買い物 2
ゼナンに連れていかれたブティックは、店はそれほど大きくないが、落ち着いた感じの店だった。
店頭には既製服も少しだけ置かれている。
「ようこそおいでいただきました。カペイラ侯爵さま」
店主がゼナンに向かって頭を下げた。
「やあ。今日は、彼女のドレスを何着が頼もうと思っているんだが」
「はい。ではこちらに」
奥に案内しようとする店主の背を負いながら、レイラは思わずゼナンに尋ねる。
「あの、何着かって、どういうことですか? 成人の儀のドレスを買いに来たのでは?」
「うん。成人すれば、いくつか他の集まりにもいくことになるからね」
にこやかにゼナンは微笑む。
「でも」
「ではまず、採寸をさせていただきますね。どうぞこちらに」
ゼナンにいろいろ聞きたいことがあるというのに、有無を言わさぬ強引さで店主は奥へとレイラを連れて行った。
「まあ。なんてスレンダーなんでしょう。コルセットの必要はありませんね」
「腰の位置がとても高いのですね」
店主とその助手たちが、レイラの採寸していく。
訓練された店員たちは、レイラの痩せた体を見ても、マイナスなことは一言も言わない。
むしろ、まったく考えてもみなかったことで、レイラを褒めまくる。
侯爵家の依頼だからというのもあるだろう。
採寸が終わると、こんどは、ドレスのデザイン選びだ。
レイラはよくわからないのと、遠慮もあって決めかねていると、ゼナンと店主が勝手に盛り上がって数着のドレスを作ることになってしまった。
それだけでも申し訳ないのに、ゼナンは店の既製のドレスをレイラが採寸している間に買うことにしたらしい。
「こんなに買っていただくのは、申し訳ないのですが」
「いいんだ。俺が、着飾ったレイラを見たいだけだから」
受け取れないとレイラが言っても、ゼナンは譲らない。
「俺の母上なんて、この倍は買っていたぞ?」
「侯爵夫人と私は、立場が違います」
レイラは、ゼナンの幼馴染だが、侯爵家の人間ではない。
「俺はレイラに求婚しているから、大丈夫」
にこりと、ゼナンが笑う。
「俺はもっとレイラに貢ぎたい」
「ゼナンさま……」
ゼナンは本気で言っているのだろうけれど、レイラとしては、自分がその好意を受け取っていいとはどうしても思えない。
もし、養父母が亡くならず、レイラが十二歳から今日まで、伯爵令嬢として生きてきたのであれば、喜んでイエスと言えたのだろう。
だが、レイラは本当の自分が、異国の孤児だと知ってしまった。何をやっても褒められもせず、ただひたすらに働かなければいけないと言われ続けた。
泥水をすするように生きなければならないレイラと、侯爵であるゼナンではすむ世界が違う。
が、ゼナンは、レイラの気持ちをよそに買い物を済ませてしまった。
「ゼナンさまのお気持ちは嬉しいです。でも、私とゼナンさまでは、つり合いが取れません」
店の外に出ると、レイラは立ち止まった。
このまま、ゼナンの好意に甘えるわけにはいけないとレイラは思う。
「レイラは伯爵令嬢だ。侯爵家に嫁いでも何の問題もない」
「でも」
レイラは首を振る。自分は養女だ。
「レイラ。俺を信じろ」
レイラの頬に、ゼナンの手が触れる。
「ベネトナシュ家での仕打ちを簡単に忘れられるとは思わない。だが、オラル・ベネトナシュより、俺の方がお前の価値を知っている。俺はお前が好きだし、お前は俺に甘やかされる価値のある人間だ」
「でも、私は……私なんかが」
「なんかは禁止だ。信じられないなら、俺を利用すればいいのだから」
ゼナンはそう言って微笑む。
レイラは、それ以上逆らえず、ゼナンの手を取る。
「それに……ひょっとしたら、レイラは孤児ではないかもしれない」
ゼナンは呟く。
「……どういう意味ですか?」
「今はまだ確証がないから言えない」
ゼナンは大きく息をついた。
孤児ではないと言うのはどういう意味なのか。
ゼナンはそれ以上話す気はないらしい。
レイラは、問い詰めたい気持ちをぐっとこらえた。