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21 作戦失敗

「は?? だから侍女を呼ぶから。」

シエルが怪訝な顔をする。


しまった!? いつもの調子で、ケンカ腰で言っちゃった。甘えた口調、甘えた口調、、、は、なんかちょっとシャクだから、せめて早口???


「今1人きりになりたくないの。それに、ドレスが窮屈だから今脱ぎたい。お願い、ねっ!」


「自分が何を言ってンのか、分かってんのか?」

シエルは私から視線を逸らさず、頭をガシガシとかく。上半身が裸だから、腕輪の煌めきだけがやけに目立つ。朝陽が窓の隙間から入る中、シエルの髪の色は、まるで腕輪から落ちたターコイズブルーの光によって染められたような錯覚を起こす。


「え、ええ、もちろんよ。」

(だから女は面倒くさいんだよ、とか何とか言って怒っていいのよ!)


「後悔すンなよ。」


シエルは一言そう言うと、ミシッとベッドを鳴らし私の隣に腰を下ろした。そして両腕を私の背中の後ろにスルリと潜らせたかと思うと、暖かな手で包み込むようにギュッと抱きしめた。


(えっ? ちょ、ちょっとタンマッ!)


そして抱きしめたまま、上体をゆっくりと起こしていく。シエルは片手で私の腰を支えたまま、もう片方の手で背中のドレスのボタンに手をかけた。


ぷにっと胸がシエルの鍛えられた筋肉に当たる。生々しい感触に慌てて胸の位置をずらそうと、手をシエルのお腹に置いた。途端、シエルがピクッと全身を緊張させるが、大きな手は優しい手つきで私の腰を引き寄せ離す気はないらしい。置いた手からシエルの体の熱が直接伝わってくる。


頬には引き締まったシエルの胸元の肌が当たり、少し顔をずらせば唇が触れてしまう距離で身動きできない。


シエルは、しばらく優しい手つきで、私の背中を弄っていたかと思うと、プチンッと音がしてボタンが一つ外れた。


「シ、シエルッ!待ってっ!ちょっと待って!」


「待たねぇ。そう言ったろ?」

吐息が首の後ろにかかるのを感じるほど、近くにいるシエルの声がとろけるように甘く響く。



(こんなの想定してないわよ!それにさっきから・・・。)



「胸のヒモが食い込んで苦しいの!」


シエルが私の腰を片手で支えたまま、パッと密着していた上半身を離した。


抱きしめられた時に違和感に気づいた。なぜか私の胸元を飾っていた革ヒモが外されていて、谷間が露出しているということを。シエルが上半身裸で滑らかな肌だったせいで、余計に革ヒモの固さが際立った。息をするたびに、胸がもっと膨らもうとして肌がこすれて少し痛かった。それより何より、ほぼ半裸で抱き合ってたなんて、恥ずかしすぎてシエルをまともに見れないっ!


「きゃあっ!?」


うつむいた途端、思ってた以上に状況は悲惨だった。


(両腕で胸元を隠したけどぜったい遅かった!! シエルに見られたわよね??? )



たった今、背中のボタンまで一つ外されたせいで、ペロンッと布がめくれているっ!! 胸の谷間だけでなく、大事な部分まで見えそうじゃないの!!!


両腕で隠そうとするほど、胸を強調してるようで恥ずかしいのに、かと言って腕を外す勇気もない。


「リーチェ。顔を上げて。」


知らない間に涙目になっていたみたい。シエルが指で、そっと涙を拭ってくれる。


言われるままに、顔を上げると、真っ赤になったシエルが、熱のともった紫水晶の瞳で私をジッと見つめている。


「綺麗だ。」


「え?」


「すっげぇ綺麗だ。」


(綺麗なのはシエルよ。)

夜空に煌めくユニコーンのような美しい生き物が、もし人であったならきっとこんな顔をしているに違いない。透き通った目に作り物のような左右対称の端正な顔。頬や目元がうっすらと赤く染まり、尋常ならざる妖しい魅力を帯びていた。


シエルだけど、シエルじゃないみたい・・・。今にもキスをしてきそうな悩まし気な表情をしている。照れ隠しで、返す言葉が意図せず乱暴になってしまう。


「何よ、急にっ!今までそんな事言ったこともないくせに。」


「だってどうせ本気にしなかったろ? でも、今のリーチェは、オレのこと意識してるみてぇだったから。」

クスッと笑った顔は、いつものシエルだった。


そりゃ、今までだったらシエルに何を言われようが大して真面目に受け取らなかった。でも今は?


(私はシエルとの結婚を撤回したかったのに、どうしてこんな事になってるのかしら???)


「私は、、、シエルを好きにはならないわっ!」


「どうして? オレたち結婚してるんだから、仲良くやってくのはいいことだろ?」


「それは・・・。でも、結婚といってもまだ両家の間で合意しただけだし。」

結婚の撤回を諦めてはいないのよ。


「リーチェはもしかして、まだローランのことが好きなのか?」

長いまつ毛を揺らし、微かに震える声でシエルが尋ねる。


「えっ?好きも何も、ローラン王子とは家が決めた婚約だっただけ。私は好きとかそう言うの分からないから、それでいいと思ってただけだし。」


「そうなのか?」


「そうよ。」


「じゃあ、どうして? ーーーリーチェがオレと心から結婚する気になるまで、オレはいつまでも待つ。」


どうしてって、シエルに殺されるかもしれないからなんて、言えるわけがないじゃない? それにシエルには、別に好きな女性がいるじゃないの、、、


「ノワール様のことはいいの??」


「ンでここでノワールのことが出てくンだ?」

ムッとしたような顔で、シエルが眉をつり上げる。


だって、、、と口を開こうとしたら、突然シエルが私を強い力で抱き寄せた!?


「ふぁあっ!」


くっついた胸と胸から、どちらの心臓の音か分からない大きな音が聞こえてくる。


「オレの気持ちを身体に分からせようか?」

そう言うと、パクリと私の耳をシエルがかじった。


「ひゃぁんっ!」

(ヤダッ、変な声が出ちゃった。)


「これで分かった?」

ふふっと笑うシエルに、ぶんぶんっと何回も首を上下に振る。


「明るくなってきたから少しの間1人でも大丈夫だろ? 今、侍女を呼んでくっから待ってろ。」

私の顔を覗き込むようにそう言うと、シエルは立ち上がり、部屋を出ていった。



(どう言うこと??? シエルは私を好きなの?)


たとえシエルが私を本当に好きだとしても、シエルが私を殺さない保証はない。


どうしたらいいの???

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