表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虐げられた令嬢は幼馴染の侯爵に溺愛される  作者: 秋月 忍


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

終章

 鐘がなると、まず皇太子であるマルスが現れた。

 焦げ茶色の髪をしていて、瞳も同じような色をしている。端正で柔和な顔立ちだ。

 彼もまた、今年成人になるため、ホストでありながらも、成人の儀に参加するらしい。

 次に現れたのは、皇妃アーリアだ。

 アーリアは、東方のラゼルダ王国の出身だ。髪は黒く、瞳も黒い。魔術にも長けている。

 皇帝がその昔外遊したときに、一目ぼれをして、連れて帰ったという話だ。

 そして、最後に皇帝が入場をする。

 皇帝ジリアスは、マルスと同じ髪の色で、瞳も同じだ。

 よく見れば、二人はよく似ている。

 三人は、ホールの一番奥にある一段高い位置に並べてある椅子に座った。

 皇族の三人が椅子に座ると、会場のざわめきが消え、しんと静まり返る。

「本日成人の儀を迎えるそなたたちに心からの祝福をおくろう。これから、そなたたちがこれから帝国の未来を担っている」

 皇帝の話を聞きながら、レイラは自分と同じ髪の色を持つ皇妃に目を奪われていた。

 レイラは自分以外の黒髪の人物を初めて見た。

──ひょっとしたら、私はラゼルダ王国から来た人が親だったのかも。

 もちろん、顔も知らない実の親より、亡くなった養父母の方がレイラにとっては大事だ。

 レイラを手放した理由がどんなものであったにせよ、育ててくれたのは養父母なのだから。

「エードル男爵家、ファーズ・エードル」

 いつの間にか皇帝の話は終わり、成人の儀を迎えた者たちの名前が呼ばれ始めた。

 原則として身分の低いものから呼ばれていく。

 同じ爵位なら、役職や、税収で決まるらしい。

「ベネトナシュ伯爵家、スカーレット・ベネトナシュ」

「なんで私の方が先なのよ」

 レイラより先に名を呼ばれたスカーレットは、不満げにレイラをにらみつけ、呟く。

 同じ家に何人も該当者がいた場合は、継承権の低い方が先に呼ばれる。

 つまりスカーレットよりレイラの方が格が上ということだ。

 とはいえ、さすがのスカーレットもここで文句を言う気はないようだった。

 だが、次に呼ばれると思っていたレイラだが、レイラの名は呼ばれなかった。

 そして、侯爵家の名が呼ばれ始める。

──どういうこと?

 レイラの名が飛ばされたことで、スカーレットはにやにや笑っている。

 周りが静かでなかったら、大笑いしていたかもしれない。

「大丈夫だ」

 動揺するレイラの耳元で、ゼナンが囁く。

 なぜだかわからないが、ゼナンはレイラの名が呼ばれなくてもまったく動じていない。

 ゼナンが焦らないのであれば、きっと理由があるのだろう。

 レイラは、緊張しながら、自分の名を呼ばれるのを待った。

「ベネトナシュ家、レイラ・ベネトナシュ」

 レイラが名を呼ばれたのは、あとは皇太子を残すだけというタイミングだった。

 周囲にどよめきが起こる。

 間違えたというには、あまりにも不思議なタイミングだ。

 レイラは皇帝の前へと歩み出て、淑女の礼をする。

「レイラ・ベネトナシュが、陛下にご挨拶申し上げます」

「ふむ」

 レイラの挨拶に皇帝が頷く。

 通常なら皇帝が一言レイラに言葉を与えて終わりだ。レイラは皇帝が口を開くのをじっと待った。

「ブルーム」

 皇帝はレイラにではなく、側近の名を呼んだ。

「はい。陛下」

 皇帝の側近であるブルームは、魔力玉と呼ばれる、こぶしほどの大きさのものをレイラの前に差し出した。

 魔力玉は人の持つ魔力の強さや、量、それから種類などを判別する道具だ。

「触れてみなさい」

 皇帝に命じられ、レイラは魔力玉に手を触れた。

 すると、まばゆいばかりに魔力玉が青白く光り輝いた。

「マルス」

 皇帝は、自分の息子の名を呼んだ。

「お前も触れてみなさい」

 皇太子マルスは、父に命じられるまま、魔力玉に触れると、レイラの時と同じように青白く輝く。

「やはりそうか」

 皇帝ジリアスが得心したように頷いた。

「レイラ。そなたは、マルスの双子の妹だ」

「え?」

 突然の言葉にレイラは驚き、周囲にどよめきが起こった。

「ふた月前、そなたがアーリアの娘ではないかと言ってきたのは、カペイラ侯爵だ。侯爵、ご苦労であった」

「いえ。お役に立てたのであれば、何よりです」

 ゼナンが一歩前に出て、頭を下げた。

 レイラはまだ、皇帝の信じられない告白を信じられずにいた。

 いったい何が起こったと言うのだろう。

「今から十八年前。アーリアは双子を産んだ」

 皇帝は周囲に聞かせるように、話し始めた。

「四年前に死んだ私の母、皇太后は、非常に迷信深く、さらに言うならば異国嫌いであった」

 皇太后は、異国から嫁いできたアーリアをずいぶんと虐めた。

 皇帝がどんなにかばっても、後宮で力を持っている皇太后の力はなかなかそげなかったらしい。

 そして、アーリアが双子を産んだことを知り、もうすでに迷信と言われていた『双子は国を亡ぼす』という話を持ち出し、一人を殺すように執拗にアーリアに迫った。

 そんな時、アーリアの見舞いに訪れたベネトナシュ伯爵夫人が、一人を連れ帰ると言ったのだ。

 城から出たら、二度と誰の子かわからないようにすると誓った。

 そしてベネトナシュ夫人はそのまま仕事をやめ、領地に戻ってしまった。

 レイラの戸籍はかなり細工され、孤児院から引き取った形になっていただけでなく、実際の生まれよりも一月以上遅れる形で、提出された。

「ベネトナシュ伯爵夫妻はかなり慎重に、そして巧妙にそなたを隠した」

 もともと皇太后は、アーリアに似ていたレイラには全く興味がなく、特に追うことはなかった。

 そして、ベネトナシュ夫妻が育てていたはずであろうレイラは、五年前、二人の死とともに、領地に帰ったとしか消息が分からなかった。

 積極的に探さなかったのは、何よりベネトナシュ夫人とアーリアの約束によるところが大きい。

「ふた月前、カペイラ侯爵から、そなたが、アーリアの娘ではないかと言われ、今日は、魔力によって、本人かどうかを確認させてもらった。カペイラ侯爵は公の場で証明したいというので、今日まで待った」

「ゼナンさま、どうして?」

 なぜ、今までレイラにも話さなかったのか。

「侯爵は、私がそなたを秘密裡に始末せぬように、人の目のある今日にせよと言ったのだ。そうだな?」

「恐れ入ります」

 ゼナンは否定も肯定もせず、頭を下げる。

「こちらが真剣に探さなかったこと、異国に行かされたことなどで、侯爵は私を恨んでいるのだよ」

 皇帝はそう言って苦笑した。

「留学生に選ばれたことは恨んでおりません」

 ゼナンは首を振った。

「あえて言うなら、ベネトナシュ家をレイラに継がせなかったことでしょうか」

「それは……」

 十二歳の少女に跡を継がせるのは帝国の法律上難しい。

「あの。ゼナンさま。私は別にベネトナシュ家を継ぎたいと思っていたわけではありません」

 使用人より下の待遇に扱われていたことは正しいと思えないが、それは別に皇帝のせいではない。

「それに、こんなことを申し上げるのは非礼と存じますが、さすがに自分が皇族だとは思えませんし、その役目が務まるとも思えません」

「……欲のない子だ」

 皇帝はレイラを見て微笑む。

「今後どうするかは、侯爵とも相談するとよい」

「ありがとうございます」

 レイラは頭を下げた。

 成人の儀は再開され、舞踏会が始まった。



 レイラが皇女だとわかったことで、レイラの周りに人垣ができた。

 ゼナンが周囲を蹴散らすようにレイラの手を取ってくれなければ、レイラはパニックになっていただろう。

 人を避けるように、レイラとゼナンは中庭に出た。

「驚いた?」

「……はい」

 突然皇女と言われて、すぐに納得できるわけもない。

 レイラは、ついこの前まで、泥水をすするように生きてきたのだ。

「レイラは、孤児ではないと言ったろう?」

「ですが……」

 さすがに、皇族が親だなんて、わかるはずがない。

「前ベネトナシュ夫人は、アーリアさまと親しかったのはかなり有名な話だ」

 ゼナンは大きくため息をつく。

「うちの親父が気付かなかったのが不思議なくらいだ。いくらレイラが幼いとはいえ、その黒髪は間違いなくアーリアさまの血を引いている」

 成長したレイラに会ったゼナンは、アーリア皇妃やマルス皇太子に似ていると感じた。

 少なくとも、この国で一番有名なラゼルダ王国人なのだ。ベネトナシュ夫人との関係を考えれば、簡単に推測できることである。

「まあ、髪や目の色だけで、決めつけるわけにはいかないけれど……しかし、レイラが皇女だとすると、手が届かなくなるな」

 ゼナンが寂しそうに笑う。

「ゼナンさまは、ずっと私を守ってくださるのではないのですか?」

 突然、ゼナンが遠くに行ってしまうように感じて、レイラはゼナンに抱き着いた。

「レイラ?」

「私は、ゼナンさまに救われました。ゼナンさまのそばにいたいです」

「しかし、レイラ」

「私は、ベネトナシュ伯爵家の人間で、皇族ではありません」

 自分を育ててくれたのは、養父母だ。

「私は」

「危ない! レイラ!」

 レイラは突然、ゼナンに突き飛ばされた。

「くそっ!」

 よろめいたレイラが振り返ると、ナイフを持ったスカーレットが立っていた。

 レイラをかばったせいで、ゼナンの左肩から血がにじむ。

「お前なんかが皇女だなんて、許さない!」

 スカーレットが刃を振り上げるのを、ゼナンが取り押さえる。

「離せ!」

 騒ぎを聞きつけた衛兵がわめくスカーレットを引き立てて行った。

「ゼナンさま!」

 レイラはゼナンに駆け寄る。

「大丈夫。これくらいなんともない」

「なんともないことはないです!」

 レイラは、ゼナンの止血をしながら、ぽろぽろと涙を流す。

「泣くな、レイラ」

 ゼナンは苦笑し、レイラの涙をキスでぬぐった。



 その後。スカーレットはそのまま牢に入った。

 そして、ベネトナシュ家がした、レイラへの仕打ちを知った皇帝は激怒し、オラル・ベネトナシュの爵位を取り上げ、その領地はゼナン・カペイラ侯爵が賜ることになった。

 なお、前ベネトナシュ伯爵夫妻の事故は、オラル・ベネトナシュが借金苦から逃れるために依頼したことが発覚し、オラルは現在裁判を待っている。

 レイラは一度は皇室に入ったものの、半年後にはカペイラ侯爵に嫁ぎ、三人の子に恵まれ、幸せにくらした。


 



 

  

 

この度は、当作品をお読みいただきましてありがとうございます。

こちらは『サマーシンデレラ』企画参加作品となります。


いささか駆け足になってしまいまして申し訳ありません。

少しでも楽しんでいただけましたら、幸いです。


なお、当企画ではたくさんの作品に参加していただいております。

よろしければ、そちらの方もお楽しみいただければ幸いです。


2023/8/28

秋月忍

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 遅くなりました! まさにシンデレラですね。そっか〜。双子ちゃんかぁ。 昔は不吉がられたんですよね。 レイラがあまりに可哀想で『なんとか幸せになって欲しいっ』て思ってました。幸せになってくれ…
[一言] 読ませていただきました。 レイラの出自は何かいわくがあるんだろうなあとは思っていましたが、なるほど。 冷遇・虐待の結果自己肯定感が極度に低くなっている子の救済は中々時間が掛かりますが、最後は…
[良い点] 幸せになって良かったですー! レイラがもう、可哀想で可哀想で。 違法な洗脳までされて酷使されて、ゼナンに助けられてもなかなか回復できなくて可哀想でしたが、ゼナンが温かくて良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ