2話 目指す場所は(何故か)ラスダン前
セルミーの『勇者』冬生。
彼の能力は魔法。それも潜在能力が高かったらしく、目覚めてすでに高レベルの魔法を扱えるようになっていると言う。
どこのチートですか?
一方で、ケルミーの『勇者』オレ――夏芽。
いきなり泉に押し入れられ、沈み行く中で全てをセルミーの勇者に押し付けようと思った。
そのせいかどうかは分からないが、目覚めると何も変わらなかった。能力は確かに付与されたらしい。
何かは分からず、とりあえず濡れた服の代わりをと思い浮かんだのは、普段着のトレーナーとジーンズ。
……するとビックリ!
浮かんだ服が目の前に現れた。
どうやらオレの能力は、想像したものを具現化させ召喚するという、ある意味では便利そうな能力だった。
「………………やっぱ出てこないか」
ただし、決定的な弱点が二つある。
一つは、オレ本人が想像する物が、どんな物とか、どういった仕組みとか、どう在るべきかとかを、できるだけ正確に『理解』していないと具現化は無理だった。
もう一つは、たとえ『理解』し具現させられたとしても、召喚できる要領が大きければ出せなかった。
これは神託時に能力と共に与えられる魔力を、潜在意識の受け取る要領が少なかったためらしい。
潜在意識――心。
狭いとか言うなかれ。
「某連邦の白いアレが出せたら、前衛の心配もなかったのにな」
「小型サイズでもダメなのか?」
「うーん…………無理っぽい。今の所、服みたいに良く知っている物とか、銃くらいしか出せないみたい」
「ビームガンは出せたのにな」
「いや。これ、エネルギーガン」
源は、この世界にある魔力の根源。マナと呼ばれる魔力粒子……と、オレは理解している。
魔力のなんたらは神託の時、勝手に脳内に設定付けされたため、覚えなくても知っていた。
それらを一つのの塊に集め、ライフル銃の弾丸として使用。
チャージ量が多ければ、城のどてっぱらに風穴を開ける程度の威力にはなる。
魔法は手や杖などを媒介にして発動させる。オレの場合、それが銃になっただけだ。
使い勝手は悪いけど。
「普通の銃でも十分に通用すると思うが?」
「オレも思ったけど、弾丸の火薬量が分からなくてさ。なきゃダメージ、与えられないだろ?」
「確かに、一理ある。不便な能力だな」
「…………言うなよ」
ため息一つ。
ライフルは常に召喚状態。意識すれば消せるが、それだとまた想像するのが面倒なため、常に出しっぱなしにした。
今の所、安定した武器はコレだけ。
魔力のチャージを早めるために、掃除機の吸引力を想像したり、蓄積するための入れ物を冷蔵庫を想像したりと、かなり苦労した。
……我ながら、よくそんなワケの分からん想像の仕方で、まともな物を出したものだ。
それでようやく形となり、何故か最前線基地へと赴いている途中である。
仲の悪い両国の王が、揃って最前線へ行き兵の士気を上げろとか何とか。
「ふぅ~……あー…………」
「何だ、『また』疲れたのか。疲れた時ははっきり言う。無理をするなと出発前に言っただろう?」
「……あー……まあ、そー……だけど。出発して三時間で、五回の休憩は……さすがに、なあ」
「倒れられたら逆に困る」
と、傍若無人らしからぬ言葉に内心驚く。
この手の異世界召喚話では、一緒に召喚された人物は分裂していた。
少なくとも当てはまらないオレたち、幸運なのかもしれない。
「私の良心がない」
「……………………少なくとも、自覚はあるんだ」
とりあえず、前言撤回。
街道を避け、適当な木の下に座り込む。
ため息しか出ない。
想像具現召喚能力には二つの弱点がある。それを使うオレ自身にも、一つ……弱点があった。
それは圧倒的に体力がないことだ。
体育の授業は出来るが、後半になればバテバテな状態になる。バスケなら第一クォーターでダウンだ。
インドア派ではない。運動が苦手なワケでもない。まして、身体が弱いワケでもない。
昔から、体力がなかった。ただそれだけだ。身体的には異常がないらしく、意味が分からない
学校は徒歩圏内。そのためか、まあ……別に不便はしていなかった。
この現状にぶち当たるまでは。
「足を要求すべきだったな。頼めば駿馬くらい出しただろうに」
「……アンタのお願いは強要なんだけど」
「失礼な。それ相応の報いが与えられると言っているだけだ」
「………………脅しだったよ」
何にしても、結局は力で物を言わせると同じだった。
まあ、仕方ないと言えば仕方ない。
向こうが権力のある人間なんだ、対等に渡り合えるとは端から思っていない。どちらかと言えば、オレたちは勇者と言っても格下扱い。
言葉を届けるために、結局力を見せ付けるしか手はないのだ。
「運よく馬車でも通らないかな~」
なんて、薄い希望に託してみる。
この先に街は存在しない。王都から北側にあった村は全部、魔王に滅ぼされたか逃げ出したかの二つ。
最前線基地へは徒歩で三日の距離だが、魔王が現れてから数年、王都への距離は徐々に詰められている。
魔王が一気に攻めないのは、少しでも多く、人間の恐怖とやらを味わいたいためだとか。
古今東西、魔王のやることは似たり寄ったりだな~……なんて。
ぎゃあああーー!
ひぃ~お助けぇー!
「ぎゃあ? お助け?」
遠くから聞こえた、絹を裂かない野太い悲鳴。
次いで、ドォンッと爆発が一つ。
背中に嫌な汗が流れるのは、絶対に気のせいではない。
いつの間にか冬生が居なくなっているのも、深く考えたくなかった。
百パーセント、傍若無人の暴走。
やがて周りは恐ろしいほど静まり――蹄の音が大きく、徐々に近づいてきた。
「喜べ。足が落ちていた」
「……………………………………落ちてたって言うのか、アレ」
奪ったとは、決して言わないんだろうな。
口に出してツッコまないのは、足(馬)に少なからず喜んだ自分が居るからだ。
うん。
「ところで、乗馬はできるか?」
「オレに関しては、聞くまでもないと思うよ。ちなみに、冬生は?」
「サラリーマン家庭で、乗馬する機会がそうあるとでも思うか?」
「……………………まあ、確かに」
見よう見真似でどうにかなればいいのだが。
ヒラリッと、冬生が乗った。
乗馬する機会がそうあるかと言っていたが、そこにはできないと言う明確な答えは含まれて居ない。
天才、なのか。
「――ほら、手を貸せ」
訂正。
王子だ。
ただし、根っこの部分は傍若無人である。
「…………なあ、一つ聞いてもいいか?」
「何だ?」
「……何でオレ、お前の前で横乗りしてんだ?」
「楽でいいではないか」
「納得いかねー」
などと言いつつも、座りなおすのが面倒でそのままだ。
どうせこの先には村などはないし、人が通っても、ケルミーかセルミーの兵士だろう。
「しっかし、オレたちRPGの邪道進んでるよな~」
いろいろ手順吹っ飛ばして、最前線基地という名のラスダン前まで行くことになるとは。
不幸も極まってきそうだ。