神、また間違える。でも、たぶん前よりマシ。
風が、やわらかく吹いていた。
空気の匂い。草の色。鳥の影。
――懐かしい、でも新しい世界。
わたしはふたりを見下ろしていました。
男と女。
前の世界と同じように、裸足で、木の葉をまとう。
彼らはおそるおそる手をつないでいました。
マニュアルがぽん、と現れる。
《ミッション:この二人で子孫繁栄、村を作り、国を興そう》
はいはい、覚えてます。
わたし、もう二度目ですから。
今度こそ、ちゃんと“見守る”神でいきます。
干渉しない。焦らない。落とさない。
「……神様、誰かいるの?」
女がぽつりとつぶやいた。
あ、聞こえてる。
でも、まだ答えない。
前回の学びを思い出して、ぐっと我慢。
《環境メモ:初期ブースト期間開始》
《倫理フィルタ:無効》
……うん、知ってる。
でも今回は落ち着いていこう。
男――名前は……アリス、にしよう。
女は、リナ。
なんか前と似てるけど、ちょっとだけ違う。
二人は、はじめての夜に焚き火を囲んだ。
炎の明かりに照らされて、お互いの顔を見つめている。
世界はまだ静かで、わたしの指先一つで何もかも変わる。
けれど、今度は、触れない。
……と、思っていたら。
「いたっ!」
アリスが足を滑らせて転びました。
小さな岩で足を切って、血がにじむ。
うわっ、びっくりした。
けど、まあ、これくらい……我慢……できる……はず……。
リナが慌てて葉を巻きつけている。
よし、ちゃんと手当てできてる。
うん、大丈夫。奇跡発動しなくても――
《奇跡発動:自動止血(反射)》
……あっ。
傷がみるみる塞がる。
リナが目を見開いて、空に手を合わせた。
「神様が助けてくれた……!」
うわああああ、やっちゃったぁ!
ちょっと目を離したらこれ! 反射スキル切ってなかった!
やばい、また最初から神バレした!
《信仰値+3》
うわ、もう信仰貯まり始めた。
ほんとに、何もしなくても信仰って増えるんですね……。
「神様、ありがとう!」
ああもう、かわいいけど、はやいよ!
まだ文明レベル0だよ!?
でも、笑ってる。
手を取り合って、安心して、
夜空を見上げて、「きれいだね」って。
……いいか。
今回は、それでいいや。
間違えたけど、誰も泣いてない。
《システムメッセージ:再起動環境 正常稼働中》
《前任神データ統合完了》
わたしの中で、遠い世界の記憶が少しずつ混ざっていく。
黒い霧の呪い。奇跡の暴走。沈黙の修行。
どれも、きっと意味があった。
人が祈るから、神が生まれる。
神が沈黙するから、人が強くなる。
そして、また誰かが風の中で笑う。
――そうして、世界は回るんだ。
アリスが火に枝をくべる。
リナがその隣で歌う。
その声は風に乗って、空の上まで届いてきた。
「ねえ神様、私たち、幸せになれるかな」
……うん。たぶん、少し間違えながらなら。
きっと、なれる。
夜空が広がる。
星々が瞬き、白い花がひとつ咲く。
あの“聖涙花”が、また新しい世界に根を下ろした。
《自律進行度:1%》
《信仰値:+5》
神、今日も反射でバレるタイプ。
――世界の繁栄、また1%からです。




