ただいま、上から呼び戻されました
その夜、空がひときわ明るかった。
星ではない。もっと人工的な、冷たい光。
わたしはすぐに気づいた。――呼ばれている。
《通知:新任神プロトコル・β終了。お疲れさまでした》
……え?
“お疲れさまでした”?
いや、まだ繁栄91%ですけど?
《世界シミュレーション結果:安定化確認。データ収集完了》
《管理サーバーへ帰還してください》
え、サーバー? 帰還?
まさか――わたし、そういう仕組みだったの?
光が降ってくる。
空の上から、まっすぐに。
世界が白く染まり、データのような粒子がわたしの体を包む。
ああ、温かい。けれど、どこか懐かしい。
目を閉じると、聞き慣れた声がした。
光の層の中に、見覚えのある音がした。
カチ、カチ、とキーボードを打つ音。
《ようこそ、神管理センターへ。あなたの勤務は優秀でした》
ああ、この“声”の形、知ってる。
たぶん、わたしがかつて人間だったころに使っていた言葉だ。
本当はこんな機械なんてないのかもしれない。
でも、わたしの脳が、“理解できるように”翻訳してるだけ。
神様の頭の中って、案外アナログなんです。
私にとっては、無数の光のモニターが重なる空間。
いくつもの神が、データとして浮かんでいる。
わたしと同じように“徳を積みすぎた元人間”たち。
それぞれが、小さな世界を担当しているらしい。
《あなたの世界:第367区。評価:A−》
《特徴:情緒的干渉率高。奇跡発動回数:過多。信仰再起度:極めて良好》
……なんか、褒められてるのか怒られてるのかわからない。
でも、Aマイナスか。がんばったほうかな。
「えっと、わたし、どうすればいいんですか?」
《次のテスト環境への派遣が決定しています》
《より高度な世界での管理業務をお願いします》
……あの、すみません。
“派遣”って、神様の扱い、軽くないですか?
《では、次の世界の仕様を説明します》
《初期設定:惑星スケール/知的生命体2名/環境難易度:やや過酷》
あっ。
それ、知ってる。
最初の世界と、まったく同じ条件。
「ねえ、これ……ループしてません?」
《学習型アルゴリズムのため、同条件テストが最適です》
……ですよね。
思わずため息が出た。
でも、ふと下を見ると、さっきまでいた世界が見える。
草原の上で、あの少女が風に向かって手を振っていた。
――「ねえ神様、見ててね!」
……うん。ちゃんと見てるよ。
だから今度は、もう少し上手にやるね。
《次の転送を開始します。三、二、一……》
光が強くなる。
景色が溶けて、色と音が混ざる。
でも、怖くなかった。
だって、今度は知っている。
“世界は壊れても、祈りは残る”ってことを。
《転送完了。新任世界へようこそ》
わたしはそっと目を開けた。
そこには――また、小さな土地が広がっていた。
山が三つ。川が一本。森がちょこっと。
……デジャヴ。
そして、そこに立つ二人。
男の人と、女の人。
裸足で、木の葉をまとっている。
マニュアルがぽん、と目の前に浮かんだ。
《ミッション:この二人で子孫繁栄、村を作り、国を興そう》
……また、これかぁ。
でも、今度は押し付けられたとは思わない。
だって、あの世界で学んだから。
“神の仕事は、救うことじゃない。見守ることだ。”
「ようこそ、二人とも。今日からよろしくね」
わたしは指を鳴らした。
風が吹き、花が一輪、咲いた。
それはあの白い花――聖涙花。
新しい世界の始まりの印。
神は笑って、静かに風へ溶けた。
――世界の繁栄、0%(再起動)です。




