8 彼女はいったい?(従者視点)
「ふぅ。」
我が主君アルスレット様は、執務室に腰掛けながら、背を椅子にあずけ上を向き、長い息をつかれた。
「お疲れ様でございました。お茶を召し上がりますか?」
主君の労をねぎらい、声をかけた。
「いや、ワインを」
「かしこまりました。」
「さて、レティシアの追加の報告をはどうなっている?}」
「ここに定住してからのことに怪しい点は見受けられません。孤児となり、教会の老牧師の世話になって、ほかの孤児の面倒を見ています。ただ、この地に逃げてくる前の足取りは、誰もわからないようです。老牧師に聞いても、本人でさえ、よくわからないとのことらしく、、、、。」
「しかし、孤児とは思えぬ読み書き、礼儀作法。そして知識だ。やんごとなき身分でも驚きはしないぞ。」
「そうでございますね。ただ、アルスレット様への刺客の線はうすいかと。赴任前からずっとここで暮らしており、家族もいないなんのしがらみもない身分ですから。」
「だが、敵に買収されることもありえよう。」デカルトが口をはさんだ。
「孤児だからお金に目がくらむことも・・・・」
「もし、刺客ならば、もっと目立たない行動をとるはず。また、生い立ちからしてこの領地に溶け込んでいないものを刺客として買収するなど、ありえない。」サリが反論した。
「ただ、敵ではないにしても不審な点が多いのも事実です。今日は、お茶のこともさながら、洗濯しながら、古代語を口ずさんでいました。」
「古代語?」アルスレット様が問い返した。
「ええ、残念ながら、私はその分野の造詣は深くなく、古代語としてしかわかりませんでした。」
古代語で有名なのは、この国の建国の歌しかない。ほかは、その道の文官しか理解できないだろう。
「古代語で誰かと話していたのか?」
「いいえ。歌です」
「歌?」
「まるで神に、ささげるような美しい音でした。」
「彼女は、聖女か何かなのか?今日もお茶の時に神の思し召しとかなんとか言っておったな。」
「そうですね、牧師と暮らしているのですから、神を身近には感じているでしょう。」
「どうにも不思議なものだな。とりあえず、重用しても害はなさそうだ。意外に役に立つかもな。」
「さて、問題は隣だ」
「悪辣な領主らしいですね。厳しい税制をしき、わが領地より温暖ながら、民の暮らしはかなり厳しいと聞いております。」
「できるだけ、かかわりたくないが・・・・。」
「難しそうですね。おわかりでしょう?」
「そうだな。どうやら、娘を押し付けたいようだ。」
「最近、アルスレット様の鉄壁の防御で、そのような案件を持ち込むものなどいなかったですからね。」
「まぁ、適当に相手をするしかあるまい。」