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*the god of death  作者: 赤染 ルノン
第一章『死神の行方』
1/5

第一話~悪夢は始まった~

この世は31世紀。



人類が滅亡してから150年。




この地球という一つの惑星は、




亡霊と言われてきた人々の生きる場所となった。




成仏した幽霊。恨みを持ち続ける怨霊。




そして、日々、怨霊を成仏させるべく、働く死神。




その死神たちは、この死の世界を支配していた。





地球を支配した五大死神。


黒神。死神の中でも一番強いと言われて来た死神の一人。闇の力をまとったその勢力は圧倒的だ。


白神。光の力を使い、怨霊の浄化に果たす。浄化能力が高い死神。


赤神。黒神と白神を支えるべく、火の力を使い、戦闘的にも強い死神。


青神。水の力を使う、広い部分を相手に強い能力を引き出す。


黄神。陸地の力を使う死神。


代々引き継がれてきた、死神たち。




「黒姫様っっ。そろそろ、継承式の準備を…」


黒神の使い、黒使は、綺麗な漆黒のドレスを無理矢理、私に着させる。


「嫌よっ!私は、黒神に何かなりたくないわっ」


私は乱暴に、重いドレスの袖を捲り上げる。


「そんな事仰らないでください…。黒神を引き継ぐ者は、あなた様しかいないのです」


「お父様は、まだまだ現役で、できるじゃない!」


私はそういって、苛立たしく廊下への扉を開ける。


バンッ


激しく、誰かにぶつかった私は、打った頭を押さえる。


「いった…痛いじゃない!疾風!」


「おっと、すまんっ。って黒姫じゃねぇかよ…」


茶髪に赤い戦闘服を着た男は呟き、頭を掻く。


「今日もご機嫌斜めだな。」


その男は赤神 疾風はやて


私と同級生の18歳。幼馴染のようなものだ。


私は、すたすたと、長く続く廊下を早歩きで歩く。


「当然よ。何が黒神よ。あんな面倒な仕事ごめんだわ」


「そんな事言ったって、黒神っていう苗字を持つ者にはどうしようもない運命だろうが」


「それは…そうだけど。疾風は、どう?赤神してて」


私は、少し立ち止まって、聞いてみる。


疾風は少し照れたような表情をして、言った。


「俺は、結構楽しいよ。怨霊を浄化するってのはやりがいあるしな。まあ、成仏したら怨霊だった時の記憶とか全部無くなるから、後から感謝されることはないがな」


「ふーん…」


輝いた目でそう語る疾風を少し羨ましく思えた。


でも、知ってる。


お父様は、いつも傷ついて帰ってきた。


いつもにこやかに笑っているお父様だけど、浄化の仕事で出かけた後は必ずと言って良いほど怪我をしている。


とても、大変な仕事なんだって私は小さい頃から思っていた。


でも、お父様は、私に必死に、剣術、武術、魔術。全てを教えてくださった。


お父様も大変だって分かってたから、私も頑張れた。


全てを会得して、褒められたときは、どれほど嬉しかったものか。


でも、いざと黒神の仕事をやるとなったら、引いてしまう。


この前、お父様の仕事に一回付いていった時も、お父様は必死に、妖怪と化した怨霊を倒していた。


痛々しくて、見ていられなかった。


こんな状態で大丈夫なのだろうか。


私は、少し追い詰めた表情をしていたのか、


疾風は私の頭をなでた。


背の高くて強い、疾風は、いつも私を支えていてくれた。


お母様は、ある戦いで負傷し、寝たっきりで、私はいつも泣いていた。


お父様も、なかなか帰ってこない。


いつも一人だった私は、疾風と一緒に遊んで、自分を押さえていた。


疾風がいなければ、私は、ここまで強くなれなかったと思う。


明るい赤茶の髪。


燃える様な真っ赤な瞳。


少し疾風を上目で見つめていると、疾風はにこっと笑った。


「何だ?俺に惚れたか?」


私は顔を火照らせて、疾風の足を強くけった。


疾風は声にならない叫びを上げる。


「調子に乗らないでよっ。ただ…ちょっと感謝してただけよ」


私はぷいっと向きかえり、また歩き出す。


「何を?」


「私をいつも支えてくれていたから」


私はボソッと呟いた。


「え?何て?」


聞き返され、私はまた、思い切り、今度は疾風の足を踏んづけてやった。


「うるさいっ!」





私は自分の部屋に着き、部屋に付いてある魔陣に手を当てる。


すると、ガタッと扉が開く。


私の部屋は頑丈に、不審者が入らないように魔陣が張ってある。


「じゃ、俺、戻るわ」


「え?何のためにここまで来たの?」


疾風の部屋は、反対側のはず…。


私は首を傾げた。


「あ、聞いてなかった?何か、最近この城の周辺で、閻魔えんまが出たらしい」


閻魔えんまと聞き、私は身を震わせる。


閻魔。地獄の使い。


私たち、死神に反論する唯一の亡霊たちだ。


北の島国に潜んでいる閻魔たちは、私達でも倒すのに困難な強力な強さを持っている。


それも、いつも閻魔たちを操っている閻魔大魔王のせいだ。


お父様が言っていた。


――北の国には近づくな。あそこには、俺でも敵わないだろう魔王がいるんだ。


私はこの世界で一番強いのはお父様だと思っていた。


あのときの衝撃は、今でも残っている。


その、魔王に使える閻魔がこの周辺に出たということは、珍しい。


だから、怖いのだ。


何か、起こらないのか。


「だから、送らないと心配だし」


疾風は、眉を顰めて言った。


「そっか…疾風も気をつけて…ね」


「俺は大丈夫だっつのー!何にしろ、俺は赤神だぜ?」


疾風は、私の髪をくしゃくしゃとして、困った顔で言う。


私は、戸惑いながらも頷いてみせる。


「うん。じゃ…また後で」


手を振ると、疾風も、歩き出そうとする。


しかし、急に止まって振り返った。


「言い忘れてた。」


「え?」


少し間を空けて、疾風は笑顔で言った。


「ドレス、似合ってる」


かぁっと顔が赤くなるのが分かった。


「何言ってるのよ!!殴るわよ!」


私は、拳を作り前へ突き出した。


すると、見事に手は捕らえられ、


「ばぁか。お前、武術は俺の方が勝ってるぜ?」


満足げな顔で、疾風は偉そうな口調でいった。


「くっ…」


私は、歯を食いしばって、上目で疾風を睨んだ。


「おっと怖い。…じゃあな」


私の拳をはじき返し、そそくさに去っていった。


まだ、私は弱い…


これからだ。


お父様に、黒神の力を譲ってもらえれば、私は強くなれる。


お母さんもお父さんもこれ以上傷つかないでいられる。


心の奥底でそう思いながら、私はソファーに座り目を閉じた。








「黒姫…!黒姫……姫華起きろおおおおおおおおお」


雄叫びのような叫び声に、私はバチッと目を開けた。


久しぶりに、自分の名前を呼ばれたことにも驚く。


私の本名は黒神 姫華。略して黒姫といつも呼ばれている。


目の前には、疾風と、青神あおがみ 直樹なおきが居た。


「起きるのおせーよ…もう時間だぞ」


疾風は、私の体を起こして、額にデコピンをした。


「黒姫。髪がぐしゃぐしゃですよ」


直樹は、少し微笑んで言った。


「うはぁ…黒使は…?」


「ドアの前。黒使さーん!」


疾風が大声で叫ぶと、黒使は慌てて中に入ってきた。


「は、はいっ」


「黒姫の髪。直してあげてください」


「はいっ」


直樹に命令された黒使は、急いでポケットから櫛を出して、私の髪の毛を整える。


1分も経たずに、私の髪は艶やかな流れの髪になった。


「綺麗だね」


直樹はボソッと呟いた。


「そお?」


私は、満足げに、くるっと回って見せる。


「うん、じゃあ、行こうか」


疾風は、手を差し出した。


私は、その手をしっかりと握り締めて、部屋のドアを開けた。


不気味な静かさを漂わせる、城の廊下を歩いていく。


ドレスの裾が擦れる音が、さらに緊張を呼び起こす。


永遠と続きそうな廊下の出口が見えた。


どんな大男でも余裕で入れそうな大きなドア。


高級感を漂わせるドアを、疾風と直樹は両手でゆっくりと開ける。


ドアを開けると、そこには、城についている役人たちや、重要な役割に着く人たちが横に並んでいた。


「頑張れよ」


疾風はそう呟いて、私を押した。





皆、ドアが全部開くと共に、大きな拍手が沸き起こる。


私は裾を持ち上げてゆっくりとレッドカーペットを歩いていく。


レッドカーペットの行く先は、お父様も待っている王席。


お父様はこちらを見て微笑んでいる。


しかし、何故か、お父様の表情に、曇りが見えた。


「…?」


疑問に思いながらも、私は、お父様の前で跪き、頭を下げた。


それとともに、大きな拍手はピタッと鳴り止む。


「我が黒神姫華。黒神の遺伝をこれからに引き継ぐことをこの身に誓います」


今までしこたま教え込まれた言葉を告いだ。


「うむ。姫華…これから頑張るのだよ」


そっと手元に置いてあったティアラを、私の頭に乗せた。


そして、黒使に向けて指を内側に折った。


黒使は、頷き私にローブをかけた。


少し古みがあるローブに懐かしみを感じた。


今までの黒神たちが背負ってきたローブ。


この重みを今まで黒神たちは感じてきた。


もちろんお父様も。


「さぁ、姫華。左手の手のひらを出しなさい」


私は、そっと手を差し出した。


すると、お父様は、私の手のひらに、人差し指を突き出した。


「…っ!」


部屋中を、一気に黒い光が包む。


怖い…。


手のひらに這い蹲っている何か。


物凄い威圧を感じる。


これが、黒神の力…?


黒い光は段々と晴れていった。


少しづつ、閉じた瞼を開ける。


私の手のひらにあったのは


黒い紋章。


魔陣の中心に炎のしるし。


「これで、黒神の力は、私からお前へと移った」


「これが…黒神の紋章…」


不思議な感覚に捕らえられ、何故か気が狂いそうでしょうがなかった。


私はその重みに胸を押さえつけ悶えた。


「ぐっ…」


苦しい…息がつまりそう…


私はガタッと体が倒れた。


「おいっ大丈夫か!?」「大丈夫ですか!?」


疾風と直樹が、私の体を支えた。


この紋章の威圧に押されそう…


自分が自分でなくなりそうで、怖い…


必死に理性を失わないようにと悶えた。


すると、王席の後ろに、人影が、一瞬見える。


白銀の髪。


深い海のような目。


あれは…


「優…!」


彼は、奥へと歩いていく。


「優…待って…」


私は優へ手を突き出す。


でも届かない。


体が動かない。


優は、私と寂しさをともに分かち合ってきた幼馴染。


白神しろがみ ゆう


いつも一緒にいたのに、最近は、両方忙しくて喋ることも会うことさえも、ほとんど無かった。


私も、継承式の準備や、お父様の仕事についていくとかで、優に会えなかった。


優も白神の仕事で、なかなか都合が合わなかった。


もう半年ほどちゃんと喋れていない。


でも、忙しくなり始めたとき、


優から話しかけてくれたのに、私は、ごめんとだけ言って、無視してしまった。


あの時、一瞬だけ見せた優の悲しそうな表情が頭から離れなくて。


それからというもの、会っても目も合わせられなかった。


「優…」




息を荒げていると、不意に、


ガシャァァァァン


大きなガラスの割れる音が部屋中に響き渡った。


「キャァァァァァ」


女の人の叫び声が響き渡る。


何…?


上を見上げると、上の窓ガラスが無残に割れていた。


「え…?」


黒い雲が黙々と入ってくる。


お父様は、慌てて空中に飛び立つ。


疾風と直樹もお父様について、出て行く。


部屋は、あっという間に戦場の空気に変わった。


皆は逃げ惑い、叫び、わめく。


私はただ恐怖に煽られるだけだった。


すると、上から、大人数の誰かが入ってくる。


黒い服。不気味な笑み。


「閻魔…!?」


私は、ぞっと身の毛が立つ。


閻魔…。


私のお母様を傷つけた奴等。


まだ傷つけるというの?


私に向かって勢い良く飛んでくる。


「嫌…っっ」


体を動かそうとしても動かない。


閻魔が目の前にまで迫ってきたそのとき、私は、思わず目を瞑った。


もうダメだ。


そう思ったとき、何の感覚もなく、私はそっと目を開けた。


そこには、刃が睨みあう嫌な音が鳴り響いていた。


私の目の前で優が立ちはだかっていた。


「馬鹿か…。さっき黒神になったばっかなのに、なんだその様は…」


低くて冷たい声。


暴言混じった言葉は、いつも通りの優だった。


そう、私は黒神だ。


いつの間にか、私の体は動けるようになっていた。


バッと立ち上がり、優の背後に着く。


そして、左手の手のひらを、左目に這わせる。


「真の死神よ――!私に力をちょうだい!」


祈りながら、私は左手に力を入れた。


左目に何かが入っていく。


そっと左手を下ろしていくと、


ガラスの破片に移った私の姿に驚いた。


深く赤い目。


まるで血に飢えているかのような左目に私は驚いた。


これが…黒神の本性。


体の奥の方から力が漲ってくる。


この威圧…


私は左手に黒い炎の渦を作る。


次第に大きくなっていく炎を閻魔に向けた。


「放て――!!」


そう言った瞬間に眩い光が周辺を包む。


「まだ来る」


後ろで、優は鋭い視線を閻魔に向ける。


「分かってる」


目の前には、灰になった閻魔たち。


さらに、私は魔剣を出し、次々に迫ってくる閻魔たちを切っていく。


「キリがない」


優は、不意に呟いた。


「だね。どうする?」


「やるか」


私達は目をあわせて、頷いた。


両手を上に掲げて、両方、炎を作り出す。


私は黒い炎。優は白い炎だ。


「「焼き尽くせ!!」」


共に放った炎は、強烈な風を吹き上げながら、次々と閻魔を焼き尽くしていく。


静寂に戻った部屋。


私は安心したのか、一気に力が抜けて倒れた。


バッと優が私を抱きかかえる。


「ごめん…」


意識が朦朧とする中で、私は呟いた。


優は優しく微笑んで、私をギュッと抱きしめた。


「無事でよかった」


私の耳元で囁かれた言葉に、私は頬を赤くした。


私を抱きかかえて、すっと立った優は、バッと後ろを振り返る。


「…どうしたの?」


私を、またそっと降ろして、前に視線を凝らせる。


「…殺気がする」


その声と、共に目の前に黒い霧が現れる。


「…何!?」


あまりの威圧感に、私はガクッと膝を落とす。


「お前は…」


優は、顔を歪めた。


「次期黒神…黒神姫華。思った以上の力だ」


男は怪しげな笑みを浮かべながら呟いた。


「誰…?」


黒い服をまといながらも、黒と青が混ざったような群青色の眼をぎらつかせる男。


何故か、物凄い殺気を感じる。


そして、意味深な感情を持つ。


私…この人を知っている気がする。


でも、気のせいだと私は心に言う。


しかし、本当に怖い…。


整いすぎた綺麗な顔立ちも、ここでは恐怖を呼ぶだけだった。


そっと、私の元へと忍び寄ってくる。


「近寄るな!!!」


優は、私の前に出て、立ちふさぐ。


「その目…白神か。雑魚が出しゃばるな。俺が用があるのは、黒神の姫だけだ」


バッと優から白い炎が巻き上がる。


優が炎を放とうとすると、男は笑みを浮かべた。


「弱い」


そう呟いて、男はバッと黒い炎を優にぶつける。


「やめて――っ!!」


言うまでも無く、優はバタッと倒れてしまう。


何で、私の大事な人を傷つけてしまうの――?


憎悪に満ちた心を抱きながら、私はすっと立ち上がる。


「黒姫っっ――!」


後ろから、疾風の声がする。


「来ないで!」


私は声を張り上げた。


そして、私は、男を睨む。


しかし、男は澄ました表情。


一歩、二歩と私に近づいてくる。


そして、私の手を取り、引き寄せた。


そして――私をぎゅっと力強く抱きしめた。


「やめっ…」


「やっと会えた…」


男は、私の耳元で呟く。


優しい声。


そして体を離して、男は跪く。


「覚えていらっしゃいますか。閻魔星也――。我は閻魔大魔王です」


閻魔大魔王――


私が知ってるはずもない。


それに、私の大事な人を傷つけた奴には違いない。


冷酷な目で、私は魔王を見つめる。


「姫華…!ダメだ!」


お父様の声が聞こえる。


だけど、私は止められない。


「優を傷つけた代償は重いから」


そう呟いて、私は魔王の首に手をかけた。


今にもはち切れそうなこの感情をどうしてくれようか。


「姫華に俺は殺せないよ?」


まるで、初めて喋った人のようには思えない口ぶりだった。


今日、初めてあったはずなのに、何故か懐かしみも感じられる。


その群青色に輝く目。


何故か知っているような気がする。


魔王と私に何か関係あるのだろうか。


でも、たとえ、私と魔王の間にどんな縁故があろうと関係ない。


私は、こいつを許せない。


その見下すような眼差しにさらに怒りがこみ上げる。


首をへし折ろうと力を入れようとした、その時、


私の手からスッと首が抜けた。


そして、私の目の前に魔王の顔が近づいてくる。


私の顎に手をつけた魔王は怪しい笑みを浮かべた。


「姫華…忘れちゃったの?」


後ろから、数々の声が遠くに聞こえる。


私の耳には、魔王の声しか聞こえない。


「何…言ってるの…」


「本当に忘れちゃったんだね。残念だよ」


本当に悲しそうな顔をする。


何で、この人は私を知っているようなことを言うの?


会ったことがあるって言うの?


しかし、考える暇もなく、すぐに現実へ引き戻される。


「姫華は…俺の嫁だ」


いきなりの発言に、私は目を見開いた。


「嫁…?」


意味が分からなくて、私は頭が混乱する。


「俺たちは、今まで死神の奴らに虚仮にされてきた。その屈辱は計り知れない。地獄が存在して何が悪い」


そう――。


もう、この死界には、悪い霊に罰を与える閻魔。地獄は必要なくなった。


それも全て、死神が、この世界を支配したからだ。


それを、この人は恨んでいるんだ。


「世の中の隅っこで生かされて何が良い。姫華。お前なら分かってくれるだろう?」


「……」


私は何も言えずに立ち竦む。



「僕達は、仲間だろ?―…だからこの薄汚れた世界を変えよう」


魔王は、私に手を差し出す。


私は、すぐにその手を引き叩く。


「ふざけないで!私は、この世界を変えようだなんてちっとも思っていないわ!!あなたも不憫に思うけど…私はこの世界を愛してる!…――そうよ!一緒に暮らしましょう…?」


すると、魔王は、ふっと嘲笑した。


「共に暮らす…?お前こそふざけるな!そんなの真っ平ごめんだな。俺の仲間を殺した奴らと一緒に暮らすなんて、反吐がでる」


「…っ!」


あまりの言い草に、私は顔が引きつる。


「もういい…姫華」


優が、体をゆっくりと起こして、私の肩を掴む。


「優っ!大丈夫なの?」


こくんと頷いて、優は、魔王に目を向ける。


すると魔王は、嘆息する。


「今日のところは引くが…これから無事でいられると思うな」


そう言って、魔王は空へ飛び立っていく。











「私は、あなたのことなんて…知らないわよ…」


頭が混乱する。


次第に脳が痛くなってくる。


脳の、もっと奥深くに…。


私の忘れてしまった記憶がある気がする。












嫌。






嫌。







嫌。



「ウアアアアアアアアアアアアアアアア」


私は頭を抱えて叫んだ。


心の深くにある暗雲を吐き出すかのように。


誰だろうか知らない。


だけど。


もうこれ以上、





傷つけないで。






壊さないで。


「いや…怖い…」


私は、ガクンッと倒れこんで、優に支えられる。


皆が走りよってくる音がする。


大丈夫?って声が聞こえる。


だんだん遠くなっていって…


そして


聞こえなくなっていった。































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