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【完結】今日から神様。〜神の指で世界繁栄実況中!〜  作者: 遠野 周


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3/11

奇跡ポイント、思ったより減りが早い

 朝日が、ゆっくりと地平から昇ります。

 空気が澄んでいて、風がやさしい。

 アリオスとリネアは、石の祭壇の前で並んで立っていました。

 もう、あの小さな世界にも朝の習慣ができてきたらしい。


「おはよう、神様」

「今日も一日、どうか見守ってください」


 ……うん。おはよう。ちゃんと聞こえてるよ。

 でもね、あなたたち。わたし、神様って言われると、まだ少しくすぐったいの。


 《システムメッセージ:信仰値 累計+17》

 ……あ、また増えた。すごいなあ。最近の伸びがいい。

 あれ、マップの端っこに新しい小屋ができてる。

 あの二人、器用だなぁ。道具も作れるようになってきたんだ。


 《文明進化段階:0→1 (原始→初期集落)》


 おお、文明ランクアップ。おめでとう!

 やっぱり、見てると人ってちゃんと工夫する生き物なんだな。

 火、住居、狩猟。

 マニュアルにも書いてある通り、“奇跡に頼らず発展できる”のが理想らしい。


 ……理想ね。

 でも現実、けっこう助けちゃってる。


 最近、よく天気が荒れる。

 干ばつ。嵐。地面のひび割れ。

 わたしが「晴れてー」と思うと本当に晴れるから、

 ついポチッとやってしまうんです。


 《奇跡発動:天候調整 信仰値−15》


 あー、また減った。

 この世界、信仰が通貨みたいに扱われてるんですよ。

 人が祈るとポイントが貯まって、

 奇跡を使うと減る。

 ちょっと銀行口座みたいな気分。


 でも、うれしい。

 リネアが祈るとき、ほんとうにやさしい音がする。

 あの人の祈りは、ただの願いじゃない。

 誰かを想って、ちゃんと「ありがとう」って言葉が乗ってる。

 それが届くと、胸がぽっと温かくなるんです。


「神様、今日は狩りがうまくいきますように」

「子どもが生まれますように」

「雨が、もう少しだけ降りますように」


 ……ね、そういう祈りなら、聞いてあげたくなっちゃうでしょ?


 だから、ちょっとだけ。

 雨の調整ボタンを、軽く、ぽちっ。


 《奇跡発動:小雨生成 信仰値−3》


 やさしい雨が降り始める。

 リネアが空を見上げて笑う。

「神様が応えてくださったわ!」

 ……うん。まあ、ちょっとだけ、ね。


 アリオスたちは、雨を喜んで畑を耕し始めました。

 ――畑! すごい! 文明の芽だ!

 マニュアルのページをめくると、「農耕による自給自足」って項目にチェックがついてる。

 えらい。ほんとにえらい。


 《文明進化段階:1→2(農耕社会)》


 わたし、ちょっと泣きそう。

 ……でも同時に、信仰値がじわじわ減ってる。


 《現在信仰残高:31》

 あれ? さっき60くらいあったのに。


 《備考:生活安定により祈り頻度が減少中》

 あ、そうか。便利になったから、祈らなくなったんだ。


 うーん。これはこれで、ちょっと寂しい。

 でも、仕方ないですよね。

 人って、困ってるときほど一生懸命祈るんだもん。

 幸せなときは、「もう大丈夫」って思うのが自然だもんね。


 それでも、リネアは朝と夜だけは必ず祈る。

 彼女がひざまずくたび、世界が少し柔らかく光る。

 その光で、わたしは“味”を感じるようになってきた。


 甘いとき、しょっぱいとき、苦いとき。

 信仰って、感情の味がするんです。

 祈りを味わうたびに、前世の記憶の片隅がくすぐられる。

 ――あの頃、わたしも誰かの幸せを願ってた気がする。

 小さな子の弁当を作って、「美味しく食べてね」って笑ってたような。

 そんな優しい記憶の温度が、ふっと戻る。


 ……あれ。

 もしかして、前世で“徳を積みすぎた”って、こういうこと?

 ああ、なんか、納得した気がする。


 《システムメッセージ:人口増加中》

 《現在人口:12人》


 おおっ! すごい! いつの間に!?

 アリオスとリネア、すごい勢いで子孫繁栄してる!

 えらい! マニュアル通り!


 新しい家族たちが生まれ、焚き火の数が増え、村っぽくなってきた。

 子どもたちが遊びながら笑ってる。

「神様、みてて!」って言いながら石を積み上げて。

 かわいい。うれしい。

 ――でも、ああ、ちょっと複雑。


 信仰値が、やっぱり減ってる。

 《現在信仰残高:18》


 笑顔が増えるほど、祈りが減る。

 奇跡を起こす余力も、少しずつなくなっていく。

 これ、バランス的にどうなの。


 《アドバイス:神の干渉を抑えると、自然に信仰が戻ります》

 あ、マニュアルから自動メッセージが。

 ……そうか。助けすぎないことが、信仰の育つ土壌なんだ。


 でも、それってなんだか残酷。

 人が困ってるのを見て、手を出しちゃいけないなんて。


 その夜、嵐が来ました。

 風が強く、木々が倒れ、子どもが泣いています。

 わたしの指が震える。

 助けたい。助けたい。


 《奇跡発動確認:暴風抑制? はい/いいえ》


 ……だめ。今は、我慢。

「いいえ」を選んで、目を閉じました。


 風が吹き荒れて、焚き火が消える。

 アリオスが子どもを抱きかかえる。

 リネアが叫ぶ。「神様、どうか!」


 ……聞こえる。聞こえてるよ。

 でも、今は。今だけは。

 わたしが手を出したら、きっと、あなたたちの“力”が育たない。


 ――夜が明けました。

 村はぐちゃぐちゃ。家は倒れ、畑も荒れた。

 でも、みんな生きてる。


 リネアが立ち上がる。

「神様は、きっと私たちを信じてくださったのね」

 ……そう。そうだよ。信じてた。ちゃんと。


 《システムメッセージ:人類の自律進行度 5%》

 《文明ランク:3(信仰体系成立)》


 ――世界の繁栄、まだ5%です。

 でも、今日の朝日は、やけにまぶしかった。

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