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第2話

「王太子が婚約破棄を企てているようね」

カサブランカ様とエルドレッド様、それとわたしの3人でのお茶会の席でカサブランカ様が言い出した。

ちなみにお茶の淹れ方は教わったが、いまだエルドレッド様に遠く及ばないので淹れてくださったのはエルドレッド様

「どうもとある女の子にお熱を上げているみたいだわ」


「カサブランカ様という婚約者が居ながら結婚前から浮気だなんて不誠実ですね。なにか対策すべきです」

わたしは腹立たしく思い、訴えます。まあ、こちらもカサブランカ様自身は輿入れ後も夜伽をせず代わりにわたしを宛てがおうというのだからあまり大きな事は言えないが、王太子様はその事はご存じないはず。それなのに他所の女にうつつを抜かすというのはいかがなものでしょう


「そうなのよ。あんな可愛い娘、王太子になんて勿体ないわ。何としても貰い受けなくては。まずは彼女の貞操を守らなくてはいけませんわね」

カサブランカ様(この女)は何を言っているのだ!?

不遜な言葉が頭に浮かんだがもちろん口には出さない。もし出したとしても咎められることはない気もするが・・・・


「お相手は柊男爵家のアスコット。幸い未だ手つかずのようです。彼女の方も殿下に好意を寄せているようですね。殿下と結婚するにしても側室や妾になるにしても生娘であることが求められるから迂闊なことをしないように既に伝えてありますので、大丈夫だと思います」


エルドレッド様(こいつ)はなんでそんな手回しができるののだ!?

不遜な(以下略)

二人のことが今までになく恐ろしくなりました


「さすがエルドレッドね」

カサブランカ様は事も無げ。カサブランカエルドレッド様ならそれくらい当たり前だとでも思っているのでしょうか。


カサブランカ様が何やら手紙を(したた)めるとエルドレッド様に渡しこちらは陛下に、こっちらは柊男爵に届けてちょうだい。早急にお返事いただけるようにお伝えしてね」


陛下といえば王様、この国で一番偉い方のことですよね。そんな方に一体何を伝え、急ぎの返事を求めるのでしょう。そう思っていたら顔に出たようです。


「あら、知らないほうが幸せなこともありましてよ、エマニー」

カサブランカ様、笑顔が怖いです。


お茶会はそれでお開きとなりました。


そして運命の日、なんとお二人は王太子様が婚約破棄を言い出す日まで突き止めていたのです。


その日はすぐにやってきます。カサブランカ様は王城の一室、通称密談部屋に呼び出されました。わたし扉の外でこっそりと控えるようにいうとエルドレッド様はどこかに行ってしまいました。どうしたらいいのでしょう?とりあえず中の会話に聞き耳を立てます。何が起こっても声を立てないよう心の準備は怠りません。


「カサブランカ。君との婚約をなかったことにしてもらいたい。もちろんそれなりの償いはする」

王太子殿下が本当に婚約破棄を言い出しました。想定通りなので動揺はありません。

「理由は、そこにいる柊男爵家のアスコット嬢ですわね。でも残念ながらその娘は私も目をつけていましたの。差し上げませんわよ」


エルドレッド様が調べた通りのお相手です。アスコット様、いえ、わたしも男爵家の養女であり歳も一緒なので彼女のことは呼び捨てで構わないと言われているので、アスコットと呼ぶことにします。


「なに馬鹿なことを。アスコットはお前のものじゃないだろう」

王太子様が答えます。全くその通りなのですが、カサブランカ様の中ではアスコットは既に自分のもののようです。


その時エルドレッド様が執事姿の男性を伴って戻ってきました。わたしにドアを開けても室内から見えない場所に移動するように言うと


「殿下、カサブランカお嬢様。柊男爵のお使いの方がお見えです」

「あとにし「お通しして」

王太子の言葉を遮るカサブランカ様「あら、いいタイミングですわね」

「失礼します」

二人は部屋に入っていきました。扉は開かれたままです。様子をうかがいたいところですが、モゾ着込むわけにもいきません。


「エルドレッド、準備を」「はっ」

そのような会話をするとすぐにエルドレッド様が部屋から出てきました。なんの準備でしょう?

「もうちょっとお待ちなさい」と言って扉を閉めどこかにいきます。


その後再び聞き耳を立てるとなにやら不穏な会話がかわされています。

そうしていると今度は荷物を持った男性を連れてエルドレッド様が戻り部屋に入り、男性はすぐに出てきて去っていきました。


「エルドレッド、エマニーを連れてきてちょうだい」

さらなる不穏な会話の後、いよいよわたしの出番のようです。と、思ったら出てきたエルドレッド様は小声で

「もうちょっと待ってね。タイミングがあるから」

やがて静寂が訪れたタイミングで入室を促されます


「エマニーを連れてきました」

部屋に入ると全裸の少女が目に飛び込んできます。この娘がアスコットなのでしょう。服を脱ぐように命令されるのは聞こえていましたが、実際全裸でいるのを目の当たりにすると結構ショッキングです。

彼女はかなりの美少女です。しかも可愛らしい。顔立ちも身体(からだ)も完璧、とまではいかないところにまた親しみやすさがあります。なるほど、カサブランカ様が欲しがるのも分かる気がしてきました。


「紹介いたしますわ。この娘はエマニー。私の代わりにこの娘にお世継ぎを生んでもらい、その後は乳母(めのと)として子育てをしてもらうことにします。もちろん子供は私が生んだことにします。この娘が妊娠したら私は体調管理を名目に引きこもって世間の目をごまかすことにいたしますわ」

王太子様に紹介されました。黙礼をしておきますが、極力特別な感情を持たないように心がけておきます。


「そんな馬鹿な話あるか。その娘にそんな人身御供のようなことをさせるとか正気か?」

案外正論を吐くのですね


「あら、政略結婚の花嫁は皆同じようなことをさせられましてよ。私は相手が誰であれ殿方と(しとね)をともにする気など毛頭ございませんから代理のものを連れてまいりましたの。一応正妻の子という体を保つために私と似た娘を見つけてきましたわ。その娘は私生児なので後腐れもございませんし、本人にも納得させておりますわ」

カサブランカ様はさらなる正論で返します。実際貴族同士の結婚は本人の意志は無関係に決まるそうです。その後行われることはわたしと同じ。わたしは代償に贅沢な暮らしや仲間の安全を保証してもらいましたが、貴族の場合本人には何もなしです。

わたしは黙って頷きました。王族と貴族の世界は恐れるべきなのか呆れるべきなのか。係るべきじゃなかったのかもしれません


王太子殿下による婚約破棄未遂騒動兼わたしと殿下の顔合わせの直後からエルドレッド様は王城内に奥宮と称し自分の居住場所を作りました。当然エルドレッド様とわたしもそこで暮らすことになります。それにアスコットも。

更にあちこちから見目麗しい女性が集められます。名目上ここは王太子のハレムということなのに、出入り禁止の男に王太子殿下も含まれています。これは正式にお二人が結婚した後も変わらないそうです。実態は完全にカサブランカ様によるカサブランカ様のためのハレムです。

集められた女性たちに夜伽を求めるのですから、全く比喩ではありません。


中でもアスコットが最もお気に入りのようで頻繁に呼ばれます。でもわたしが呼ばれることはありませんでした。殿下に差し出す要員としてしか見られず眼中にないのでしょうか。


王太子殿下との顔合わせのとき初めて知ったのですが、カサブランカ様は絵画を嗜んでいるようで、その腕はかなり高いようです。

描かれるのは決まって裸婦像で、ハレムに引き入れた娘は皆モデルになっています。ただ一人わたしだけが着衣のままです。これは何を意味するのでしょう。

特別なことを教育してもらっているのはわたしだけなので、嫌われているわけでなない、と思いたいです。



やがてカサブランカ様が正式に輿入れとなる日が来ました。

披露宴の席上新郎新婦のお二人は形だけ笑顔を見せていましたが、互いに目を合わせることはありませんでした。


今宵はお二人の初夜、つまり身代わりであるわたしが王太子様の褥に呼ばれるということですね。

幼少の頃、それこそカサブランカ様と出会う前から身体を売ることを意識はしていましたが、やはり初めてのときは気が重たいです。


極力自分を殺して事に当たります。殿下の方も淡々としたものでした。世継ぎを作るために義務的に行っているように感じます。


その後、殿下のもとに向かうのは妊娠しやすいタイミングだけにします。殿下のほうもそのことに何も言いませんでした。まさに世継ぎを作るための作業という感じです。


愛情はなくても行為に及べば子供はできるようで、やがて妊娠に至りました。子供が女の子だと世継ぎとはならないから更に子作りを求められるので、男の子であることを祈るばかりです。


アスコットとの関係は比較的良好でした。王太子殿下と恋仲だったアスコットと仲を引き裂いたカサブランカ様の命で王太子殿下と男女の関係にあるわたし。

私の方も自分はカサブランカ様に求められないのに彼女は特別寵愛を受けている。カサブランカ様と肉体関係を求めたいわけではないにしても、嫉妬心のようなものもなくはありません。

互いに思うところはあるのですが、年が近いこともあり、気が合ったのかもしれません。


アスコットははじめの頃カサブランカ様に対し反感を持っていましたが、深い愛情を向けられ次第に惹かれていったようです。わたしは王太子に差し出された自分だけ夜伽を求められないことで汚れて居るように見られているように感じます。その一方で自分だけ特別沢山のことを教えてくれる特別感。それにより愛憎(まみ)えると言ったところでしょうか

その点でも共感するところがあるのでしょうか。


やがて、わたしは妊娠に至りました。精神的なことに関係なくやることをやれば子供はできるようです。女子だと世継ぎとして好都合とは言えないので、男子であることを祈るばかりです。


祈りが通じたのか、生まれてきたのは元気な男の子です。もう世継ぎとしてどこからも文句を言われる筋合いはなくなったので、今後殿下との関係は拒否するつもりでいましたが殿下の方から求められることもありませんでした。義務感だけで関係を持っていたのは殿下の方も同様だったようです。


生まれてきた子供にはジュピターと名付けました。王太子になればなかったことにされる幼名ですが、世継ぎである前にワタシがお腹をいた子供です。名無しのままにするわけにはいきません。

追放(元)王太子に名前があったことが発覚しました。ただし王太子になるまでの非公式な名前です。

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