しゃべるのやめてみた。案外うまくいってる。
――音が消えた。
嵐のあと、世界は嘘みたいに静かでした。
風の音も、祈りの声も、もう聞こえない。
わたしは空の上で膝を抱えていました。
世界は半分、水と泥に沈み、村の痕跡はほとんど消えていた。
それでも、煙がひとすじ立っている。
生き残った人たちが、火を焚いていた。
「神様……」
その声は、もう叫びではなく、呟きのようだった。
悲しみも、恐れも混ざっていない。
ただ、祈るという習慣だけがそこに残っている。
わたしは答えようとしたけれど――やめた。
《奇跡発動確認:天候調整? はい/いいえ》
……いいえ。
もう、わたしは何も触らない。
助けることが、時に壊すことになると知ったから。
奇跡を止めた神は、ほとんど無力。
けれど、初めて“人の時間”を感じるようになった。
夜。
生き残った家族たちが、小さな火を囲んでいます。
「昔、神様が涙を流したんだって」
「その花がまだ、川の底に咲いてるらしいよ」
「じゃあ、きっと怒ってないね」
そう。怒ってなんかいないよ。
泣いただけ。ただ、悲しかっただけ。
マップを拡大すると、あちこちに小さな光。
それは焚き火ではなく、村の跡で生まれた“種”。
荒れた土地から、緑がぽつぽつ芽吹いていた。
《自律再生プログラム起動》
《自然環境:回復中》
人が手放した場所を、自然が静かに取り戻していく。
人の声が減るほど、世界の音が増えていく。
虫の声、風の音、土の息。
……ああ、これ、前世でも聞いた音だ。
夏の夕方、窓を開けたときの、あの静けさ。
なんにもしてないのに、世界がちゃんと回っている感じ。
――神の沈黙は、罰じゃない。
人が立ち上がるための、余白なんだ。
そう気づいたとき、胸の奥が少しだけ温かくなった。
信仰の味が、また“甘い”に戻った気がした。
《信仰値+8(静寂信仰)》
……あ、こんな項目あったんだ。
日が経つごとに、人々は小さな集落を作り始めた。
壊れた神殿の石を積み直して、今度は中央を空けた。
「神様はここにはいない。でも、見てくれてる」
――すごい。まさか、“不在の祭壇”を作るなんて。
誰もわたしを形にしない。
誰も、願いを取引にしない。
ただ「ありがとう」を、風に乗せるだけ。
《文明ランク:6(再生期)》
《人類自律進行度:21%》
……あ、上がってる。
わたし、何もしてないのに。
むしろ“何もしなかった”からこそ、上がったのかもしれない。
夜、ひとりの老人が星を見上げてつぶやいた。
「神様は、遠くへ行ったんじゃなくて、見守ってくださってるんだろう」
それを聞いていた子どもが、笑って言った。
「じゃあ、神様、ちゃんと見ててね!」
うん。見てるよ。
ちゃんと。
わたしは、その声を聞きながら、久しぶりに笑った。
《システムメッセージ:世界安定率73%》
《呪詛レベル:鎮静化》
静かな夜。
奇跡は止まり、祈りも小さくなった。
けれど、この世界の呼吸がようやく穏やかになった。
神、今日も奇跡を封印中。
――世界の繁栄、21%です。




