なろうテンプレの原典? ゲーテ作『ファウスト』が後世に与えた影響とその世界観
歴史の教科書などでも、その名を見かけるゲーテの大作『ファウスト』
今回はその内容について少し触れたい。
メフィストフェレスという名の「悪魔との契約」により、展開する物語。
(画像生成AIで適当に出てきたメフィストフェレス)
主人公の名はファウスト博士。15~16世紀に実在したとされる錬金術師。ゲーテが執筆する以前から、彼に関する伝説や逸話は数多く存在した。
人生の晩年、ファウスト博士は知を極めた位置にいたが、学問だけを追求し続けてきたあまりに、自らの「人生経験のなさ」に絶望していた。
物語の冒頭「天上の序曲」
神のお気に入りでもあったファウスト博士(神の救済リストにも記載済)。そこにメフィストフェレスが、悪魔からの誘惑に対し「彼の魂が堕落するかどうか」の賭けを神に申し入れる。神はこれを承諾し、ファウストへの誘惑を悪魔メフィストフェレスに許可する。
メフィストフェレスがファウストと交わした契約 ――
・ファウストは20代の姿にまで若返り、人生をやり直す
・現世でのあらゆる快楽と悲哀の経験をメフィストフェレスが提供
・契約期間は24年
・「時間よ、止まれ!なんて素晴らしいんだ」とファウストが口にした瞬間に契約は終了し、ファウストの魂はメフィストフェレスのものとなる
―― もうこの契約内容だけで、どこかで見たのオンパレードだ。
若返ったファウストは、まず未経験だった女との恋愛へと走り、ほどなく結婚。その後はメフィストフェレスと共に乱痴気騒ぎに明け暮れる。これまでに学問で得ていた知識と世俗的な経験との照合を行い、人生の本質を探る。
この第一部では、かの有名な「ワルプルギスの夜」も登場する。
ブロッケン山に集まった魔女たちが、悪魔と共に踊り、儀式をとり行う。これにメフィストフェレスと共に参加するファウスト。幻想的な光景の数々を目の当たりにし、欲望し、葛藤する。
ワルプルギスの夜の狂乱の後、下山したファウストに待ち受けていた悲劇とは? ―― ここまでが第一部(1808年に発表)のあらすじ。
この設定と展開を読むだけでも、なかなかに興味深い。
後に様々な作品で、いくつものパートが流用されることとなったのも頷けるよく出来た構成だ。
第二部では ――
・前世での知識を生かし、帝国の宮廷で無双
・弟子がホムンクルス(=肉体は持たず知性のみの存在)を創造
・メフィストフェレスの力により時空を超え、古代ギリシャへ
・古代ギリシャの神話的世界で古典的ワルプルギスの夜にも参加
・そこで出逢った絶世の美女と結婚
―― その後もいろいろとあり、ファウストはメフィストフェレスとの契約である「例のセリフ」を本当に口にするのかどうか、が物語のカギとなる。
ゲーテが20代から書き始め、第二部は80代まで生きたゲーテの死の翌年、1833年に発表されたという超大作。
本当によくできた「なろうの始祖」的な作品と言えはしまいか。
―― 今のなろうは、なろうですでにある「誰かが誰かのテンプレを真似て作ったテンプレの亜流作品」を「さらに模倣しただけ」の何番煎じか分からないような作品で溢れ返っている。
今のなろうで目立ちたいのなら、しっかりとした「原典」を模倣した方が、重厚ななろうが描けるのではないのかなどと老婆心(男だが)。