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4 ばかげた妄想作戦 (領主視点)

城壁の階段を降り始めると離れて、見守っていた従者二人もついてきた。

「して、妖精の愛し子は、無事に慰めることは叶いましたか?領主様。」

妖精の愛し子は、この従者が名付けたあだ名だ。もちろん、本人は知らない。

どうやら不思議すぎて、理解できないという彼女の印象から、人知を超えた存在である精霊にたとえているようだ。

「その呼び方は、ヤメロ。サリ」

「では、アルスレット様。どんな美姫に泣かれようと、眉一つ動かさなかった貴方様が、小さい孤児に翻弄されていると知れば、王都の皆は、驚愕することでしょうな。」

「翻弄されてなどいない。12歳というまだ子供に成人と同じ扱いは、酷だとおもっただけだ。子供と思えば、フォローも必要であろう」。

これは、言い訳だ。正直、今まで周りの人間は、敵か味方のどちらかとしか考えていなかったし、子供といえども容赦はしなかった。理性も落ち着きもない子供は苦手だったが、レティシアは違う。心の奥底にしまった良心が呼び起こされるというか、、、、。


彼女が最初にこの城に上がった時のことは、忘れられない。

どうやら、前領主と毎年仕事を手伝うと約束していたようだが、勝手に執務室に上がり込み、書類の不備を指摘したのだ。その時のことを思い返した。


私が執務室に戻ると女の子が机に座り、書類に落書きしている。

すぐさま護衛騎士のハロルドが剣を突きつけ

「誰だ?」と厳しくとがめた。

最初は、どこかの召使の娘が、部屋に入り込んでい遊んでいるのかと思った。

剣を突きつけられた娘は、レティシアと震える声で告げ、前領主の許可書を見せてきた。

「悪いが、この許可書は無効だ。前領主は不正で処罰を受け、身分をはく奪された。」


「そうですか、、、、。あのそれでしたら、貴方様が新しい領主様でございますか?」

「黙れ。平民がたやすく口をきいていいお方ではない。」ハロルドが答えた。

「申し訳ありません。ですが、私は孤児院の代表できており、その後見は、一応、領主様になっているもので、、、。冬を前にして、いろいろと不安なのです。」


私は、お付きの文官サリに尋ねた。

「そういえば、そのような書類を目にした記憶がございます。」

「わかった。孤児院のことは、これまで通りに運営できるよう取り計らおう。そなたは、今すぐ去れ。ここは、勝手に入っていい場所ではない。」


「ありがとうございます。あの、、、申し訳ありません、。その、前の領主様に仕事を手伝うように申し付けられていたもので勝手に書類に書き込みをしてしまいました。計算が間違っていたのものですから。」と書類をみせてきた。


確かに数字がおかしい気はするが、この短時間にこの量の計算をしたのか?

「待て。よし、前領主の許可書通り、そなたを雇おう。」


「アルスレット様!」従者の二人が驚きとともに反対の意を示した。だが従者の反対を抑え、彼女の採用をきめた。


私が、レティシアを雇うことに決めた理由は、計算が得意で役立ちそうだからではない。あまりに不審な点が多く、刺客か何かだと思ったのだ。泳がせて、尻尾をつかみ、大蛇の首ごと始末しようと考えたにすぎない。


レティシアに召使の部屋を与え、冬が来るまで、様子をうかがった。彼女は、いつも誰かを手伝っているので、情報集めか媚びをうる類か、ますます疑いが深くなった。だが、私達が、疑いを深める一方で、召使での彼女の印象は、どうやら違った。蔑まれていて、まるで奴隷のような扱いだ。


「どうやら、彼女の生まれが関係しているようです。この領内の生まれでなく、逃げてきた女性の子どもらしく、森の近くの村に逃げ込んで、レティシアを残して亡くなったそうです。この田舎ですから、よそ者は嫌われるうえ、逃げてきたとあれば、罪人の子供であってもおかしくはないということで、忌避されてきたようです。」サリがレティシアについて調べてきた報告をあげた。


そんな話どこにでもある。そう思った。

だが、疑わしいあまりに彼女を観察し続けるうちに、彼女の人柄が私の心をざわつかせた。



「じゃあ、これを今日中にやっといてね。」

召使の一人にレティシアが大量の洗濯物を押し付けられていた。一人分の仕事量ではない。

これがレティシア以外なら、この程度の世渡りもうまくかわせない無能など仕事を辞めてしまえと思っただろう。

レティシアは、にこにこと笑顔で引き受けている。普通では、ありえない反応だ。


その召使が去った後、レティーシアに声をかけた。

「なぜ、いつも他人の仕事を笑顔で引き受けている?その分の仕事の給料は、もらえるわけでもあるまい。

「領主様。みていらっしゃたのですか。そうですね、、、。私は、洗濯仕事が得意なのです。だから、どうせ洗濯するならば、得意なものがすればいいと思いますし、今日は時間があるので問題なしです。」

「だが、その仕事をしたところで、そなたは、感謝されるか。」

「人に感謝を求めて、仕事を引き受けたりしません。すべては、自己満足です。」

「自己満足?自分以外の仕事を対価も得ずに、何の満足があるのか。」

「人の役に立っている充足感で十分ですわ。」

私は、ますます理解に苦しんだ。貴族は足の引っ張り合いで、見返りもなく施しをすることはない。平民では、みんなそうなのだろうか。いや、ほかの召使を見ている限り、そうではないな。ましては、見下している相手に、親切にするなど。世の中は、いまだに貧しいものばかりだ。長いことに王政による圧政に国民は疲弊している。人を気にしている余裕あのあるものは、いまい。

「それで、そなたは幸せなのか?」

「ええ。それに、人に聞いた受け売りなのですが、私がさっきのミラに親切にする、ミラが幸せになり、今度は、ミラが誰かに親切にする。そして、今度は、その人がほかの人に親切にする。といった具合に親切が広がっていって、世界はやさしさで満ちあふれ、みんなが幸せになる。私ももっと幸せになる。これぞ、みんな一緒に幸せ大作戦なのですわっ」


そんなふざけた名前でばかげた妄想をいる彼女がまぶしく輝いているようにみえて、目を細めた。




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