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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偽物錬金術師、異世界を蹂躙する。合言葉は「何とかしやがれ!俺の能力!」

作者: □□■■

なんで今更PVが伸びてんだろうと思ってたら、【ニセモノの錬金術士】っていうコミックが出たんですねえ。


2年ぐらい前に上げた話で1ミクロンも関係ないのでご注意下さい笑


「生きて帰るぞ!!」

「「「「はいっ!!」」」」


……薄暗い森の中、俺の目の前には悲愴な決意を浮かべた女の子達がいる。

ざっと20人ほど。

年齢や容姿は様々だが、見た感じ高校生から大学生ぐらいに見える。

皆さん妙に可愛いが……顔が怖い。

俺の隣にいる1人だけ大人っぽい。


腰には剣。

鎧を着ている。


剣は見るからにボロボロだ。

鎧も鎧部分より肌色部分の方が多いような有り様だ。デザインではなく、明らかにあったはずのパーツが無い。


「あの……リザさん、これは?」

俺は隣に立つ1人だけ年上っぽい女の人に声を掛ける。

リザというと紹介された。

彼女達の顧問的な立場らしい。


「……戦乙女(ワルキューレ)隊…我々には後がない」

声には張りがない。

白い髪は傷んで煤けている。

目の下には隈。

美人ではあるが、はっきりと疲れている。


「我々は! ハクト帝国軍の先陣としてカセメ砦に突撃を行う!」

一際背の高い凛々しいお姉さんが小高い丘に堂々とそびえ立つ砦を指し示す。

態度はかっこいいが、手にした剣は半分ほどでぽっきりと折れている。


「……あの……?」

「……」

リザさんに目をやると、耐えかねるように逸らされる。


「……無理ですよね?」

素人以外の何者でもない俺が見ても、この突撃は無謀だ。


砦は一欠片の傷みも見えない元気満タンな状態で、バリスタのような防衛設備やら弓を背負ったイカついお兄さん達が見える。


「逃げた方がいいんじゃ……?」

「……逃げられない」

リザさんは唇を血が出る程きつく噛み締めている。


「我々には後がない…」

悲痛な顔で繰り返す。


「我々は親族が罪過によって処罰された貴族家の生き残りだ」

「…はあ?」

リザさんは語る。

処罰されたのも納得出来ないような理由で、皆無理やりこの隊に入れさせられた。


無理難題を押し付けられ、失敗すれば厳しい処罰……というの名の陵辱が与えられる。


初めは30人ほどいたらしい……。

死の恐怖から泣き出して放棄した者などがいたらしいが、……彼女達は今、口にするのもおぞましいような目にあっているらしい。


「命令違反、任務失敗を待たれているのだ。そうすれば処罰の名のもとに玩具にできる。惨たらしく殺されるならその様を肴にできる…そのためだけの隊だ」

「………」

話が重い。

「逃げ出して嬲られるか、突撃して殺されるか、捕まって嬲られるか……我々にはそれしかない……」

「……」

悔し涙を浮かべていたリザさんが俺を見る。

何だか申し訳なさが滲んでいる気がする。

「申し訳ないと思うが……ミヤシタ殿、そなたも一蓮托生だぞ?」

「……は?」

「何をやったかしらんが、戦乙女隊付きになったのであろう?」

「……マジかよ!!」

確かに言われた。

言われたけども……。

「え? 俺、死ぬの?」

こくりと頷かれた。


「いや!待

「我が名はリリー・フレスタ! 戦乙女隊が隊長!! ハクト帝国軍の実力! 思い知るが良い!!突撃ーーーっ!!!」

リリーさんが森を飛び出し道のど真ん中でかっこよく名乗りを上げる。

そのまま折れた剣を振り上げて坂道を駆け登る。

「「「「やーーーっ!!」」」」

それに続いて娘さん達も駆け登る。


「行くぞ! 残っていれば敵前逃亡で殺される!」

リザさんも走り出す。

「え!? いや?! いてぇっ!!」

俺の腕を引っ張って。


砦の上のお兄さん達が、一瞬キョトンとしたのが見えた。


そりゃあそうだろう。


完全防備の砦の前に半裸の女の子がワラワラ出てきて、ガラクタを振り回しながら駆け寄って来るのだから。


しかし、お兄さん達はプロだった。


唖然としたのも一瞬、すぐに気を引きしめると躊躇いなく矢を番える。


「ぶべえ!? あごぉっ!?」

俺は完全にリザさんに引きずられている。

力が強い。

しかし、何が起こるかは火を見るより明らか。


「うわぅべぇっ!!」

とりあえず叫ぶしか出来ない。

が、叫ぶ度に口の中に土が入ってくる。


まだ矢は飛んで来ていない。

もっと近付いてから射かけようというつもりなのかもしれない。


俺は引きずられながら砦の上のイカついお兄さんと目が合った。

ニヤリと笑っている。

「――!!」

背筋が凍る。


「うばあぁぁぁ!! 何とかしやがれぇ!! 俺の能力ぅうううう!!」

産まれて初めて浴びた本物の殺気に、我を忘れて叫んだ。



――――そして世界は闇に包まれた。



◆◆◆◆◆◆



俺の名は宮下洋平(みやしたようへい)、24歳。

『どこで間違えたのか?』と言われれば、

『最初から』と答えるしかない。


二徹で締めくくったクソみたいな19連勤。

その翌日。

たった1日の休み。

俺は寝ていた。

それはもう、深く、深ーく寝ていた。


しかし、誰かに起こされた。


すると、目の前におっぱいがあった。

大きなおっぱいだった。


ゆさゆさ揺すられる度にゆさゆさ揺れていた。


俺は一人暮らしなので、起こしに来るようなおっぱいは無い。


というわけで、寝ぼけた頭で『これは夢だ』と思った。

そして、『夢ならいいだろう』と目の前のおっぱいを揉んでみた。


グーでめいっぱい殴られた。


痛かった。


しかし、おっぱいが気持ち良かったからそれはいいのだ。


おっぱいの持ち主は褐色肌に赤い髪のエキゾチックで派手な顔の人だった。美人だが好みではなかった。


とりあえず、夢では無いことが分かった。


「なんだコイツは?」

おっぱいの向こうから不機嫌そうな声が聞こえた。

不機嫌そうな声に相応しい、不機嫌そうな顔。

いかにも性格が悪そうな二重アゴに垂れ下がったまぶたと頬をした不健康そうな顔。

両手にこれまた派手な顔の女を抱いていて、その手が女たちの尻を撫で回している。


どうでもいいが大変なお仕事だ。


「錬金術師(偽)……聞いたことがございません」

派手なおっぱいが男の元で何事か報告する。


「失敗だな」

「調べてみなければなん

「無能に決まっておろうが!!」

オッサンがキーキー吠える。

「し、失礼いたしました」

派手なおっぱいが謝る。

完全な上下関係があるらしい。


そんなやり取りの後、4人からゴミを見るような目で見下される。

そういうのが好きな体質ではないのでやめて欲しい。


「なんだ? ここは? なんだてめぇらは? あぁ!?」

不躾で明らかに見下した視線にイライラしながら、理性的に尋ねる。


すると、ゆさゆさとおっぱいを揺らしながら派手なおっぱいが戻ってきて……

「口の利き方に気をつけろ! このゴミ!」

――ガッ――

「いてぇ!」

蹴られた。


「っざけんなぁ! ごらぁ!」

殴り掛かる。

温厚な俺もさすがにキレるというものだ。


「ふん」

ひょいっと手を掴まれる。

「身の程を弁えろ! ゴミ!」


そのままボコボコにされた。

このおっぱい……強ぇよ!



「すみませんでした……」

ボロボロになった俺が謝る。


下手に出て満足したのか、暴れて満足したのか分からんが、とりあえず満足そうに頷いて、説明を始めた。


この世界は地球ではないらしい。

なんとまあ。


で、よくある感じの話で、召喚が出来るらしい。


生贄を捧げて、紫煌石(しこうせき)という超希少な宝玉を使って儀式を行うと、どっか異世界から人がやってくる。


ただし、普通にやってくるんではなく、差し出された生贄の体に生まれ変わるらしい。

……てことは俺、死んだのか!

……しかも、俺は宮下洋平の体ではなく、誰か知らんが生贄にされた可哀想な人の体になっている、と。

全く違和感がないから実感はないが、ホントならビックリだな。


その時に、元々生きるはずだった寿命とか生命力とかがエネルギーに変わり、元の才能と生贄に出された人物の才能と混ざって、普通では身につかない超常の力を得るということだ。


その超常の力がさっきボソッと言ってた〖錬金術師(偽)〗。


……2人殺しといて酷くね?



「今回の贄は優秀だったと聞いたが?」

女の尻を鷲掴みにしながら二重アゴがタプタプ揺れる。

俺には届かないけど、口が臭そう。


「はい。特級術士3人、上級戦士2名を捧げました」

派手なおっぱいがプルプル震えている。

怯えてる?


「その結果がこのザマかぁっ!」

顔を真っ赤にすると、女を放り出して派手なおっぱいに飛び掛る。

そのまま、ゲシゲシとスタンピングの雨を降らせている。


なんだコイツ?

あぶねぇな。


てか、派手なおっぱいがされるがままになっている。

あんなクソジジイ秒殺できそうなのに。


「ふん! もう良い! そのゴミは捨てておけ!……いや、あのメスガキ共が今日だったな?」

「はい」

「どうだ?」

「死を選ぶつもりかと」

「……ふん」

その答えを聞いてさもつまらなそうに鼻を鳴らす。


「あれに混ぜておけ」

「は!」

「良いか、フォトセ。ワシは寛容だから今回のことは許すが、次は無いぞ」

小物感満載でイキリ散らすと、尻揉まれ係の女2人が腕に絡まるのを待って、部屋を出て行く。


「……貴様のせいで」

フォトセに物凄く睨まれた。

「……なんかアンタも大変だな」

少なくとも俺はあんなクソジジイの相手は嫌だ。



……励ましたのに何故か殴られた。



◆◆◆◆◆◆



「……で、なんだこれは?」

「……なんだ……と、そなたが何かしたのではない、のか?」

暗闇の中、リザさんの声がする。

俺たちは今、暗いところにいる。

中はかなり暗い。

明るい所から暗がりに入ったせいか、リザさんの位置すら分からない。


「うん、何かしたね。何か、というか見た感じだと……」

「突然、横の地面が盛り上がり……道が洞窟のようになったと見えた……が?」

「俺もそう思う。トンネルが出来たみたいだったよね」

俺が死に物狂いで叫んだ。

すると、道の脇が盛り上がり、トンネルみたいになった


そんなことがあるのか?

あったんだからあるんだろうな。

『トンネル?』とリザさんが首をひねっているようだ。トンネルは一般的ではないらしい。


「しかし、何も見えんな」

リザさんがそう言った後、聞き取れない何かをうにゃうにゃ言った。

「おおっ?」

すると、声の方に明かりが灯った。


「魔法だ」

ドヤる。

「へぇーー! すげえ!!」

手元にぽわぽわと明るい玉が浮いている。

「いや、そんな言われるほどのことは」

俺がすげえすげえ言いながら辺りをチョロチョロしたら少し照れた。


後、意外と天井が低かった。


「フェネティル顧問! ミヤシタ殿もですか?」

奥の方から凛々しい声と、同じような灯りが見える。

「リリー隊長か?」

「はい!」

「皆は無事か?」

声が反響する。

ほんとに洞窟みたい。


待つほどのことも無く、不思議洞窟に皆が集まった。

コケてヒザを擦りむいた子もいるらしいがそれぐらいらしい。

「フェネティル顧問、これは?」

「うーん? ミヤシタ殿が、何かしたとしか…?」

「うーん。俺が何かしたんだろうね、うん」

腕を組んで頷いてみる。


「何かって……」

「だって俺、何が起こってるのかすら分かんねえんだもん」

周りが露骨にヒソヒソしている。


「ただ、恐らく、ここがカセメ砦に通じる道であろうとは思う。上り坂であるし」

「うん。よく分からんが、多分そうだろうな」

とりあえず腕を組んで鷹揚に頷いてみる。

暗くてよく見えないけど、なんか睨まれた気がする。


「ってことは進めば砦があるってことだろ? 行ってみようぜ。リリー隊長」

「あ、ああ」

止まってても仕方がないので、リリー隊長の肩を叩いて先へと促す。

意外と華奢な肩だった。


坂道が洞窟になっただけなら、そんな長さは無いと思うが、奇怪な上に暗いので歩みは遅い。


ゾロゾロと緩やかな上り坂を進みながら、ボソボソと話をする。


俺の話だ。

誰も喋らないから。


と言っても、答えてくれるのは年長のリザさんぐらいだけど。


「錬金術師、か……なるほどな」

錬金術師(偽)という能力だったことを話すと、リザさんが大きく頷いていた。


生贄と紫煌石を用いた降臨術というのはたまにあるらしい。

紫煌石が稀少なので、ほんとにたまにらしく、降臨した者は、多かれ少なかれ優秀だが、戦局を覆すほどとなるとほとんどないらしい。


それでも過去には1万の大軍を1人で退けた化け物とか、大旱魃の一国に雨を降らせた人外とかもいたらしい。紫煌石も他に使い道がないらしく、手に入ったらやってみる、というのがこの世界では普通らしい。


それで殺される人は不幸以外の何物でもないが。


そして、俺の能力だが、この世界での錬金術師というのは詐欺師、とか、ペテン師とかの同義語らしい。

後は真っ当な人で手品師とか。


ペテン師の偽物。

二流の手品師。


話を聞いた感じだと、なんか優秀そうな人達を生贄にしたって言うし、それで出てきたのが下手な詐欺師じゃまぁキレるか。


キレられても俺も知らんが。


「む! これは!?」

リリー隊長が何かを見つけた。

見つけたというか行き止まりだった。



「門ですね」

肩当が無くなってオフショルみたいになった鎧を着たメガネの女の子が言った。

ヘンリエッタ副隊長らしい。


暗くて全貌は窺えないが、確かに門っぽい。

向こうから、ガンガンと叩いている音がする。


「これは、あれかな……」

「なんだ?」

リザさんが首を傾げる。


「門の出口を、このトンネルが塞いだから、開けられなくなったかな?」

「「「「「あー」」」」」

上を見てみれば、天井ががっしりと門を押さえている。


「……して、どうする?」

「どうすればいいのでしょうか?」

リザさんとリリー隊長が悩んでいる。


来た方からは光が見えなかった。

ということは入口は塞がっていると考えられる。

そして、出口も塞がっている。

行先が無い。


当たり前だが、水や食料は持ってない。


「まぁ、外に出ても殺されるだけだろうけど」

俺が冷静につぶやくと、皆が明らかにずーーんと暗くなった。


覚悟を決めて勢いを付けて飛び出した時はともかく、1度クールダウンするとさすがに辛いらしい。


そりゃそうだ。


「無ければ作ってみよう!」

重い空気に耐えかねて、明るい声で言ってみた。


「何をだ?」

反応したのはリザさん。

他の子達は、泣きそうになっていてそれどころでは無いらしい。


「道だよ! 道! このトンネルを作れたんだから、道ぐらい作れるだろ?」

皆の顔が上がる。

「……出来るのか?」

「知らん!」

胸を張って答えたら、袋叩きにされた。

気が短いな。



◆◆◆◆◆◆



「さっき出来た壁に穴を開ける」

「弓の的にしかならんな」

「この扉を壊す」

「剣の練習台にしかならんな」

「戻って入口を開ける」

「敵前逃亡で見世物にされるな」

「……というわけなのだよ!」


1つずつ事実を確認しただけなのに、皆さんが怖い。


「と、なれば残る手段はあと1つだ」

「何があるのだ?」

リザさんの声も心なしか冷たい気がする。


「足元に穴を掘って、砦の向こうに抜ける!」

「「「「「「………」」」」」」

暗くてよく見えないが、あまり好意的ではないようだ。


「出来るか、出来んかは分からんが……まぁこのトンネルが作れたんだ、出来る気がする。てか、出来なきゃ終わりだ」

「そうではあるが……」

リリー隊長も渋い顔をしている。


「なら、やってみる価値はある」

不思議な話だが『出来るな』という感覚がある。


錬金術師(偽)。

偽物だろうが錬金術師だ。

砦の門から離れ、坂道の中ほどまで戻る。


――パン!――

胸の前で手を合わせる。

俺の中で錬金術師と言えばこれだ。

片手が機械の超人気漫画。


合わせた手を地面に置く。

「何とかしやがれ! 俺の能力!」

イメージは地下通路。


下り階段で地中に潜る!

ここからずっと遠くまで!

上り階段で地上へ!


それぐらい、やってくれよな!


――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ――


地響きが轟く。

地面が揺れる。

女の子たちはキャーキャー言いながら抱き合っている。

リリー隊長とリザさんもだ。


――ゴゴゴゴっゴっゴ――

地震が収まる。


「ほら、出来た!」

そこには、階段があった。


暗くてよく見えないけど。


「さ、行こうぜ!」

揚々と手を振って、リリー隊長に先行してもらう。

灯りがないからね。


「……これはどうなってるんだ?」

「知らん」

リザさんが不思議そうに聞くが、俺にも分からない。

地下通路をイメージしたからかカッチリと舗装されている。

多分、地上の道より歩きやすい。



「……これはどこに向かってるんだ?」

「知らんよ」

歩き始めて30分ほど経っただろうか?

時間感覚がイマイチ分からんけど。

出口が見えないので不安になっているようだ。


大丈夫、俺も不安だ!


それから更に30分。

皆さん健脚なようで、歩くのが早い。

何度か休憩を申請したが、完全に無視された。


「あ! 光が見えますよ!」

リリー隊長の声が弾む。

「「「「「「出口だ!」」」」」」

皆が駆け出す。


「なんでこんな元気なんだよ!こいつら!」

俺1人だけ汗だくで、足を引き摺りながら進む。

「そなたが虚弱なだけだ」

リザさんの評価が容赦ない。



「………外だ!」

リリー隊長が先行して外を確認し、戻ってくると、強く頷いた。

「誰もいない!」

それを聞いて娘さん達が抱き合って喜ぶ。

大はしゃぎだった。


ひとしきり喜んだ後は我先にと駆け出す。

リザさんもはしゃいで飛び出して行った。

そんな後ろ姿を見送ってから、ゆっくりと歩き出す。


足が痛いんだ俺は。


「……森か?」

生い茂った木の隙間から光が射している。

爽やかな空気。

穴蔵から出てきた体に気持ちがいい。


深呼吸したり、足元の花を摘んだり、娘さん達が喜ぶ菅田が目に眩しい。


「追っ手が来るかもしれんしな」

俺は楽園のような光景から、足元の階段に目を移す。


――パン!――

「片付けといて、俺の能力!」

しゃがんで両手を階段に当てる。


――ゴゴゴゴゴゴゴッ――

盛大な地震が起こって地下通路が潰れる。

潰れて出来た窪みが、均されていく。


「明るい所で見ると、驚きの光景だな……」

あまりの迫力に思わず息を飲む。


突然の地震に我に返ったリリー隊長が駆けて来る。

リザさんもそれに続く。

「ミヤシタ殿!」

険が取れた笑顔。

土埃で汚れているが、肩まで伸びた金髪。

スッキリ通った鼻筋。

鎧のお腹部分が割れているので、おへそが見える。


俺も余裕が無かったらしい。

明るい所で改めて見たリリー隊長は綺麗な人だった。


「ミヤシタ殿、改めてお礼を!」

2人が腰を折る。

「いやー、そんな改まって。まあ、俺のお陰だから当然だけどな」

ハッハッハと笑う。

2人も気持ちよく笑っている。


「ところでこれからどうするんだ?」

落ち着いた所で聞いてみる。


俺は手ぶらだし、皆もガラクタみたいな剣を持っているだけだ。


スマホも現金も水も食料もない。


「……これから?」

リザさんが固まる。

「……これから…?」

リリー隊長も固まる。

「そう、これから」


「「「………」」」


「……そもそも、ここはどこですか?」

「知らんよ、俺は。知るわけないじゃん」

「そ、そなたが連れて来たのだろう!?」

「知らねーよ! ここどころがさっきのがどこかも知らねーんだから!」

「「無責任な!!」」

「アンタがリーダーだろ!?」

「な!? あ、いや! リーダー命令だ!何とかしろ!」

「なんだその横暴は!?」

「ふむ。リリー隊長が正しい」

「あぁ!? 何ぬかしてんだてめぇら!?」


やいのやいの。

爽やかな森の中で活発な議論が交わされた。


…………これからどうなるんだろうか……?



◆◆◆◆◆◆



『カセメ砦崩落』

カセメ砦が丘ごと崩れ落ちた。

しかも崩れ落ちた後、地面が不気味に蠢き、その瓦礫を飲み込み、新しい丘を成した。


崩落はカセメ砦だけでなく、ハクト帝国軍の敷いた本陣にも及んだ。

何故なら洋平達は前しか見ていなかったが、道はハクト帝国側にも伸びていたからだ。


突然に道が土で覆われた、とか。

女性兵士が奇行していた、とか。

地面が激しく揺れた、とか。


様々な情報が飛び交ったが、正確性には欠ける。

この大崩落は、殆ど生き残りと呼べる者いなかったからだ。


神罰の如き超常現象に両軍は慄き、この地は両軍立ち入り禁止となった。


砦に突撃とも呼べない突撃を仕掛けた戦乙女隊の事など、もはや誰も覚えていなかった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 短編と思わず一気に読めた。 [一言] 『偽物の錬金術師』の検索でここにたどり着いた。ぜひ続きが読みたいです。
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