喚するという、ある意味では便利そうな能力だった。


「………………やっぱ出てこないか」


 ただし、決定的な弱点が二つある。

 一つは、オレ本人が想像する物が、どんな物とか、どういった仕組みとか、どう在るべきかとかを、できるだけ正確に『理解』していないと具現化は無理だった。

 もう一つは、たとえ『理解』し具現させられたとしても、召喚できる要領が大きければ出せなかった。

 これは神託時に能力と共に与えられる魔力を、潜在意識の受け取る要領が少なかったためらしい。

 潜在意識――心。

 狭いとか言うなかれ。


「某連邦の白いアレが出せたら、前衛の心配もなかったのにな」


「小型サイズでもダメなのか?」


「うーん…………無理っぽい。今の所、服みたいに良く知っている物とか、銃くらいしか出せないみたい」


「ビームガンは出せたのにな」


「いや。これ、エネルギーガン」


 源は、この世界にある魔力の根源。マナと呼ばれる魔力粒子……と、オレは理解している。

 魔力のなんたらは神託の時、勝手に脳内に設定付けされたため、覚えなくても知っていた。

 それらを一つのの塊に集め、ライフル銃の弾丸として使用。

 チャージ量が多ければ、城のどてっぱらに風穴を開ける程度の威力にはなる。

 魔法は手や杖などを媒介にして発動させる。オレの場合、それが銃になっただけだ。

 使い勝手は悪いけど。


「普通の銃でも十分に通用すると思うが?」


「オレも思ったけど、弾丸の火薬量が分からなくてさ。なきゃダメージ、与えられないだろ?」


「確かに、一理ある。不便な能力だな」


「…………言うなよ」


 ため息一つ。

 ライフルは常に召喚状態。意識すれば消せるが、それだとまた想像するのが面倒なため、常に出しっぱなしにした。

 今の所、安定した武器はコレだけ。

 魔力のチャージを早めるために、掃除機の吸引力を想像したり、蓄積するための入れ物を冷蔵庫を想像したりと、かなり苦労した。

 ……我ながら、よくそんなワケの分からん想像の仕方で、まともな物を出したものだ。

 それでようやく形となり、何故か最前線基地へと赴いている途中である。

 仲の悪い両国の王が、揃って最前線へ行き兵の士気を上げろとか何とか。


「ふぅ~……あー…………」


「何だ、『また』疲れたのか。疲れた時ははっきり言う。無理をするなと出発前に言っただろう?」


「……あー……まあ、そー……だけど。出発して三時間で、五回の休憩は……さすがに、なあ」


「倒れられたら逆に困る」


 と、傍若無人らしからぬ言葉に内心驚く。

 この手の異世界召喚話では、一緒に召喚された人物は分裂していた。

 少なくとも当てはまらないオレたち、幸運なのかもしれない。


「私の良心がない」


「……………………少なくとも、自覚はあるんだ」


 とりあえず、前言撤回。

 街道を避け、適当な木の下に座り込む。

 ため息しか出ない。

 想像具現召喚能力には二つの弱点がある。それを使うオレ自身にも、一つ……弱点があった。

 それは圧倒的に体力がないことだ。

 体育の授業は出来るが、後半になればバテバテな状態になる。バスケなら第一クォーターでダウンだ。

 インドア派ではない。運動が苦手なワケでもない。まして、身体が弱いワケでもない。

 昔から、体力がなかった。ただそれだけだ。身体的には異常がないらしく、意味が分からない

 学校は徒歩圏内。そのためか、まあ……別に不便はしていなかった。

 この現状にぶち当たるまでは。


「足を要求すべきだったな。頼めば駿馬くらい出しただろうに」


「……アンタのお願いは強要なんだけど」


「失礼な。それ相応の報いが与えられると言っているだけだ」


「………………脅しだったよ」


 何にしても、結局は力で物を言わせると同じだった。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。

 向こうが権力のある人間なんだ、対等に渡り合えるとは端から思っていない。どちらかと言えば、オレたちは勇者と言っても格下扱い。

 言葉を届けるために、結局力を見せ付けるしか手はないのだ。


「運よく馬車でも通らないかな~」


 なんて、薄い希望に託してみる。

 この先に街は存在しない。王都から北側にあった村は全部、魔王に滅ぼされたか逃げ出したかの二つ。

 最前線基地へは徒歩で三日の距離だが、魔王が現れてから数年、王都への距離は徐々に詰められている。

 魔王が一気に攻めないのは、少しでも多く、人間の恐怖とやらを味わいたいためだとか。

 古今東西、魔王のやることは似たり寄ったりだな~……なんて。



 ぎゃあああーー!

 ひぃ~お助けぇー!



「ぎゃあ? お助け?」


 遠くから聞こえた、絹を裂かない野太い悲鳴。

 次いで、ドォンッと爆発が一つ。

 背中に嫌な汗が流れるのは、絶対に気のせいではない。

 いつの間にか冬生が居なくなっているのも、深く考えたくなかった。

 百パーセント、傍若無人の暴走。

 やがて周りは恐ろしいほど静まり――蹄の音が大きく、徐々に近づいてきた。


「喜べ。足が落ちていた」


「……………………………………落ちてたって言うのか、アレ」


 奪ったとは、決して言わないんだろうな。

 口に出してツッコまないのは、足(馬)に少なからず喜んだ自分が居るからだ。

 うん。


「ところで、乗馬はできるか?」


「オレに関しては、聞くまでもないと思うよ。ちなみに、冬生は?」


「サラリーマン家庭で、乗馬する機会がそうあるとでも思うか?」


「……………………まあ、確かに」


 見よう見真似でどうにかなればいいのだが。

 ヒラリッと、冬生が乗った。

 乗馬する機会がそうあるかと言っていたが、そこにはできないと言う明確な答えは含まれて居ない。

 天才、なのか。


「――ほら、手を貸せ」


 訂正。

 王子だ。

 ただし、根っこの部分は傍若無人である。


「…………なあ、一つ聞いてもいいか?」


「何だ?」


「……何でオレ、お前の前で横乗りしてんだ?」


「楽でいいではないか」


「納得いかねー」


 などと言いつつも、座りなおすのが面倒でそのままだ。

 どうせこの先には村などはないし、人が通っても、ケルミーかセルミーの兵士だろう。


「しっかし、オレたちRPGの邪道進んでるよな~」


 いろいろ手順吹っ飛ばして、最前線基地という名のラスダン前まで行くことになるとは。

 不幸も極まってきそうだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ