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幼馴染 2

 意識を失ったレイラを、ゼナンは抱き上げた。

 ──軽すぎる。

 レイラは十七歳。体型的には大人のはずだ。まるで、子供を抱いているような軽さに、ゼナンは驚愕する。

 驚いたのはそれだけではない。

 レイラの腕に魔封じの輪がはめられている。

 ──罪人にはめるものじゃないか。

 魔封じの輪は、魔力を封じるだけでなく、『鍵』を持つものの命令に逆らえない効果もある。

 それにこの輪をしているものは性的接触ができない。

 本人が性的接触をした時だけでなく、他者が輪を持つ者に試みた場合も、魔封じの輪に溜め込まれた魔力で攻撃を受ける。

 もともとは、異国で後宮に勤める男と妃の密通を防ぐために作られたものらしい。

 はめたものの寿命を縮めるとして、一般的には使用が禁止されており、例外的に、犯罪を犯した魔術師にだけ使われている。

 ──そもそも領地で静養しているはずのレイラが、なぜ、街道で倒れている?

 ゼナンはこぶしを握り締める。レイラを馬に乗せ、ゼナンはまっすぐに自分の屋敷へと向かう。

 ベネトナシュ家に連れていく気にはなれない。

 ──オラル伯爵の言ったことは嘘だ。

 魔封じの輪をはめられたレイラが色欲に溺れるはずがない。

 色狂いを防ぐためにはめた可能性を考えても、レイラがここにいる以上、真実は欠片もなかったように思える。

 何が正しいのか、伯爵を問い詰めたい。

 ──君はどうして……。

 ゼナンはレイラを抱えて馬を操りながら、レイラに最後に会った日のことを思いだす。

 あれは、前伯爵夫妻の葬儀の日だ。

「叔父さんが意地悪を言うのだったら、俺が何とかしてあげる」

「ありがとうございます。でも大丈夫です」

 オラルに引き取られることになるレイラを心配するゼナンに、レイラは微笑んでみせた。

 その微笑みは、今でも忘れられない。

 こんなことになるのであれば、あの時動くべきだった。

 ──なぜこんなに熱があるのに、君はこんなところにいたのだ?

 疑問はつきない。

「だが、それより今は医者だ」

 ゼナンはレイラを抱えながら、家路を急いだ。



 窓の外は既に真っ暗になっている。

 魔道灯は魔力封じの輪をつけているレイラに影響を与える可能性があると言うことで、昔ながらのランプを使用しているため、部屋は薄暗い。

 ゆらゆらと炎が揺らめいている。

「とりあえず解熱剤を飲ませましたので、しばらくすれば熱が下がると思います」

 診察をおえた医師のバーグマンは、ゼナンを呼んで、そう告げた。

 表情がかなり険しい。

 ベッドに寝ているレイラのそばで、侍女のベラが汗を拭いてやっている。

 灯りがゆらめくせいか、ベラの顔色が青白く見えた。

「熱もそうですが、体が大変、衰弱しております。栄養失調と思われます」

「そうですか」

 ゼナンは頷きながら、唇をかむ。街道で見つけた時から、彼女が異常なまでに痩せていると思っていた。栄養失調と言われても、全く驚きはない。

 年頃の娘だから、ダイエットしているというレベルではないのだ。

「それから、全身傷だらけでした」

「なんだって?」

 バーグマンの顔がさらに険しくなった。

「鞭を打たれたあとのようです。それも、一度二度のことではなさそうです」

 バーグマンはため息をついた。

 バーグマンの横にいるベラが無言で頷く。どうやら、かなりひどい傷だったのだろう。

「さらに魔封じの輪をはめられているということで、活力もかなり失われております。唯一の幸いと言えば、そのおかげで、性的な虐待は受けていないようです。だから良かったとはとても言えませんが」

「……そうだな」

「なんにせよ、魔封じの輪は早々に外すべきです。ただ、今の彼女の体力を考えると、やめたほうがよろしいでしょう」

「ああ」

 ゼナンは頷く。

 魔封じの輪ははめられた本人には、絶対に外すことができない。

 従属の効果のせいだろう。

 だが、本人以外なら、輪にこめられた術を圧倒する魔力で解錠の術を使えば、鍵がなくても解錠できる。だが、鍵を使う場合と違って、はめているものにダメージを伴う。

 おそらくゼナンならたやすく解錠できるだろうが、今のレイラの体力では、ダメージに耐えられそうもない。

 ──レイラが何をしたと言うのだ。

 怒りで、そのままベネトナシュ家に殴りこみたい気持ちを、必死でこらえた。

 まずは、レイラに事情を聞く必要がある。

「おそらく、長年虐待を受けていたと思われます。心の傷も大きいかと」

「……なんてことだ」

 ゼナンは顔を手で覆う。

 ゼナンが留学している間に、いったいレイラはどんな目にあっていたのだろう。

「とりあえずは、熱が下がるのを待ちましょう」

 そういって、診察を終えたバーグマンが帰っていった。

 解熱剤を処方されたものの、まだ、レイラの熱は下がらない。

 ゼナンはベッドの傍らに立ち、レイラの頬に触れた。

「もっと早く、レイラに会いに行けばよかった……」

 だが、たとえ半年前に会いに行ったところで、オラルはレイラとゼナンを会わせるつもりはなかったのではないか。

 今日、ゼナンがレイラを見つけることができたのは、本当に偶然だった。

 神の采配だったのかもしれない。

「絶対に、このままではすまさない」

 レイラはどこで、どのような扱いを受けていたのか。

 オラル・ベネトナシュはどこまでそれを把握していたのか。

 ──侯爵家の全力を挙げて、すべてを明らかにしてみせる。

 ゼナンは、こぶしを握り締めた。


 

 

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[一言] 主人公の置かれていた境遇が辛すぎて、幸せになって欲しいです。 溺愛希望!
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