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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

棄てたモノ繕ったモノ

作者: 桜椛 - Ouka -

再会

-----------4月

 今日は大学の入学式だ。

 努力して入った大学。期待と希望と少しの緊張を胸に

 彗人は大学へと足を入れた。


「人が多いな」

 人混みが苦手な彗人は少し目眩をおぼえながらキャンパス内を歩いた。


 歩いてる途中目眩が酷くなり倒れた。




 遠くから声がする…


「……と」

「…………ぃと」

 んだようるせえなあ…と目を開けた


「彗人大丈夫か?」

 声がする方に目をやった

 そこに居たのは棄てたはずのモノ(気持ち)がうごく

 相手だった。


「……っなんでお前がここにいるんだよ。」

 少し沈黙の後相手が先に口を開いた


「彗人もここの大学だったんだな。会えてよかった元気だった?」

 なんでこんなとこで再会しなきゃいけねぇんだと

 頭の中で考えた

 そして相手は続けた

「なんで俺の前から黙って消えたの。心配した。」

 …………

「おまっ……お前が!俺を見棄てたんだろ」

「友達ともなんとも思ってないくせに何が心配だ」


 ……あの時の記憶と感情がふつふつと甦ってきて

 つい感情的になってしまった。


 遡るは中学2年生の冬……………………


 彗人の家で一緒に勉強をしていた

「今日の宿題むずかしいね。彗人わからないとこあった?」

「全部わからん!」

「彗人らしいね。」

 2人で笑い飛ばした

 ふと彗人が口を開けた


「なあ、俺がもし遠くに引っ越したらどう思う。」

「え?うーんそうだなあ。なにか事情があるんだろうし特にはなんともおもわないかな。」


 は?なんとも思わねーのかよ

 俺だけかよ考えてんのは。

 そーかよ。


「そっか。そうだよなあ。なんでもねえ。」


 そしてスグ誰にも言わずに引っ越した

 親の都合でド田舎に。

 ド田舎の生活が嫌でしかたなかった。

 そしてアイツへの気持ちが忘れられなくてしかたなかった。と同時にあの言葉が離れなくて苛立ちをおぼえた。


 ド田舎の生活から抜け出すために猛勉強してやっと入れた都内のK大。


 入学そうそうめまいでぶっ倒れるとはな。

 しかもなんでこいつがいんだよ。


 俺の気持ちどうすりゃいいんだよ


 ……なあ悠楓。



 

 夕方になり空が暗くなってきた。

「歩けそう?送っていこうか?」

 と悠楓が言ってきた。

「良い。あるける。悪かったな…じゃあな」

 少し急ぐように悠楓の元から去った



 夕焼けの空を見上げながら

「これからどーなるんだろ。俺はあの時の棄てたモノをやっぱり忘れられねえな…」





 その頃の悠楓は

 なんか俺避けられてる?俺嫌われてるのか?

 でもやっと再会できたんだ。

 無駄にしてたまるか。


 そんな2人の片想い。再会を機に新たに動き出す…。



 それから



 それから数日、彗人は悠楓を避けるようにして過ごしていた。

 なるべく目を合わせず、講義の時間も被らないように調整し、昼休みは人目につかない場所で過ごす。

 だが、そんな努力も虚しく、悠楓は何かと彗人に近づいてきた。


「彗人、次の授業どこ?」

「……関係ねえだろ」

「冷たいなあ。でも、俺もそこ行くんだよね」


 にこりと笑う悠楓を見て、彗人はますます苛立った。

 なんでこいつは、何事もなかったかのように俺に接してくるんだよ。

 あの日、俺がどんな気持ちでいたかなんて、悠楓にはわかるはずもない。


 ーーなのに。


 悠楓と一緒に歩く帰り道。

 ふと、あの日と同じような夕焼けが目に映る。

 中学2年の冬、彗人が「引っ越したらどう思う?」と聞いた日のことを思い出した。


(……あの時の言葉、やっぱ忘れられねえ)


 “なんとも思わない”

 その言葉が、彗人の心を深く傷つけた。

 だけど、ずっと悠楓のことを考えてしまう自分もいる。


「……なあ、悠楓」

「ん?」

「……なんであの時、俺が消えたことを気にしてるんだよ」


 思わず口にしていた。

 悠楓は少し驚いたように目を見開き、それから静かに口を開いた。


「あの日、彗人が突然いなくなって……俺、本当に後悔したんだ」

「は?」

「“なんとも思わない”なんて言ったけど、そんなわけなかった。お前がいなくなってから、気づいたんだ。

 俺にとって、お前がどれだけ大事な存在だったかって」


 悠楓の言葉に、彗人の胸が苦しくなる。


「……ふざけんなよ」


 彗人は思わず拳を握りしめた。


「そんなの、今さら言われても……俺はずっと、お前の言葉が忘れられなかったんだよ。どれだけ辛かったか、お前にわかるかよ」


 悠楓は静かに彗人を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「……ごめん」


 真剣な眼差しだった。

 その目を見て、彗人の心が少し揺らぐ。

 けれど、簡単に許せるほど、あの時の傷は浅くなかった。


「……お前なんか、嫌いだ」


 そう言い放ち、彗人は悠楓から目を逸らした。

 けれど、悠楓は小さく笑った。


「そっか。でも、俺は彗人のこと、好きだよ」


「……は?」


 思わず立ち止まる。


「ずっとずっと、お前のことを探してた。会えたのが嬉しくて、避けられるのは悲しくて……でも、もう後悔したくないんだ」


 悠楓の真っ直ぐな言葉に、彗人は何も言えなくなった。

 鼓動がうるさいほど高鳴る。


 ふざけるな、そんな言葉を簡単に言うな。

 俺はお前をずっと――


「……馬鹿」


 彗人は俯いたまま、小さく呟いた。


 悠楓がゆっくりと彗人に近づく。

 夕焼けに染まる中、悠楓の手がそっと彗人の頬に触れた。


「……嫌なら、突き放していいよ」


 悠楓の声は優しく、どこまでも誠実だった。


 彗人は震える手で、悠楓のシャツの裾をぎゅっと掴んだ。


「……嫌じゃねえ」


 その言葉を聞いた瞬間、悠楓がそっと彗人の顎を持ち上げた。

 そして、夕焼けの下、ゆっくりと唇が重なる。


 触れるだけの、けれど確かに想いが伝わるキスだった。


 彗人は瞳を閉じながら思った。


 “俺がずっと忘れられなかったのは、やっぱりこいつだったんだ”


 悠楓もまた、彗人のことを忘れられなかった。


 ようやく、二人の片想いはひとつに重なった。


 ——再会のキスとともに、二人の物語が再び始まる。



彗人の思い



 唇が離れた瞬間、彗人の心臓が跳ねた。

 悠楓の体温がまだ肌に残っている。


「……っ、バカ」


 思わず目を逸らし、震える唇を拭う。

 けれど、悠楓はそんな彗人をじっと見つめたまま、微笑んでいた。


「嫌じゃないって言ったの、彗人なのに」


 その穏やかな声が、余計に彗人の胸を締めつける。


「……言ったけど、それとこれとは別だろ」

「ふーん?」


 悠楓は小さく笑いながら、そっと彗人の頬に手を伸ばす。

 その優しい指先に、彗人は息を飲んだ。


 中学の頃からずっと、こいつの手は暖かかった。

 昔はただの友達として触れられることが普通だったのに、今はどうしてこんなに意識してしまうんだろう。


「彗人」


 名を呼ばれた瞬間、心臓が一気に高鳴る。

 悠楓の目が真っ直ぐに自分を捉えていて、逃げられなかった。


「……お前、ほんと何なんだよ」

「何って……お前が好きなだけ」


 まるで当たり前のように言われたその言葉に、彗人は思わず息を詰める。

 悠楓は、いつだって簡単にそういうことを言う。

 だけど、これが適当な言葉じゃないことくらい、今の彗人にはわかってしまう。


「俺は……」


 言葉に詰まる。

 悠楓のことがずっと好きだった。

 だけど、それを認めたら、今までの苦しみが全部無駄になってしまいそうで怖かった。


 あの日、あの言葉で傷ついて、諦めた気持ちをまた手に取るのが怖かった。


「……悠楓」


 名前を呼ぶだけで精一杯だった。


 そんな彗人の表情を見て、悠楓は優しく微笑む。


「焦らなくていいよ。今は、こうしてまた隣にいられるだけで嬉しいから」


 悠楓の言葉が、心の奥深くに染み渡っていく。

 自分はずっと、悠楓を避けていた。

 だけど、悠楓はそれでも離れようとはしなかった。


「……ほんと、お前はズルい」


 彗人はそう呟きながら、少しだけ身を寄せた。


 悠楓の体温がすぐそばにあって、それが心地よくて。

 夕焼けの下、二人の距離は少しずつ近づいていく。


 これからどうなるのかなんて、まだわからない。

 だけど、今はただ、この瞬間を大切にしたかった。


 ——もう二度と、悠楓を見失わないように。



揺らぐ思い



 夜の帳が降り始めるころ、彗人と悠楓はゆっくりと歩いていた。

 沈黙が続く。

 だが、どこか心地のいい静寂だった。


 時折、隣を歩く悠楓の肩がかすかに触れる。

 そのたびに彗人は息を飲みそうになり、何度も拳を握りしめた。


 (なんでこんなに、意識しちまうんだ……)


 中学の頃とは違う。

 悠楓が“好き”だと言ったあの瞬間から、すべてが変わってしまった気がする。


 悠楓の隣にいることが、心地いいのに落ち着かない。

 ただ歩いているだけなのに、意識のすべてを持っていかれる。


「彗人」


 ふいに名前を呼ばれて、彗人はびくりと肩を揺らした。


「……なんだよ」


 不機嫌そうに返すが、悠楓はクスッと笑うだけだった。


「可愛い」


「は!?」


 思わず立ち止まる。


「いや、なんかさ。すぐ顔に出るし、昔から変わんないなって思って」


「うるせえ!……っつか、マジで、そういうこと簡単に言うのやめろ!」


「簡単じゃないよ?」


 悠楓は真剣な顔で言った。


「俺、本気で彗人のことが好きだから」


 その言葉に、彗人の心臓が跳ねる。

 さっきも言われたはずなのに。

 なのに、また熱が身体に広がる。


 悠楓が、一歩近づく。


「……お前、近えよ」


「逃げないの?」


「……逃げねえよ」


 いつものように反射的に拒絶しなかった自分に驚く。

 悠楓は満足そうに微笑むと、そっと手を伸ばして彗人の指に触れた。


 絡まる指先。


 思わず握り返す。


 (俺は……悠楓が好きなんだ)


 もう、誤魔化すことはできなかった。


「……っ、バカ」


 そう呟いた瞬間、悠楓がそっと彗人の頬を撫でた。


「ねえ、キスしていい?」


 囁くような声に、彗人はぎゅっと目を閉じる。


「……好きにしろよ」


 覚悟を決めたその瞬間、優しく唇が重なった。


 深く、深く。

 もう二度と離れられないと、そう確信するほどのキスだった。


 ——彗人と悠楓の再会は、今、確かな愛に変わった。



繕ったモノ



 夜の静寂の中、彗人は悠楓の唇の感触を確かめるように瞼を閉じた。

 ただ触れ合うだけのキス。

 けれど、それだけで胸の奥が熱くなる。


 悠楓がそっと身体を引く。

 名残惜しさを感じたのは、きっと彗人だけじゃなかった。


 ――もう、誤魔化せない。


 悠楓のことが好きだ。

 ずっと忘れられなかった。

 遠ざけようと必死になったけれど、それでもこの気持ちは消えなかった。


「……彗人」


 低く優しい声に、彗人はぎゅっと拳を握りしめる。


「な、んだよ……」


「もう、俺のこと避けたりしない?」


 彗人は口を開きかけたが、言葉が詰まった。

 意地を張りたかった。

 けれど、悠楓の指先が自分の手を優しく包んだ瞬間、その意地はすぐに崩れ去った。


「……もう、逃げねぇよ」


 ぼそっと呟くように言うと、悠楓が嬉しそうに微笑んだ。


「そっか。……よかった」


 その笑顔を見て、彗人の胸が苦しくなった。


「お前、ずっと俺を探してたって言ってたけどさ……本当なのか?」


「もちろん。本気で探した」


「……なんでだよ」


 ずっと、悠楓は簡単に俺を捨てたと思っていた。

 だから、俺もお前を捨てようとしたのに。


 悠楓は少しだけ目を伏せ、遠くの夜空を見上げた。


「……俺、後悔したんだよ。あの時」


「あの時?」


「中学の頃、彗人が“引っ越したらどう思う”って聞いてきた時、俺はお前の気持ちを何も考えずに答えた。

 でも、お前が本当にいなくなってから、初めて気づいたんだ。

 俺は、彗人がそばにいることが当たり前だと思ってた。

 でも、当たり前じゃなかった。

 お前がいない毎日は、ただ空っぽで、後悔ばっかりで……

 だから、もう一度会えたときは、絶対に手放さないって決めたんだ」


 悠楓の声が、夜の冷たい風の中に染み込んでいく。


 彗人はぎゅっと歯を食いしばった。

 ――そんなふうに思っていたのなら、なんで俺を置いていったんだよ。


「……お前が、俺を必要としてくれてたなら……なんで、もっと早く言わなかった」


 悠楓は、少しだけ切なそうに微笑んだ。


「ごめん。俺が、バカだった」


 その言葉を聞いた瞬間、堪えていた何かが決壊した。

 ――ずっと、ずっと待ってた。

 この言葉を。


「……俺、馬鹿みてぇだな」


 悔しさと安堵が入り混じった声が、夜の空気に溶けていく。

 悠楓はそっと彗人の肩に手を伸ばし、ゆっくりと抱き寄せた。


「……お前が、いなくなって本当に寂しかった」


 彗人は、震える手で悠楓のシャツを掴んだ。


「……俺もだよ。ずっと」


 悠楓の胸に額を押し付け、彗人はぎゅっと目を瞑る。

 悠楓の腕が、そっと背中を撫でるように抱きしめた。


「もう、離れないから」


 その言葉に、彗人の胸が熱くなる。


「……約束しろよ」


「約束する」


 悠楓の声は、どこまでも優しく、どこまでも真剣だった。


 彗人はそっと顔を上げる。


 夜の街灯の下、悠楓の瞳が柔らかく光っていた。


 次の瞬間、彗人は自分から悠楓の襟を掴み、そっと唇を重ねた。


 触れるだけのキス。

 けれど、そこにはたくさんの想いが込められていた。


 悠楓が驚いたように目を見開き、すぐに優しく微笑んだ。


「……彗人」


「……なんだよ」


「好き」


「……っ、知るか」


 照れくさくて顔を背けると、悠楓は小さく笑った。


 でも、その笑顔が嬉しくて、愛しくて。


 気づけば、彗人も少しだけ微笑んでいた。


 ふたりの気持ちは、ようやく重なった。


 中学の頃のすれ違いも、遠回りした時間も、すべてが今、この瞬間のためにあったように思えた。


「……お前、ちゃんと責任とれよ」


「もちろん」


 悠楓の手が、そっと彗人の頬を包む。


 今度は、逃げない。

 もう、絶対に手放さない。


 ゆっくりと、もう一度唇が重なった。


 夜の静寂の中、ふたりの影が重なり合う。


 ――そして、新しい未来が始まる。


(完)





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