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【完結】今日から神様。〜神の指で世界繁栄実況中!〜  作者: 遠野 周


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8/11

神、消える(ように見える)

 どれほどの時が流れたのか、もう誰も覚えていない。

 かつて百人ほどだった村は、いくつもの集落に分かれ、

 そしてそれぞれが国のような形になっていた。


 人々は、星を見て季節を知り、

 風を読んで収穫を予測する。

 神の奇跡を知らない世代が、もう何代も続いていた。


 空には、ただ風が吹いている。

 けれど、誰もそれを「神の息」とは呼ばない。

 祈りは風習になり、風習は伝承になった。


 《時代進行:+300年》

 《信仰値:0(再計測中)》


 ……静か。

 ほんとうに、静か。

 でも、嫌な静けさじゃない。

 人が自分の手で生きている音が、ちゃんとする。


 わたしはもう、ほとんど声を発していなかった。

 奇跡も起こしていない。

 見守るだけ。

 それでも、世界はちゃんと動いている。


 ある日、北の丘でひとりの少女が風に髪を揺らした。

「ねえ、おばあちゃん。神様って、本当にいたの?」

 年老いた女性――巫女の家系の末裔が、微笑んで答えた。

「ええ、いたのよ。

 でも、今はもう姿を見せないの。

 神様は、世界が自分で歩けるようになったら、静かに遠くへ行くの」


 少女は首をかしげた。

「でも、たまに風がふわって吹くの。

 なんか、撫でられたみたいで、ちょっと嬉しいの」

「それはね、きっと神様がまだ見てくれてる証拠よ」

「……じゃあ、いまもいるの?」

「そうよ。いつだってね」


 少女は笑って、空に手を伸ばした。

 ――あ、届くかもしれない。

 そんな気がした。


 《センサー感知:新規信仰反応+1》


 わたしは思わず笑ってしまった。

 ひとつの小さな心が、風の中に灯った。

 それだけで、世界のどこかに光が差す。


 少女は花を摘んで丘の上に置いた。

 その花は、聖涙花によく似ていた。

「ねえ神様、見ててね。わたし、頑張るから」


 ……うん。見てるよ。

 ちゃんと見てる。


 その瞬間、長く眠っていたデータが動いた。

 《信仰値:+3》

 《自律進行度:28%》


 ……三百年ぶりの信仰値。

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。

 奇跡も、言葉も、何もいらない。

 ただ誰かが「見てて」と言ってくれるだけでいい。


 夜。

 少女の家の灯が消え、世界はまた静かになった。

 風が丘を渡る。

 その風の中に、わたしは小さく笑って呟いた。


「まだ、ここにいるよ」


 《システムメッセージ:信仰再起動確認》

 《世界安定率:91%》


 神殿は朽ち、祈りは途絶えた。

 けれど、誰かの心の中で、まだ息をしている。

 それなら、それで十分。


 神、ただ微笑む。

 ――世界の繁栄、91%です。

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