5 私は洗濯女!
私は、たらいで洗濯をしながら考えていた。
ここは、城の中でも外れにある井戸だ。下働き用で、ここなら人に見られることも少ない。
少しでも汚れが落ちるよう、石鹸を水に溶いて、洗濯ものをたらいに漬け込んだ。
これで少しでも、汚れが落ちるといいのだけど。
つけ置きのしばらくの間、大きな大樹の下で休憩することにした。木漏れ日の中で、とても気持ちのいい風も吹いていた。
やっぱり、これは異世界転生なのかしら?私の頭の中には、日本という国で育った真理の記憶がある。真理の感情も自分のことのように覚えている。この状況を考えれば、あのころ読んだラノベの異世界転生かもしれない。でも真理のほかにも、いろいろな人の記憶がうっすらと残っている。その中で、一番、鮮明なのが真理というわけなのだ。
真理の時は、洗濯機が洗濯してくれたけど、その前のマリアでは、洗濯は、毎日したもの。洗濯は、得意とは言わないけど、慣れてるわ。それにしても、真理の時より、非文化的な生活を送るとは、転生も時代に逆行するなんて。贅沢になれるのは、すぐ。生活の質を落とすのは、大変って本当ね。
そうなのだ。
今まではいつも同じ世界で生まれかわっていた気がする。この魔法の世界は、初めて。だから、今までの知識は役に立たない。真理の時は、主に語学や歴史で、今までの人生の記憶が役に立つこともあったのだが。。。いえ、語学は、役に立っているかも。昔、話していたラテン語にこちらの言語は似ている気がする。だから、読むのは、簡単。スペルが似ているのだ。なんとなく意味が分かる。だけど、書くのは、ちょっと難しい。
ラテン語がフランス語やイタリア語に変化していったように、こちらの言語も元をたどれば、ラテン語なのかしら???違う世界なのに????
「さぁて!今からこすり洗い、がんばるぞ!」
レティシアは、腰をあげ、洗濯ものに取り組んだ。
洗濯ものを干した後、お日様に感謝の歌をささげた。小さいころに誰かが歌ってくれた子守歌だ。ここに来てから、ちょっとしたお願いがあるときによく歌う。言葉も古くて意味も分からない。これが地球の世界の歌なのかも?でも、これを歌うといいことが起こる。今日も洗濯物が遅くなったうえに雲が多かったから、晴れますようにと願い、歌をささげた。
「レティシア!洗濯は終わったの?」
「はい。先ほど。」
「遅いじゃない?もっと早くしないと。乾かないわ。雨のにおいがしたもの。」
「いえ、今日は、このまま天気は回復する気がします。」
「なにを馬鹿な。遠くの空が暗かったから、もうすぐ雨も降りだすでしょう。雨が降る前に洗濯物を取り込んで、城の地下に干すわよ。」
「いえ、大丈夫です。今、地下に干すと湿ったにおいがついてしまいます。だから、このまま・・・」
「そこまで言うなら、あなたに任せるわ。でも、もし、雨に降られたら、責任を取ってもらうわね。」
「、、、はい。わかりました。」
そういうと、女官長は、立ち去っていった。
責任とるって、きっと辞めろということよね。ここでは、私はよそ者扱いの邪魔者。この領地にきて6年。でも、まだはじきものだわ。いつになったら、仲間になれるのかしら。レティシアの心にほの暗い影がさした。
あぁ、どうか、私の祈りが天に届きますように。レティシアは窓の外に広がる空を眺めた。