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第1話

わたしは物心ついた頃には王国との国境近くのスラム街で浮浪児の集団の中にいました。

年長者が食べ物を分け与えてくれたのは、別に善意からではなく近い将来集団の戦力になることを期待してのことだったと思います。事実自由に歩き回れる程度に成長した頃には残飯漁りから置き引き空き巣と何でもやらされました。もう少し成長したらスリやカツアゲの手伝いなどリスクの大きいことも加わります。


そんな生活を続けているとある日大人たちに捕まってしまいました。彼らは隣の王国のものだと名乗りました。全員を見渡すとわたしだけ別室に連れて行かれました。

そこには二人の少女がいました。一人はわたしより2つ3つ年上でもう一人はもう少し上だろうか。自分の正確な年齢はわからないけれど


「エルドレッド、どう思う?」

年下の少女が後ろに控えている年上の少女に問います。年下の少女が主で年上の少女が使用人でしょうか?


「カサブランカ様によく似ておりますね。目や髪の色、鼻や口の作りはもちろん全体的な雰囲気も。この子なら問題ないかと思います」

確かに、わたしと少女の一人、カサブランカ、様?はよく似ている気がします。でもそれがどうしたというのでしょう?


「私は東公爵家の三女カサブランカ。この娘はエルドレッドといって、わたしに仕えてくれているわ。貴女にお話があるの。そんなに警戒しないでちょうだい。貴女の意に反してなにかしようと思ったらすでにどうにでもできているわ。それをしないということで察してくれないかしら。まずはお名前を教えてもらえるかしら」

カサブランカ様が親しげに話しかけてきました。すでに拘束されているのだけれど、とは言える雰囲気ではない。それ以上手荒なこともされてはいない。


「・・・・エマニー」

一応名乗っておきます。警戒しなくて言われているが、殺生与奪権を握られているのは事実ですので逆らうわけにはいきません。


「エマニー。可愛らしいお名前ね。まずは話を聞いていただけるかしら。話というかお願いね。貴女にとっていいことと悪いことがあるわ。話を最後まで聞いてくれたら返事にかかわらず、貴女のお仲間は孤児院に(はい)れます。衣食住が保証され教育が受けられるわ。そのうえで暮らしが嫌なら逃げ出すことも容易でしょうね。もし話を聞いてくれない場合は犯罪奴隷として売られることになります。その後の暮らしは言わなくてもわかりますらよね」


脅し、でしょうか


「脅しといえば脅しでしょうが、先程も言いました通り奴隷として売ろと思えば無條件で出来ますのよ。話を聞くだけでお仲間の有利な条件が買えますのですからお得だと思いませんか」


確かにその通りですね。ですので話を聞いてみることにします


「素直な子は好きよ。先程名乗った通り私は貴族の娘なの。貴族の娘というのは家の都合で結婚相手が決められるの。私の場合は王太子、つまり次期国王に嫁ぐことが決まっているわ。そして世継ぎを生むことが求められている。でも私は殿方に触れられるなんてごめん。だから身代わりが欲しいの」

とんでもないことを言い出した気がします。


「それって私がカサブランカ様の代わりに王太子様に嫁ぐということでしょうか?そんなの無理に決まってますよ」

「ふふふふふ。もちろん孤児の貴女が時期王妃なんて無理よね。当然側室も無理。あくまで嫁ぐのは私。名目上はね。貴女は私の使用人ということになる。でも実態は私の代わりに王太子の夜伽の相手をし、わたしの代わりに王太子の子供を生む。生まれてきた子供は私が生んだことにして、貴女は乳母(めのと)という名目で育てる。もし、子育てが嫌なら別の乳母を立ててもいいけれど、自分の子供を自分で育てることができるわ。そこはあなた次第ね」

「要するに王太子専属の娼婦になれということですか」

「身も蓋もない言い方だけどそういうことになるわね」


今のところ体を売ることはなかったが、遠くない将来生きるためにそういうことをすることになると自然に思っていたのだから、受け入れられないことではない。でも応と即答する気にもなれない。


「もし断ったら?」

聞いてみる。奴隷落ちか口封じに消されるか、脅されるようなら断る。結果ろくなことにならないとしても脅しに屈してなるものかという自尊心くらいはある。しかしカサブランカ様の答えは事も無げだった。


「その場合はお仲間と一緒に孤児院行きね」

「わたしがこのことを話したら?」

「誰も信じないでしょうね。私が公爵令嬢であることを知っているのは貴女を除けばごく一部の身内だけ。貴女が話してもただの妄想と思われるのがオチだわ」

それはそうですね。公爵令嬢と浮浪児の接点なんて普通はないしわたしとカサブランカ様が似ていると言っても侯爵令嬢の姿なんて平民には無縁だし、私の声が貴族社会に届くことなんてあり得ない。


カサブランカ様が話を進める。

「要は、私の子供と言い張るなら私に似ていなければ困るの。なら子供の母親が私に似ていればいいというわけ。そこで貴女に白羽の矢が立ったということ。もし断られたら、別の娘を探すことになるわね。まだ時間はあるわ」


もし受け入れたらどのような生活が待っているのだろう?そして断ったら?そもそも信じていいのか?まあ、向こうが言っているようにわざわざ騙す意味もないか。


「孤児院での生活は食事の心配は無いし安全よ。それに教育も受けられる。将来真っ当な仕事につくこともできるわ。でも、仕事もたくさんあって自由な時間はほとんど無いわね」

そもそも生きるために必死で自由な時間なんてあったことがない。


話は続く

「受け入れてくれるのなら孤児院よりも多くのことを学べるし、自由な時間も取れる。食事も豪華よ。ただし好き放題食べられるというわけにはいかないし、好き嫌いも許されないわ。貴女には私の代わりに世継ぎを生むという役割があるから健康的な生活が求められるの」


好き放題食べたことなんて無いし、好き嫌いなんてしていたらたちまち飢え死にするような暮らしをしてきたのだ。これを悪い条件だと思っているのだろうか?お貴族様ってそんなものなの?


「即答してくれとは言わないわ。しばらく考えてね。何ならこのまま出ていっても構わないし、出ていったあとやっぱり受け入れる気になったら戻ってくればいい。ここに居る限り食事は出るしベッドも用意してあるわ」


そう言うと一同出ていってしまい、ひとり取り残される。外に向かう扉は開かれていて出ていこうと思えば本当に出ていけそうだ。


とりあえず建物を見て回ることにする。最初に通された部屋は無人だ。仲間たちは既に別の場所に移されたらしい。建物は平民の家にしては大きめだが貴族の邸宅ではなさそうだ。台所を見つける。そこに初老の女が居た


「おやお腹すいたのかい。すぐに食べられるよ」

約束通り食事が提供されるようだ。きちんと調理された温かいものを食べるのは初めてかもしれない。こんなにも美味しいものなのか。仲間たちと一緒ならもっと美味しかっただろう


「今日のところは好きなときに食べさせろとのことだけれど、明日からは一日三度規則正しく食べさせろと仰せつかっているから、そのつもりでいておくれ。あたしだって毎日好き勝手なときに食わせろなんて言われても無理だからね」

もっともなことだろう。もともと毎日きちんと食べられることなんて考えられない生活をしてきた。食べられるときに食べるだけなのが普通だった。何日も食べられないことだって珍しくない


「それと手紙を預かっているよ」

そんな事言われてもわたしは字を読めない。

「やっぱりそうかい」

そう言うと彼女は手紙を読んでくれた。要約すると


・この家は好きに使っていいし、自由に出かけても構わない

・長時間外出するなら弁当を作ってもらえ

・暇を見つけて顔を出すが、返事は慌てなくていい。決まっていなければまた来る

・出ていくのなら、以降食事はいらないと彼女に伝えること。戻ったら再開するようにお願いしろ


とのことだ。こんな至れり尽くせりでいいのでしょうか。

なお彼女は近所に住んでいていて、詳しいことは教えられること無く金で雇われたとのことだ。この家はしばらく空き家になっていたそうです


わたしに与えられた選択肢は3つ

カサブランカ様の話を受け入れるか断って孤児院に入るかここを出ていって浮浪児に戻るか

浮浪児に戻るというのはありません。美味しい食事と温かい寝床が保証された生活を知ってしまえばそれを捨てる気にはなれません。だとするなら・・・・


カサブランカ様とエルドレッド様は不規則にやってきます。二日三日続けてくることもあれば数週間来ないこともあります。でも答えを求められることはありませんでした。エルドレッド様が淹れてくれたお茶を三人で飲み談笑だけして帰っていきます。もしかしたら私以外にも候補者がいるのかもしれません。もしその娘が話を受け入れたらわたしはどうなるのでしょう?


ある時思い切って聞いてみました

「話を受け入れた場合、仲間に会うことはできるのでしょうか」

話を受け入れた場合心配スべきことはこれだけかもしれません。カサブランカ様はニッコリとして答えます


「好きなだけ、とはいきませんけれど、視察や慰問という名目で会いに行くことはできますわ。できるだけたくさん会えるように配慮してあげます」


これで決心がつきました。

「お話お受けいたします。よろしくお願いします」

「ふふ。良い子ね。そう言ってくれると信じていたわ」


返事をしたら早速ということで公爵家のお屋敷に移ることになりました。そこはまさにお屋敷と言うか、むしろ宮殿とも言えるような立派な建物です。

そこでわたしは温かいお湯に入れられ全身洗われ綺麗なドレスを着せられました。こんな立派なドレス汚したら大変です。そう思っていたら汚そうが汚すまいが一度着たら廃棄だから気にするなと言われました。ますます恐ろしいです。

どうやらドレスを着るのは特別なときだけとのことで、普段はもっと簡素な、と言っても今まで着たことのないような立派な服を着るようで少しだけ安心しました。


王太子様とお会いするのは、カサブランカ様が輿入れする間際とのことで、しばらくは平穏、と言っていいのでしょうか、に暮らします。

約束していただいた通り仲間たちとは何度も面会できました。最初の面会のときは私のあまりの変容ぶりに皆目を丸くしたものです。それでも孤児院での暮らしぶりをたくさん聞かせてくれました。皆楽しそうに暮らしぶりの素晴らしさを聞かせてくれたので一安心です。


なんと驚いたことに私はいつの間にやらどこぞの男爵様の養女ということになっていました。小間使いや下働きならともかく、カサブランカ様のお側にいるために必要なことだそうです。でも男爵の養女になってもなにか変わるわけじゃないから気にすることはないと言われました。


お屋敷での暮らしは基本的には勉強が地位心です。読み書き計算など一般的なことは家庭教師に教わりますが、そのほかいろいろなことをカサブランカ様やエルドレッド様が教えてくれました。それにカサブランカ様はたくさんの物語を読み聞かせてくれます。


その中に『魔法』という不思議な力が登場するお話があり、とてもワクワクしました。


なんと、お話の中だけのことだと思っていた魔法が実在すると言うではありませんか。しかもカサブランカ様もエルドレッド様も使えるそうです。

ただほとんどの人は魔法を使うための力がほんの少ししかありません。なので魔法の存在自体がほとんど気付かれていないそうです。


でもその僅かな力でも長い間溜め込めば誰でも魔法を使えるそうです。でも、一度使ってしまえばため直しが必要なのここぞというときにだけしか使えないようです。

カサブランカ様は力のため方や魔法の使い方も教えてくださいました。


やがてカサブランカ様が成人になるひが近づいてきました。その頃になると王国の社会情勢が怪しくなってきたそうで、数十年後には平民が蜂起して革命が起こるだろうというのです。

あらかじめ備えて阻止する事はできないのかと聞きましたが、もはや流れは止まらないそうです。

なので、革命の中で生き延びるすべを色々教えてくれました。中でも情報収集が大事だそうで、重点的に教えてもらいました。







この世界に魔法が存在することが発覚しました

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