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*the god of death  作者: 赤染 ルノン
第一章『死神の行方』
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第四話~自分の役目~

その後、優が、どんな事を思いながら私と秀を連れて帰ったのかは分からない。





最終的、結果的に最悪で終わってしまったティルナ国での出来事。





朝起きると、いつも通りの景色があった。




「おはよう」



黒使は笑顔で、おはようございますと言う。




「初めての任務お疲れ様でした。無事で何よりです」





「うん…あ、優は?」




「優様なら…まだお部屋で眠っていらっしゃるのでは?」




「そう…」




「あ、それから昨日一緒に連れて来られた来山秀さんですが、かなり精神的に辛いと思うので、こちらで預かることになりました」




「分かった」



秀を無事に助けられたのは、とても嬉しいことなのにな…



後味が悪い…






すると、部屋のドアが不意に開いた。



「あ、姫華。はよー」


「おはようございます。黒神」



疾風と直樹がいた。



「おはよ~」



私は元気の無い声で挨拶をする。



「昨日はお疲れ。大変だったみたいだな。俺も行けば良かった…すまん」


「私も…そこまで大きく発展していたとは知らず…」



「良いんだよ。二人とも。結局は閻魔も排除できたし元となってた秀くんも助けられたわけだし…」



二人とも、菜月ちゃんの話は聞いてるようだ。


気まずそうに目を合わせている。



「心配かけて…ごめんね」


「さて…私は出て行きましょうかね。ここは幼馴染同士話してください。ほら黒使さんも」


「えっちょっと」


直樹は黒使を無理矢理引っ張り外へ追い出した。


そして手を振りドアが閉められる。



「…疾風?」


疾風は、気まずそうに頭を掻きながら苦笑した。


「死んで欲しくない奴が死んでしまうのは、この世界では普通のことだぞ?」


「うん…分かってる」


「まあ、辛い気持ちは物凄く分かる!!!だ、だから辛いなら泣け!!」


疾風は、ある意味、無理矢理に私を抱き寄せた。


「は、疾風っ!?」


不器用に抱きしめる疾風の顔は真っ赤だった。



「…ありがと」


「おう」


私が疾風の胸に顔を押し付け泣いた。



「ぅ…っ…ぅぁぁぁぁぁぁ」



静かに疾風は私の髪を撫でた。


その手は優しくて…とても落ち着いた。









しばらく泣いて、泣き疲れた私は椅子にもたれかかった。



「ありがと。疾風のおかげでスッキリした」



「良かった」



「今度は、私が優のとこに行かなきゃ…」


そう言って立ち上がろうとすると疾風は私の腕を掴み椅子へ引き戻す。


「まだ、行かなくて良いだろ。たまには俺にもかまえよ」


珍しく真顔で、言うから私は戸惑ってしまう。


「…でも…」


「久しぶりの、お互い休みの日なんだし…良いだろ」


「うん…」




私は姿勢を戻し、頷いた。


「最近…お前と優、一緒に行動する日多くね?」


「そう…かな?」


「そうだよ。俺も姫華と仕事してぇなぁ…」


「あはは…疾風といたら、失敗しそー!あはは」


「何だとー!!こんにゃろ!」


疾風は私のわき腹をくすぐる。


「わぁっやめてぇぇぇあははっっもうっ」


「はは!」


久しぶりの平穏の笑い声に、私は安心する。




「やっぱり…疾風といると落ち着くよ」


そっと呟くと、疾風はバッと頬を染める。


「な、何赤くなってんの!?」


「いや、いつもツンツンしてるお前が珍しいこと言うからだな…!!」


「も、もう…私、優のところ行くからね!」


「え、ちょ、まっ」


疾風の声を無視して私は部屋を出た。


「な、なによ…」


私も顔が火照ってる…。恥ずかしいこと言うんだから…。


でも、いつもどおりの毎日だ。


私は、少し安心した。



しかし、扉の向こう側、疾風はうつむいた。


「――いつもお前は、優ばっかだもんな」



疾風は小さく呟いた。
















優の部屋のドアを開けると、冷たい風が吹き抜けた。


「窓開けてたら寒くない?」


優はこちらを向いて、弱々しく微笑んだ。


「この方が落ち着くんだ」


「そっ…か」


しばらく沈黙が続いた。


優は窓の外を見て悲しい目を浮かべている。


こんな表情を見るのは初めてかもしれない。


さっき疾風にしてもらったように優をぎゅって抱きしめたい。


けれど、なかなか重い沈黙を破れなかった。


そんな中、戸惑っていた私より先に優は口を開いた。


「あのさ」


「…えっうん?何?」


私はバッと優に視線を向けた。


「考えてたんだ。二度と、こんな事が起こらないような政策を」


私は、驚いた。


まさか、そこまで考えていただなんて。


私より一歩先を、いつも歩いている優。


私が慰める必要はなかったのかな。


「国護治安政策」


難しい名前が出てきて、首を傾げた。


「こくご…ちあん?」


「うん。まあ、簡単にいえば特に治安の悪い国を俺らが守ろうっていう政策?」


「へぇ…良いじゃん!」


私は身を乗り出して賛成した。


「で、どんな風にするの?」


「…最近よく聞く特に治安の悪い国っていうのは、ティルナ・ステイ・ミフィール・ススミア…他にも何十国ある」


弱小国である、それらの国は私も知らなかった。


「その国、一つ一つに大臣を置くんだ。そうだな…国護大臣とでも言うか」


「へぇー…でも、その大臣は誰が?」


「俺らと国家治安部隊の幹部らに。あいつらなら信頼できるし、国を守る力がある」


国家治安部隊とは、私たちが住むデスグリームを常に守り、平和に導くために作られた部隊だ。


今まで、色んな政策を発表し、全て成功している。


「で、国の中心に施設を造る」


「よく考えたね!!分かった!協力するよ!」


「じゃあ、この件は俺にまかせてくれないか?黒神」


珍しく私を死神の呼び方で呼ぶ。


そこからも真剣さが覗えた。


「うん。任せるよ。絶対成功させよう!」


すると、優はバッと魔術で小さなスクリーンを作り出した。


私の前にもバッと現れる。


このスクリーンは、城の中にいる全ての人間の目の前にスクリーンを出す魔術だ。


これで、伝えるということか。


私の目の前のスクリーンは優が映っている。


優のスクリーンには、これを見ている全ての人間が映し出されている。


「政策を提案したい。聞いてくれるか?」


優が真剣な目で言うと、優のスクリーンから「ハイッ」と威勢の良い返事が聞こえた。


「国護治安政策。この前のティルナ国での事件を踏まえて考えた政策だ。特に治安の悪い国、一つ一つに国護大臣を置き、治安が安定するまで自分の指定された国を守り抜くんだ。」


優は、黙々と政策内容を言う。


城は、静まり返っている。


「それぞれの国の中心部には施設を作る。一週間後にはできるだろう。

今現在、確認されている治安の不安定な国は42カ国。

国護大臣は、国家治安部隊幹部33名を任命し、その下に副幹部120名を国護使として任命したい。

後の9カ国は、我等死神が大臣となる」


一通り、内容を話し終えた優は、勢い良く叫んだ。


「各自、全世界を平和へ導くため、各国の治安を安定させるように力を尽くせ!!!」









すごいな…。


私は唖然としてしまう。


優は、失敗をすぐに成功へと導いてしまう。


いつもそうだった。


優は、元白神だった優のお父さんが亡くなったときも、泣いたりしなかった。


必死に唇をかみ締めていた。


それから、毎日のように厳しい稽古を受けていた。


もしかしたら、稽古を受けていたことで辛さを忘れようとしていたのかもしれない。


たまには、私に頼って欲しいと、思っていた。


でも、良いことだし…。


「姫華」


私の名前を呼ばれてハッとした。


「ん?」


「お前は、ステイ、ノナリアで良いか?」


「へ?何が?」


「担当する国だよ。聞いてなかったのか?」


「あはは…ごめん」


「しょうがないな。明日には調査に行ってもらうからな。俺も行くし」


「うん」


優は慌しく部屋を出て行こうとする。


しかし、私は思わず優の服の裾を掴んでいた。


「何?」


優はいつもより冷たい視線で私を見る。


「…何もない」


私は素直に手を離した。


だけど、優は微笑んだ。


そして、私の頭を撫でた。


「菜月の死を無駄にはしない」


いつもの大きくて優しい手のひらだ。


いつも、私は慰められてばかりで、少し情けなく思った。


「じゃあな」


「…うん」


優は部屋を出て行き、私は一人残される。


私も、少しは地理的なことも学んどかなきゃ…。


優の机の上に置いてあった地図を手に取る。


ステイとノナリアは、隣国。


海側に面した小さな国だ。


「平和に導くために…」


私は勢い良く部屋を飛び出した。


今すぐ、行かなきゃ!!


一刻も早く、ステイとノナリアを治安を良くして、優の助けにならなきゃ!


「おっどうしたのですか?」


後ろを振り向くと直樹がいた。


いつも部屋に閉じこもり研究しているから、私はつい驚いてしまう。


「えっ、いや、あの、今すぐにでも担当の国に行こうかなって」


「良い心がけですね。私も2つの国を調査する資料を探しているんです」


「そうだったんだ…。お互い頑張りましょうねっっ」


「はい」


優しく微笑む直樹さんは、いつもお兄さんみたいで。


すごく頼りになる。


私は手を振りながらその場を後にした。











空を飛びながら私は小さな国を探す。


しばらく飛び続けていると、やっと見つけた。


一度、降りてみると私は唾を飲み込んだ。


辺り、何も無い枯れた森。


嫌な雰囲気を醸し出している。





私は、この国のために何をすれば良いのだろう?


何が、この国の為になるのだろう?



しばらく考えていると、一人の男の子が木の影から現れた。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」


醜くボロボロのシャツを着た少年に私は息を飲んだ。


可哀想に…。


体つきも、尋常じゃない痩せ方だ。


「…どうしたの?」


私は膝をつき、尋ねた。


「あのね…パパとママが病気なの…」


「病気!?病院には行ったの?」


「行った…けどお医者さんは、お金がないとね診てくれないの」


酷い…。


私は、痩せ切った少年の肩を抱き寄せた。


「大丈夫。お姉ちゃんが助けてあげるからね」


私は懐にあった、自分を落ち着かせる用の飴玉を取り出した。


「わぁ…くれるの?」


私は微笑み、手渡すと、少年は満面の笑顔で口に含む。


「おいしい?」


聞くと、少年は首を縦に振る。


あまりにもおいしそうに食べるので、私は感極まって涙出そうだった。


食にも飢えて…。


この国を助けるということは、こんな少年たちを救うことにも繋がるのかもしれない。


「あ…それから、お父さんたちが行った病院はどこかわかる?」


「…もう潰れちゃったよ」


「…そっか」


私は少年を抱きかかえて、空に跳ねた。


「すごおおい!!空飛んでる!!」


珍しそうに一辺を見渡す。


「私は死神なんだ。死神はね、自分の周りの気圧を上げたり下げたりできるんだよ」


「きあつ…?」


「分かんないか。ハハッ」


私は少し難しい話しか思いつかなくて、口走ってしまったことを後悔する。


喋っていれば、少しは自分の緊張も解けると思ったんだけど…。


「おうちは、どこ?」


「もっと向こう」


少年は西の方角を指差した。


家がありそうな気配はないけれど…。


「あそこ!!」


少年の指差したところは、何も無いただの小さな洞窟だった。


地に下りると、ほのかに海の香りがした。


洞窟へ進むと、小さな灯火が見えた。


灯火に周りに2人の人影が見えた。


すると、いきなり、女性がコホッコホッと咳き込んだ。


私は少年を抱き下ろし、女性の元へ駆け寄った。


後ろの方を見据えると眠っている男性もいた。


「大丈夫ですか!?」


女性は痛々しいほどに体全体が弱っていた。


「回復!」


お腹にめがけて回復魔術を放った。


眩い光が目の前に現れ、女性は驚いたように口をパクパクさせる。


「あ、あなたは…」


「これで、ひとまずは…あ、黒神姫華と申します」


「く、黒神…様…」


女性はバッと私の手を握った。


「ず、ずっと憧れて…本当に、こんな荒地によくいらっしゃいました…」


涙目になりながら、私の手を強く握り締めた。


「いえ…お役に立てるなら。あの…後で病院へお運びいたしますので…」


私は少し照れながらも説明する。


すると女性はとんでもない!と首を横に振る。


「私など貧乏人に病院へ行く資格なんてありません」


私は優しく微笑んで、呟いた。


「大丈夫です。私があなたたちを必ず助けます」


女性は静かに涙を流した。


少年が心配そうにこちらを見る。


私は微笑み、窪んだ岩のところに純水を流す。


指から現れた綺麗な水に少年は息を飲んだ。


「飲んでください。綺麗な水です。医者を手配するので待っていてください」


女性はありがとう、と小さく呟いてくれた。


少年は嬉しそうに水を飲む。


絶対に、この人たちを助けなければ…


私は外に出て呪文を唱えた。


魔術映像オベースビジョン!」


スッと目の前の映像に黒使が映る。


『どうなされましたか?』


映像の中の黒使が喋る。


「こちらに医者を用意して欲しいの。今、見つけた人は3人なのだけれど、きっとこの国にはもっと、いっぱい重症を負ってる人がいると思う。食料も手配して」


『かしこまりました』


ブツッと映像は途切れた。


次は…


私は静かに荒れ果てた地を見据えた。


「水命」


小さく呟くと、地に雨が降り注ぐ。


「あ…あめ…!!!」


女性と少年は驚きの表情を見せた。


荒れた地は潤っていく。


「あなたたちは…もう大丈夫。雨も、私が定期的に降らせます…そのうち、自然に雨が降り緑が蘇ります」


「ほ、本当に!?」


少年は飛び跳ねて喜びを表現している。


この親子を助けられたんだよね?


そっか、人を助けるってこういうことなんだ。


私は少し、微笑んだ。


そして、良い報告を胸にデスグリームへ帰った。













































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