幸運な旅人達
大雨の中、山奥のロッジに休む旅人の一行があった。夕陽が落ち、前の一人が見えるかも怪しいほどに暗闇の広がる山奥に、人の手が遠のいた古びたロッジを見つけ、旅人達はそこにたどり着くなり、ストーブに薪を組んで火を起こし、各自の濡れた靴や服を乾かしていた。
「いつになると思う?」
「二日はかかるだろう」
二人の旅人がこれからどうするかについて話していた。
「おや…」
火の番をしていた男が、もう新しい薪が残っていないことに気づいた。
「外から新しい薪をとってきます」
「おう、気をつけろよ」
外に出ると、まだ少し雨が降っていた。足場は悪く、懐中電灯が無ければ一歩先すら見えないような暗闇が立ち込めていた。
ワイヤーで束ねられた薪の束を掴み、ロッジの中へ戻ろうとした時、向こうから犬の鳴き声が聞こえた気がした。声のした方へ光を向けると、何かが落ちていた。
気になった男は、薪束をドアの前に置き、落ちているものの方へ歩いていく。拾い上げてみると、それは人差し指から薬指が食いちぎられたように欠けている人の手だった。
男は小さく呻きながらそれを投げ捨て、尻餅をついた。その瞬間から全てが不気味で仕方なかった。急いでロッジの中に戻り錠をかけ、消えかけていた火に新しい薪をくべた。
暫く火にあたって落ち着いてきた頃、ふと不気味さを感じた。先刻話し合いをしていたはずの隊長らの声が聞こえないのだ。
「隊長?隊長!」
呼びかけても誰も応じない。奥の間に行ったのかと思い、ドアを開ける。だがそこには、三人分の荷物が転がっているだけだった。
「どうなってるんだ…」
と、突然寝室から床板の軋む音がした。男は驚きながらも、
「隊長?脅かさないでくださいよ…」
そう呼びかけながら寝室の方へ向かい、少し開いたドアから中を覗く。
しかし部屋の中には暗闇が立ち込めるばかりで、窓からさす月光が少しだけ照らし出したベットに何かが横たわっていた。
「隊長?」
思い切りドアを開くと、そこには元は人であったものが転がっていた。肉は裂け、脚や腕は引きちぎられ、部屋中に散乱していた。
「なんなんだ!」
パニックを起こした男は、一目散に玄関に向かい、自分で錠をかけたのも忘れ、何度も何度もドアを押し開けようとした。
「畜生!なんでこんな…」
ドンドンとドアに体当たりをし、次第に痛みがじわじわと広がっていく。
と、その瞬間、何かを突き刺され、腹から力が抜けた。音を立てて膝から崩れ落ち、恐怖と痛みで、声にもならない叫びをあげているのが、自分でもわかった。
(なんで…どうしてこんな…誰か…隊長…助けて…)
執拗に臓物を掻き回され、口と腹から、大量の血が吹きこぼれる。突き刺された何かを引き抜かれて、最期に力を振り絞り、後ろになんとか向き直るが、死の間際見えたのは、自分の首に噛みつこうとするそれの、全て呑み喰らうほどに真っ黒な瞳のみであった。
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