第3話
その頃平民の社会がきな臭くなっているとカサブランカ様が言い出しました。ジュピターが成人する頃には人民の不満が高まり革命に至るだろうというのです。
「その革命は防ぐことはできないのですか」
疑問を投げかけます
「無理ね。王族も上級貴族も自分たちのことばかり。貴族や王族に有利な、政を行うことが有能扱いされる。平民の不満を解消するよう指摘しても聞く耳を持つものは居ないわ」
「それならカサブランカ様だけでも・・・・」
「無意味ね。私一人が平民のための行動をとっても流れは変わらない。平民に近しい位置にいる下級貴族なら、それで革命のときに味方とみなしてもらえるけれど、私のような上級貴族や王族に係るものはそうもいかない。だったらせいぜい革命まで贅沢な暮らしを楽しませてもらうことにするわ」
だとするならジュピターは真っ先に命を狙われる立ち場の一人になるはずです。彼を守るにはどうしたら良いのでしょう。
「廃嫡させるのが一番簡単ね」
カサブランカ様がおっしゃいました。でも一体どうすればいいのでしょう。
「まずは無能なふりをすることね。でも、本当に無能じゃ駄目よ。上手く廃嫡されても社会で生き抜けなくなるわ。そして財産を持ち出して蓄えること。絶対に周りに気取られてはいけないわよ」
ジュピターが身につけるべき知識は既にカサブランカ様やエルドレッド様から叩き込まれていました。このような事態になることを予見していたのでしょうか?
やがてジュピターも順調に成長していきます。聡い子供のようで、学んだことをしっかり吸収し、でもそのことを周りに悟らせないよう注意を怠りまでん。おそらく実の父親である王太子殿下も気づいていないでしょう。
そんなある日カサブランカ様がとんでもないことを言い出しました。
「エマニー、ジュピターの婚約が決めました。お相手は赤侯爵家のスカーレット嬢。ジュピターとは同い年ね。入学式で一目惚れをしたふりをしてしっかりアピールなさい。あとはこちらで婚約を手配します。内々にはできるだけ早く婚約を整え、公式には王立学園の卒業式典、つまり成人の時発表ということになります」
ここまでは、普通のこと。当人の預かり知らぬところで婚約が決まることも、それを成人の席で公式発表することも、王族や貴族の社会ではよくあることです。問題はその後のセリフでした。
「ですがジュピター、彼女に好意を持たないようにお気をつけなさい。婚約発表直前に婚約破棄騒動を起こしてもらいます」
「「そんなことをしたら大変なことに」」
私達親子の声が揃います。
「なるでしょうね。というか、大変なことにするのです」
「「?」」
エルドレッド様が説明を引き継ぎます。カサブランカ様はたとえ子供でも同じ空気は吸いたくないと言わんばかりに、立ち去りました。
「エマニー、貴女はジュピターを革命に巻き込まれるのを阻止したい。そうね?」
頷きました
「ジュピター、貴方は革命に巻き込まれて王族として処刑されたいですか?それとも平民に身をやつしてでも生き延びたいですか?」
「ボクは王族に未練はありません。むしろ疎ましくさえあります」
「でしょうね。そのために無能のフリをしているのですから。だったら一人称は”俺”のほうがいいですね。不遜な態度が必要よ」
「俺。ですか。今後気をつけます・・・・ この場合は気をつける、くらいのほうがいいですか」
「ふふふふふ。そのほうがいいわね」
「それで婚約破棄のことだけど、ジュピターが無能なだけでは廃嫡には足りないの、多分。だから婚約破棄騒動を起こして最後の一押しにするの。スカーレット様は自尊心の高い方だから公衆の面前で騒動を起こせばあとは勝手に話を進めてくれるわ。うまくすれば廃嫡だけでなく王族から追放までやってくれるわ」
それからジュピターの見た目を整えるよう言われました。もともと整った目鼻立ちでしたが、しっかりと化粧をし誰が見ても美男子と言われるようにと。男性が化粧をするという習慣はあまりないのですが、だからこそ上手くやれば効果的だそうです。
なぜそのような必要があるかと言うと、婚約者の未練を引き出したり婚約破棄のために他の女性を惹きつける必要があるとのことです。
やがてジュピターも成長し王立学園に入学します。入学式にはカサブランカ様が母親として、保護者代表の挨拶を行います。
******* 王立学園 ジュピター視点 *******
俺は王立学園に入学した。これを景気に,かどうかは知らないが、祖父が退位し父が国王に即位した。これに伴って俺は王大使となった。これは「ジュピター」という名前を失うことを意味するが、身内の間ではジュピターのままである。もっとも俺は国王になる気などなく毛頭なく、廃嫡になる予定なので、近い将来ジュピターに戻る予定だ。
まずやるべきことはスカーレットを口説き落とす。これは容易かった。別に俺の人柄云々ではなくスカーレットの権力欲故だ。彼女は俺の王太子という地位に惚れたのだ。これは思いがけない好都合だ。俺がやらかせば積極的に俺を排除に動いてくれそうだし、何より罪悪感が少なくて済む。
この学園では無能のふり、ただし流石に落第は避ける。をしつつ、適当な女を捕まえて恋人同士になってそれを理由にスカーレット嬢に婚約破棄を宣言する。彼女に気取られると厄介なので、できれば相手は最終学年に新入生から見つけるのが無難だろう。それまでせいぜい女遊びにかまけて女にだらしないふりをしておく。スカーレットが俺自身に好意を抱いて婚約破棄を嫌がる可能性を消すためでもある。幸い母上が無節操なので、周りは簡単に騙されるだろう。
ところで母上がまさか俺のために保護者代表挨拶に出てきたのかと思ったら、ただの女漁り目的だったとは。その後女生徒を何人か奥宮に引っ張り込みやがった。この娘達に手を出すなと釘を差されたのには流石に笑ったぜ。
そのようにして恙無く学園生活を女にだらしない劣等生として過ごし迎えた最終学年のとき、入学してきた新入生の中に一人の女子生徒が目に止まった。彼女はスカーレットとは正反対のタイプで、いかにもスカーレットに嫌気が差したときに乗り換えたくなりそうな相手として都合が良い。
女の名はメイプル。楓男爵の娘とのことだ。
彼女を口説き落とし恋人として過ごす。他の女とは手を切る。メイプルにはある程度本気になってもらわなくては困る。流石に婚約破棄の根拠となる恋人役が自分に惹かれていなくては説得力にかける。
そして迎えた運命の卒業記念パーティー。
「赤侯爵令嬢スカーレット、お前との婚約は破棄とする」
やってみると案外気持ちいいな。さあ、世紀の茶番劇だ
「承りました。ではそういうことで。ところで参考までに理由をお聞きしてのよろしいかしら」
期待通りの反応だ。
「白々しい。お前はこのメイプルに危害を加えた」
白々しいのは俺の方だよな(笑)だが態度には出さない。
「なぜ私がそのようなことをしなくてはなりませんのかしら?」
御尤も。笑いを堪えるのに苦労するな
「お前は俺とメイプルの仲を邪推して」
邪推も何も既成事実ありだけど。まあ、スカーレット嬢は俺の地位に惹かれているのであって俺に惹かれているわけじゃないから興味ないだろうけれど。
「そういうことではございませんわ」
ここで、言葉を切るとメイプルに詰め寄る。冷たい表情が怖い。ごめんよメイプル、巻き込んで
「この娘のことが気に食わなかったら修道院にでも放り込めば済みますのよ。男爵家の小娘程度なら王太子の婚約者で侯爵令嬢の私ならなら、不貞の疑いだけでそれくらい簡単ですわ。疑われる状況であることは殿下自身がおっしゃったばかりですし。なのにリスクを犯して危害を加える必要などどこにもございませんことよ」
正論正論。そもそもメイプルのことなんて眼中になかっただろうから、そんなことにはならないとわかっていたけど。
とりあえず神妙な顔をしておく。
「この娘のことが気に食わなかったら修道院にでも放り込めば済みますのよ。男爵家の小娘程度なら王太子の婚約者で侯爵令嬢の私ならなら、不貞の疑いだけでそれくらい簡単ですわ。疑われる状況であることは殿下自身がおっしゃったばかりですし。なのにリスクを犯して危害を加える必要などどこにもございませんことよ」
?だからなんだというのだ
「私が成人して殿下との婚約が無くなった場合その瞬間に家督を引き継ぐことになっておりまして、公式に手続きは済ませておりますの。ですから殿下が婚約破棄を宣言して私が了解した時点で”赤侯爵”当主は私、ということになりましたの」
それはおめでとう(棒)
その後色々と物騒なことをメイプルにまくしたてるスカーレット。作戦のために決して本気になるなと言われていたが、頼まれても本気になんてなれないぞ。
「ところでメイプルさん、貴女私の娘にならない」
なんか変なこ言い出したぞ。そして色々言いくるめて養子縁組することを確定てしまった。斜め上なことをやってきたな。返す返すもごめんよメイプル
「さて殿下、貴方の廃嫡を発議させて頂きますわ」
ようやく本題に入った。一応否定しておく
「そんなこと認められるわけ「ありますわ」
そうこなくては困る。
「先ほども言いました通り既に私は侯爵令嬢ではなく赤侯爵家当主ですの。その権限はございますわ」
頼もしい
「東公爵様はご長男を王位に就けたがっていらしたのでご賛同いただけますわよ」
母上の実家だが、母上の性癖を熟知しているので俺が東公爵家と血縁がないことはバレバレ。俺が有能なら国のために俺を王位に就けることもためらわないだろうが、無能だから有能な身内を王位に就けたがるだろう。
その後も次々俺の廃嫡賛成派の上位貴族を挙げていく。俺のためにご苦労なことだ。北公爵の評価には笑ったが。
こうして目出度く俺の廃嫡が決定した。
高笑いするスカーレットだが、笑いたいのはこっちなのだ。
※※※※※※ ジュピター視点 終わり ※※※※※※