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虐げられた令嬢は幼馴染の侯爵に溺愛される  作者: 秋月 忍


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成人の儀

 最後に寄った本屋で、レイラは『勇者リース』の本が欲しいと言った。

 その日初めて、レイラが『欲しい』と言ったのが、『勇者リース』の本だった。

 馬車で買った本を抱きしめているレイラが、愛おしく、その嬉しそうな表情を引き出したのが、ゼナンではなくて『リース』だった事にゼナンは幼い頃に抱いた嫉妬を再び抱いた。

 ただ、その本を読むときは、きっと幸福だったころのレイラに戻れるに違いない。それはゼナンには出来ないことだ。

「それで?」

 買い物から戻ると、ゼナンは秘書のランスからの報告を聞く。

 執務室にはゼナンとランスの二人だけだ。外はもう暗く、魔道灯が灯されている。

「ベネトナシュ家の領地の館に直接問い合わせましたが、レイラさまが滞在したことは一度もないそうです。それから、まあ、領地のことはほったらかしだそうで評判は芳しくないですね」

 予想はしていたことだ。

 ベネトナシュ家は、伯爵家としては豊かな方であったが、カペイラ家と縁が切れたこともあって、最近はかなり経済的に厳しいらしい。

「それから、レイラさまはかなり過酷な環境で働かされていたようです。かばった使用人はことごとく辞めさせられたとか」

「……そうか」

 レイラの体が傷だらけだったと、医師のバーグマンの話を聞いた時、ゼナンはある程度レイラの置かれた状態を予想出来はした。

 だが、改めてこうして話を聞くと、やはり怒りを感じずにはいられない。

「俺が送った質問状についての回答は来たか?」

「いえ。ダンマリを決め込むのではないかと思われます」

「やはりな」

 ゼナンは大きく息をついた。

 レイラが見つかった日、ゼナンはベネトナシュ家で『レイラは領地にいる』とオラルが言うのをはっきり聞いている。

 なぜ、レイラが、あんな場所で倒れていたのか。その質問の答えは、きっと返ってこない。

 黙っていれば、やり過ごせるとでも思っているのだろう。

「それはともかく、陛下との面談はいつになりそうだ?」

「十日後の昼にとのお話です」

「……そうか」

 ゼナンは頷く。

「成人の儀までに、すべてを明らかにしたい」

「はい」

 ゼナンのつぶやきに、ランスは丁寧に頭を下げた。



 


 時が過ぎ、成人の儀の日がやってきた。

 ゼナンにレイラが保護されてからほぼ三か月の時が過ぎ、レイラの体に少しだけ丸みが出てきた。まだ、通常の女性に比べれば細いが、病的な痩せ方ではなくなりつつある。

 成人の儀のために作られたドレスは、流行のオフショルダーだが、首元にショールを巻いているので、肩は露出していない。

 薄い桃色で、たっぷりとレースをあしらったものだ。

 髪は結い上げ、薄く化粧を施している。

 ベラが念入りに着飾ってくれたことでレイラはいつもと違う自分になれた気がしている。

 レイラをエスコートしてくれるゼナンは、ブラウンのフロックコートだ。

 正装をしたゼナンは、いつもにまして、キラキラしており、レイラの脈は速くなる。

 成人の儀は、十八歳を迎えた貴族の子らが、皇帝に拝謁できる日だ。

 半年に一度行われるその儀式に、自分が参加できるとはレイラはついこの前まで考えたこともなかった。

「行こうか」

「はい」

 レイラは、ゼナンにエスコートされ、宮廷の大広間に入った。

 広間には大勢の着飾った人々がいた。

 楽団が音楽を奏でていて、奥の方には、軽食が準備されている。

「ゼナンさまの時も、こんなに人がいたのですか?」

「俺は、実は出ていないんだ。留学していたから」

 ゼナンは苦笑する。

「残念ですね」

「まあ、そうだね」

 ゼナンは頷く。

 もっとも、ゼナンは侯爵だから、皇帝に拝謁する機会はほかにもある。

 それほど残念でもないのかもしれない。

「あちらに行って、何か食べようか?」

「はい」

 ゼナンに促され、レイラが奥のテーブルへと向かおうとしたときだった。

「……まさか、レイラ?」

 どこかで聞いたことのあるその声にレイラは振り返る。

 金髪の女性──スカーレットが、悔しそうな顔をして立っていた。

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