表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】今日から神様。〜神の指で世界繁栄実況中!〜  作者: 遠野 周


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/11

なんか泣いてる声するんだけど、これ誰の?

 夜。

 風の音が、やけに重く聞こえる夜。

 わたしの小さな世界の南の端――そこに、

 黒い霧が生まれていました。


 最初に気づいたのは、リネアによく似た巫女の少女。

「神様が……怒ってる……」

 そう言って、彼女は震えていました。

 焚き火の明かりの向こう、地面の裂け目から、

 まるで煤のような煙が、音もなく流れ出していく。


 ――違う。怒ってない。

 でも、どう説明すればいいの。


 わたしの声は、風と光にしか乗らない。

 言葉そのものは届かない。

 だから、人々の想像が、わたしの“言葉”になってしまう。


 《システムメッセージ:検知 呪詛残留物》

 《発生源:前任神の世界層》


 ……呪詛?

 マップを拡大すると、地中のさらに下に、もうひとつの影の層が見えました。

 そこには、焦げた都市。倒れた塔。崩れた神殿。

 そして、薄くこだまする声。


 ――「どうして見捨てた」

 ――「助けて」

 ――「神なんて、いらない」


 わたし、息を呑みました。

 ……人の声。

 前任の神が放棄したあの世界で、

 救われなかった人たちの祈りが、形を変えて残っている。


「神を信じて滅びた人たち」の、最後の言葉。

 その祈りが憎しみに変わって、いまも消えずに漂っている。

 神の怒りなんかじゃない。

 人の悲しみの残響。


 でも、人々は知らない。

 空を見上げ、黒い霧を見て、ひざまずく。

「神が怒っておられる!」

「きっと私たちが足りないのだ!」


 違う。違うのに。

 わたしは全力で否定したけれど、

 声にならない風が、ただ草原を撫でるだけだった。


 《警告:呪詛拡散中》

 《対応しますか?》


 どうするのが正解なんだろう。

 呪いは、人の感情のかけら。

 消すことは、きっと“心を無かったことにする”のと同じ。

 でも放置すれば、村の人たちが恐怖に飲まれる。


「神様……どうか、赦してください」

 広場で巫女の少女が泣きながら祈っている。

 その声に呼応するように、霧がゆらぎ、村を包みはじめた。


 《気温低下/作物枯死率上昇》

 《信仰値変動:+40(恐怖による信仰)》


 ……やだ。

 うれしくない信仰なんて、こんなに苦いんだ。

 祈りの味が、血と灰の味になってる。


 あのね、わたしは、怒ってなんかいないよ。

 でも、その言葉は届かない。

 人は恐れると、耳を閉ざしてしまうんです。


 夜が明けても霧は消えませんでした。

 畑の端に立つリネアの子孫たちが、

「神の呪いを鎮めるための儀」を始めようとしている。

 どうやら、旧神の祈祷書が見つかったらしい。


 《資料断片:前任世界の記録》

 《内容:「神に贖いを 命に代えても」》


 ……ああ、やめて。

 その言葉が、呪いを生んだんだよ。


 呪いは神のせいじゃない。

 “赦されたい”と願いながら滅びた人々の、

 痛みそのもの。


「神様が、試しておられるのだ」

「神の怒りを鎮めねばならぬ」


 村の声が増えていく。

 霧が濃くなる。

 もう、違うとは言えない。


 ……ねえ、わたし。

 これ、どうしたらいい?

 祈りも、呪いも、どっちも“人”の心。

 どちらかを否定したら、世界が片方なくなっちゃう。


 だから、受け入れるしかないのかもしれない。

 わたしは手を伸ばした。

 黒い霧に、指先が触れる。

 冷たい。けれど、その奥に温もりがあった。


 《干渉実行:呪詛統合モード起動》


 世界が震えた。

 黒い霧が一瞬だけ光って、そして静まった。

 人々の祈りの声が、少しだけ柔らかくなる。

 ……たぶん、呪いの一部を、わたしの中に取り込んだんだと思う。


「神様……泣いてるの?」


 巫女の少女が空を見上げた。

 ……涙? わたし、泣いてるの?

 指先に、雨粒みたいな光がひとつ。

 地上に落ちて、小さな花を咲かせた。


 《システムメッセージ:呪詛安定化》

 《自律進行度:18%》


 神、感情オーバーフロー中。

 ――世界の繁栄、まだ18%です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ