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3 心を癒すには・・・

私は、城壁の上に来ていた。

ここからは、領内の景色が地平線の先まで広がっている。

刈った小麦畑、金色に輝き、まるで金色の絨毯がずっとずっと先まで続いているようだ。


どれくらい経っただろうか。

「ここで、何をしている」

領主様だ。私は、振り返った。


「何も。ただこの素晴らしい風景を眺めていただけです。」

「・・・・。確かに美しい景色だな。」


そう返事をされ、静寂が訪れる。普段なら、この沈黙は居心地がわるいのだけど、今日は、そうではない。いつの間にか横に並んだ領主様の麗しい顔を見上げなら、

「今日は、すみませんでした。領主様の仕事の采配に水を差すような真似をしてしまって、、、、、私の考えがいたりませんでした。」


「そなたが謝る必要はない。あれは、そなた以外の者への牽制だ。そなたは悪くない。」

「ですが、、、、私が余計なことをしたの事実で、、、それでご迷惑を、、、、」

「そなたは、なぜそうも心を乱しているのだ。そなたは、私の期待以上の仕事をした。それだけだ。」

私は、なんと言ったらいいかわからなくて、うつむいた。私自身ですら、この心のあり様を説明できない。ただ、無力感というか、すっきりしないものが、心の中にとどまり、城壁に来てしまったのだ。


いつまでも顔を上げない私に、同情したのか、領主様が話を振ってくださった。


「この壮大な眺めは、心が癒されるな。君もここに安らぎを求めて来たのか?」

私は、どろどろとした気持ちを抑えながら、

「はいっ」

と顔をあげて答えた。

「ここにいると自分がちっぽけで、今、悩んでいることなどとても些末なことのように感じるのです。」

「そうか、、、、。私は風景を楽しむことは、ずっと忘れていたな。」

夕日に染まる大地をお互いに前を向いて、眺めた。


夕日が半分ほど、沈んだころだろうか、領主様がこちらを見ているのに気が付いた。

「君は、、、、、。君は、不思議なこどもだな。なんの汚れもない赤子のように感じる時がある。無垢というべきか、、、、。まるで精霊のような、、、、。清廉な風が吹くようだ。」

領主様が目を細めて、私を見つめている。

私は、その言葉に驚愕し、

「ななな何を・・・。私なぞ、ただの身寄りのいない孤児ですわ。」

「と同時に、私に向けられた諜報員なのか疑う時もある。」

「それは、全くの誤解です!」

先ほど以上に驚愕し、きっぱり断言した。そんなに領主様の身の上は危険なのだろうか?この辺境の地に降り立ってもなお・・・。

「そうだな。疑っていたのは、最初のころだ。平民の子にありえない教養、礼儀作法。身を偽っているとしか思えなかった。だが、今は、神の御使いだと思うようにしている」

「神の・・・・。」


「まぁ。そなたみたいなおっちょこちょいを遣わすなんて、神も相当なものだとは思うが、、、、」

「か、からかっているのですね。」

「ははっ。どうだろうな。さて、日も沈む。早く帰るがよい。」

「領主様は?」

「私は、この後、城壁の点検を行う。朽ちかけているところが多いのに修理も碌にされていないようだからな。」

「ここは、辺境で隣国とも接していません。何百年も平和だったと聞いております。だから修理など必要なかったのでは?」

「そうだな。今までは、そうだったのかもしれん。」

「何かあるのですか?」

領主様は、答えなかった。でもそのお顔は、感情の一切を排除したような厳しいものだった。








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