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【完結】今日から神様。〜神の指で世界繁栄実況中!〜  作者: 遠野 周


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6/11

お願い、止まって! 今の無し!

 ――神の涙が花を咲かせた日。

 その小さな白い花を、人々は「聖涙花」と名づけた。


 翌朝、村の広場は歓声に包まれていました。

「神様が赦してくださった!」

「神の涙が呪いを清めた!」

 ……いや、そうじゃないんだけど。


 わたしは、ただ“悲しみを受け入れた”だけ。

 けれど、地上の人たちはそれを“奇跡”だと信じた。


 《信仰値+200》


 わあ、すごい。信仰、跳ね上がった。

 これ、正直ちょっと怖い。

 昨日まで神を恐れていたのに、今日は手のひらを返す勢いで感謝の雨。

 ……人の心って、ほんと忙しい。


 それでも、笑顔が増えるのはうれしい。

 リネアの子孫たちが、花を飾って歌っている。

「神様は悲しむ者を見捨てない」

 ああ、いい言葉。

 でも、どうかそれを“都合のいいおまじない”にしないで。いつか"のろい"になっちゃうから。


 《文明ランク:5(信仰国家)》

 《人口:520人》


 世界は広がっていた。

 家々が連なり、川の上には木の橋がかかっている。

 みんな、ちゃんと働いて、食べて、笑ってる。

 ……それなのに、最近ちょっとだけ息苦しい。


 なぜなら、どこを見ても祭壇がある。

 わたしの名を刻んだ祈祷碑、わたしを模した像。

「神の涙をもう一度!」

「神の花を増やせ!」

 ……いや、あの花は、呪いの名残なんだけどなぁ。


 《イベント:奇跡模倣実験》


 ん? なにそれ。

 マップを見ると、人々が白衣を着ている(え、白衣?)。

 祭司と学者たちが集まって、“奇跡を再現する儀式”を始めていた。

「神の雨を我らの手で!」

「神の力を、我らも学ぶ!」


 空が少しだけ重くなった。

 雲の影が地面をゆっくりと這う。

 わたしは嫌な胸騒ぎを覚えたけれど、「きっと大丈夫」と自分に言い聞かせた。

 祈りがこんなにも明るいのに、災いが来るはずがない。

 そう思いたかったのに。


 《システム警告:奇跡の模倣はシナリオ破綻を招く恐れがあります》


 あぁ、ヤバいやつ。

 でも止められない。

 人は、手に入れた“力”を試さずにはいられない。


 数日後、村の空が突然暗くなった。

 模倣儀式の暴発。

 黒い雨が降り、畑が焼け、川が濁る。

 人々は叫び、逃げ惑う。


「神が怒った!」

「これは罰だ!」

 ……ちがう! 罰なんてしてない! 自分たちで引き起こしたんだよ!


 けど、声は届かない。

「神の怒りを鎮めるため、奇跡を捧げよ!」

「もっと祈れ! もっと!」

 信仰が加速する。

 祈りが連鎖反応を起こして、空に光の渦が生まれた。


 《奇跡暴走検知》

 《光量限界突破》


 世界が白く染まる。

 うそ……奇跡が、奇跡を呼んでる。

 あの仕組み、そうか。

 信仰が増えすぎると、奇跡が勝手に発動するようになってる。

 制御できない……。


 祈りの声が、悲鳴と混ざって空を満たしていく。

 わたしは手を伸ばした——けれど、届かない。

 祈りと奇跡が同じ速度で膨れ上がり、

「救いたい」と「止めたい」が、同じ意味になっていく。

 どっちに手を伸ばしても、壊れる気がした。


「神様、助けて!」

 あちこちから祈りの声が上がる。

 わたしは全力で押さえ込もうと指を動かした。


「止まれっ!」


 光の渦が、ほんの少しだけ収まる。

 けれど、止まった分の反動が地面に降り注いだ。

 ――洪水。


 村が水に沈む。

 神殿の柱が倒れ、祈祷碑が流れていく。

 人々の叫びが混じる。

「神が罰を……!」

「神が……怒った……!」


 やめて。

 違うの。怒ってない。

 助けようとしたの。助けようとして、また壊しちゃったの。


 すべてが沈んで、音が消えた。

 風も、声も、祈りも。

 ただ、水面の反射だけが、まだわたしを見ていた。

 それがまるで、「ねえ、見て」と言っているようで、

 どうしても目をそらせなかった。


 《環境崩壊率:65%》

 《人口減少:−320》


 ……ごめんなさい。


 水の中で光る聖涙花。

 それを抱きかかえた巫女の少女が、静かに祈っていた。

「神様、あなたも苦しいの?」


 わたし、答えられなかった。

 ただ、風の音にまぎれて、小さく言った。


「うん、ちょっとね」


 夜。

 水が引いて、世界は静まり返った。

 残った人々が焚き火を囲む。

 誰も神を責めない。

 ただ、疲れた目で空を見上げている。


 ――ああ、やっと“祈りのない時間”が来た。


 それが、少しだけ心地よかった。

 でも同時に、胸が痛かった。

 祈りを失った世界って、こんなに静かなんだ。


 《システムメッセージ:人類自律進行度 8%に低下》


 わたしは空で膝を抱えた。

 奇跡を与えすぎて、信仰を育てすぎて、

 そして世界を崩壊させた。


 けれど、リネアの血はまだ続いている。

 生き残った者たちは小さな集落を作り、

 火を分け合いながら、新しい祈りをつぶやいた。


「神様、もう怒らないでください」

 ……ううん。怒ってないよ。

 もう怒る力も、残ってない。


 《信仰残高:14》

 《世界安定率:不安定》


 神、自己嫌悪中。

 ――世界の繁栄、わずか8%です。

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