第二話「俺、実は魔王にあっちゃいけないんです」
異世界 アルド・ゼロ
この世界に転生された勇者は勤勉であった。
他の物と類を見ない「飛翔」という名前のスキルで各地を飛び回り、魔王の配下を次々に討伐していった。
休みの日は自ら訓練場に向かい鍛錬、ギルドで情報収集をしていた。
しかし、彼はついに魔王と闘うときに不意打ちをくらってしまい命を落としてしまったのだ。
勤勉だけに合って仲間を集めない、孤独の勇者であったのも原因だっただろう。
途中、回復薬が切れそうになった際にも、彼は魔王討伐を第一に考え先に進んでしまった。
「いち早く世界を救いたい」そんな真面目で勤勉な気持ちが彼を死に直面させてしまったのだ。
彼の第二の人生はこれにて幕を下ろしてしまったのだ。
◆ ◆ ◆
俺が魔方陣から出て、魔王城前にたどり着いた。
「ここが、アルド・ゼロの魔王城か……」
巨大な石壁をくりぬいた中に要塞のような城、監視塔はゆえに100mを越している。
一部、戦闘があったのだろうか? 城の入り口付近の岩に剣で切ったような線がうっすらと入っていた。
勇者よ、お前の亡骸しっかりと回収してやるからな。今までこの世界で頑張ってくれてありがとう。
俺は小さくつぶやき魔王城の裏手に回り搬入口からこっそりと侵入する。
「さあ、仕事の時間だ」
俺の名前は田中将大、異世界チートスキルの回収者だ。
天界から貸与した様々なチートスキルを異世界から持ち帰る事を生業としている。
異世界転生で魔王を倒すなど、無事に課題をクリアできたものは往生後、天界にて授与式およびチートスキルの返還式を行う。しかし、課題をクリアできない者が死んでしまったとき、それが故意でなくともそのチートスキルは異世界に残り続けるのだ。
「もし、このチートスキルが誰かに悪用されたら?」
「魔王がチートスキルを持つことになったら?」
考えるだけで大変面倒である。だから、そうならないためにも俺は異世界に向かい、チートスキルを回収するのだ。
異世界転生者には転生前、体の一部に小さな1mm×1mmの印をしている。この印に彼のチートスキルの根源を保管しているのだ。
どの部分に刻印されているかは毎回ランダムだから、基本的に転生者の亡骸は全回収して天界に持っていくのが望ましい。
そのため、俺の今回の仕事で行う事は以下3つである。
1,勇者の亡骸を発見し天界へ回収する
2,亡骸を既に魔王側で回収されていた場合、ばれないように奪う事
3,もし、見つかってしまった場合は交戦もやむを得ない
(えっと、勇者の位置は……大会議室か、4階だな)
俺は左手にもった小さなタブレットで異世界情報を確認する。
これは「イセパット」と言って異世界用のタブレット端末の事だ。
女神はこの端末を天界で異世界転生候補へ次の世界紹介用に使用しているが、俺はこの端末を異世界に持ち込み仕事を行う。
このイセパットの中には世界情報、魔王の状態、魔王軍数、勇者のだいたいの位置、勇者の状態が確認できる。
薄暗い搬入口を進む。人間ならたいまつは必至であろう。どうやらこの世界の魔族は目が良いらしく。このくらいの暗闇でも問題なく活動できるようだ。
ちなみに俺は天界人だ。俺はこの世界で言うとチート人間で体力、戦力、魔力等は全てカンストしている。
だからこんなくらい道もクリアに見えている。
だから、なんというか……たまに申し訳ないときがある。
「おま! だれだ!」
目の前に護衛の大ゴブリンが現れた。
普通の3倍サイズのゴブリンだ、全長は3mを超えている。俺の身長の倍以上ある。
「見ない顔だな、侵入者……」
シュン
その瞬間、俺はゴブリンに手とうをくらわす。するとゴブリンは一瞬でその場に倒れてしまった。
「俺、能力がカンストしているから力の加減が難しいんだよなー」
この世界で俺は魔王より強い。もし出会ってしまったら、1撃か2撃くらいで倒してしまうくらい強い。
しかし、俺が魔王を倒してしまっては意味がないのだ。
勇者が魔王を倒してこそ意味があるのだ。
だから、魔王に出会って交戦状態にならないように、そしてこの世界に影響を与えないようにこっそりとチートスキルを回収するのだ。
(あそこの階段を使えば4階に行けそうだ)
俺は階段をのぼり魔王と勇者が戦った大会議室を目指す。
俺は魔王に合わないようにこっそりと先に進む。