世の中に溢れた会話
中学二年生の秋。僕は学校に行かなくなった。
特別なんか起きたわけじゃない。周りの人間の協調性の無さや考えの浅はかさに嫌気が差しただけだ。
自分が陽キャであることに誇りを持ってる自称ムードメーカー男子。群がって一軍二軍など決めたがる女子。そんなのを毎日見てたら嫌気も差すもんだろう。
「ああ。これからどうしよ」
勉強するにもする気が起きず、ゲームも楽しくない。SNSを見て過ごす毎日。楽しさなんて全くなかった。
そんなある日。
『ゆいさんがあなたのことをフォローしました。』
スマホの上にくるバナー通知。
特別意識してたわけでもなく、適当にフォローを返した。
『ゆいさんからダイレクトメッセージきました。』
几帳面なタイプなのか、わざわざダイレクトメッセージまで送ってきた。
『すいさんフォローありがとうございます!なかよくしてください』
すいさんとは僕のネット上の名前。よくある会話だ。こんなの世の中に何万とあるだろう。
『いえ。こちらこそありがとうございます』
『プロフ見たんですけど十四歳なんですね!私の二個したかぁ』
『じゃあ先輩ですね。てことはゆいさんは十六歳ですか?』
『そうだよー!人生に行き詰まったら頼ってね』
何だこの人。それがこの時の率直な感想だった。
普通に考えてこんな言葉出てこないだろ。すこし変な人だななど思いながら会話を続けていた。
会話からするに、僕の二個上で通信制の高校に通っている人らしい。
「人生に行き詰まったらか…」
すこし変な人だけど、話していくうちにお互い打ち解けていた。
『すいがよければいいんだけど、今から電話しない?』
『いいよ』
気づいたら了承していた。
どうせやることもないし、予定もない。
『じゃあかけるねー』
スマホから鳴る着信音。なぜかすこし緊張する。
「…もしもし?」
「お!でたー!」
妙にハイテンションの女性の声が脳裏に張り付く。
「初めましてー!なんかちょっと気恥しいね」
文面と全く変わりのない声色にテンション。わかりやすいというか。なんというか。
「なんかずっとメッセージで会話してた時から思ってたんだけど、大丈夫?」
「え?」
一瞬なんのことか分からなかった。人に心配されることなんてなかったし、どれのことを心配されてるのかも分からなかった。
「なにが?」
「なんかすい。病んでそうだったから」
人に心配されるのなんて、一体いつぶりだろう。
「別に俺は大丈夫だよ」
咄嗟に出てしまった良くない癖だ。自分の思ってることを全部殺して、安泰な回答をしてしまう。
「絶対、大丈夫じゃない」
その通りだが、なんでこの人は言いきれるのだろう。
「今どんなこと思ってるのか、教えて欲しい。」
すこしずつ涙が抑えきれなくなってしまっていた。
自分のことを心配してくれている人がいるんだ。自分のことを考えてくれる人がいるんだ。
それが分かっただけで涙が溢れてしまうほど、俺の心は弱ってしまっていた。
「俺は…本当は喝を入れて欲しかった…。周りの人と仲良くしたかった…。俺はクラスの人のために色んなことしたのに、みんなはそれを無下にして俺を省いて自分たちのグループを作ってた…。それが悲しかった…。学校に行きたくないって言った時、行きなさいって言って欲しかった。俺を甘やかさないで欲しかった…」
気づいたら涙がボロボロと零れて、まともに話すのも困難な程になっていた。
だけどゆいは全部聞いてくれた。
全部聞いた上で俺を肯定してくれた。
それが嬉しくてその日は止まらず泣いていた。
泣き終わって自分の全部をさらけ出したあと、俺は少し、前を向いて人生を歩けそうな気がした。
ここまで読んでくれてありがとうございます!
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