目を離すとすぐに死ぬ
世界、静かです。
夜明け。空がうす桃色になって、風がそよそよ吹いています。
火のそばで寄り添って眠る二人。アリオスとリネア。
見てるだけで、なんか幸せ。ほんわかしますね。
でも、問題がひとつ。
……食料が、ない。
果実は昨日全部、供物にされてしまいました。
いや、気持ちはうれしかったんですけど。あれ、あなたたちの晩ごはんでもあったのでは。
《環境メモ:現在、狩猟・採集チュートリアル段階です》
あ、はい。チュートリアルね。なるほど。
でも、この辺、草原と沼地ばかりで動物いないんですよ。どうすんのこれ。
アリオスが立ち上がりました。木の枝を拾って、先を尖らせています。
おお、槍作った。えらい! 原始人、優秀!
「神様、見ててください」
……あ、しゃべった。ちょっと感動。
リネアは後ろで祈っています。
「アリオス、気をつけて」
うんうん、夫婦っぽいなぁ。かわいい。
……いや、まだ夫婦じゃないけど。いや、その、初期ペアだからいずれは、ね。
アリオス、森へ。
リネア、手を合わせて祈る。
わたしは雲の上から、そっと見守ります。
……三十分後。
《ログ:捕食者イベント発生》
えっ。
やな予感。
マップを拡大すると――いました。でっかい狼みたいなの。
アリオス、全力で走ってる! やめてー! そっちは沼ーっ!
――ばしゃ。
……沈みました。
沈んでいきました。
え、ちょっと待って、また!? まだ二日目だよ!?
《死亡確認:アリオス》
神、頭を抱える。
ほんとごめん。見守るの、遅れた。
リネア、崩れ落ちる。泣いてる。叫んでる。
ごめん……ほんとごめん……。
――だがここで学んだ。
「祈り」は、悲しみの中で一番強く光る。
リネアの祈りが空を貫いてくる。
信仰値、ドカーン。
《信仰値+48》
え、48!? これ、何日分!?
泣かせちゃってるのに、ポイント入るの、なんか罪悪感すごい。
でも……助けられるかもしれない。
また、復活のボタンを見つめて、わたしは指を伸ばした。
《注意:死者の蘇生は推奨されません》
《警告:世界構造に矛盾が生じる恐れがあります》
知ってるよ。でも。
「お願い、帰ってきて」
わたしがそう祈ると、光が走りました。
アリオスが、息を吹き返しました。
水の中から、ゆっくりと浮かび上がる。
リネアが泣きながら抱きつく。
……よかった。
よかったけど、マップの端がちょっと黒くなってる。
あれ、バグ?
《システム警告:蘇生により時空構造が歪みました》
《修復を試みますか?》
うわ、出た。ゲームあるあるのエラー文。
どうするのが正解なのこれ。
「はい」と押したら多分地面ごとリセットされるし、「いいえ」なら放置バグ化。
うう、嫌な選択肢。
――とりあえず、「いいえ」。
ついでに、近付いてきた雷雲をちょっと動かす。
リネアの髪が風でなびく。
アリオスが空を見上げる。
……あれ、こっち見てる?
「神様……今のは……あなたが?」
う、バレた。
どうしよう。干渉しすぎた。
マニュアルに書いてあったのに。“過干渉は人の意志を腐らせます”って。
「ありがとう……」
リネアが笑いました。
……あ、なんか、胸がチクリとした。
ありがとうって言われたけど、それ、たぶん違う。
ほんとは、自分たちの力でどうにかするべきだった。
わたし、ちょっとズルしちゃった。
その夜、焚き火のそばで、アリオスとリネアが話しています。
「神様は、きっと僕たちを試しているんだ」
「そうね……きっと、善いことをすれば守ってくださる」
……えっ、なんか宗教できてる!? 早くない!?
翌日、二人は石を積み始めました。
「神様に感謝の場所を作ろう」
――小さな円形の石組み。世界で最初の“祭壇”です。
あ、でもそれは、悪くないかも。
神様の存在を忘れずにいられるのは、優しいこと。
リネアが花を飾って、アリオスが火を灯す。
空へ煙が上がる。
それだけで、世界が少しだけ生きている気がした。
「神様、いつもありがとうございます」
……うん。こちらこそ。ありがとう。
《システムメッセージ:人類の自律進行度 2%》
……2%か。
奇跡に頼りすぎて、やっと2%。
でも、昨日より少しだけ、夜が明るい気がした。




