1.5 関玿side
19時に2話、20時に3話、21時に4話を更新します。
男は、目の前で渦巻く巨大な火柱を、ただ眺めていた。
いや、眺めていることしかできなかった。
高い白壁を越えることはかなわず、鉄製の両開きの扉は、熱で変形した閂でしっかりと閉じられている。
染みだした熱気に、顔が燃えているかのように錯覚し、無意識に頬を手の甲で拭った。一瞬、熱さは和らぎこそすれ、すぐに襲い来る熱波で痛みが蘇る。
「関玿!」
誰かが自分を呼んでいた。
仲間か。それとも、壁の向こうで今、死出の旅路に立った者たちの怨嗟の声か。
「俺が……火を付けたんだ……」
右手に握った直刀の刃先からは、ポタポタと赤い雫が灰色の石床を汚している。
先ほどまで数多の男達の肉を斬り裂き、骨を断っていた。その時は一度たりとも、この直刀を重く感じたことはなかった。
だというのに、どうしてか今は酷く重くて……。
誰も斬りはしていないというのに。
甲高い悲鳴が聞こえるたびに、鉄の門扉が内側から打ち鳴らされるたびに、底のないぬかるみに落ちていくようだった。
「俺は、間違ったか……永季」
「あなたは間違ってなどない!」
「そう、か…………そうか……」
掠れた音を伴って唇が震える。
「……頼む……どうか――――」
それ以上は、言葉にすらならなかった。




