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第48話 ジーナお姉ちゃん

 ♡♡♡


 お姉ちゃんが魔法の手ほどきから帰ってきたので、飲み物とリンゴを出した。タックは遊び疲れたのかニックスに抱きついてお昼寝をしている。私もリンゴを一切れ取ってカリリと噛んだ。甘酸っぱい味と香りが口の中に広がる。ご主人様の家に来てから、いっぱい果物を食べさせてもらっていた。以前の暮らしでは考えられない贅沢だ。


 お姉ちゃんは飲み物を両手で抱えながらぼんやりしている。

「お姉ちゃんも行ければ良かったね」

「ええ。そうね。でも魔法を教える約束があったし仕方ないわ」

「ご主人様大丈夫でしょうか?」


「それは大丈夫でしょ。エイリアさん、本人は謙遜してるけど相当高位の神官だと思うわ。それにキャリーさんも元騎士だし、魔法も使える」

「でも、お姉ちゃんほどは魔法を使えないんでしょ?」

「そりゃあ、私の方が使える魔法の数も多いし、使える回数も多いけどそれだけのことよ」


「そんなことないです。ご主人様もお姉ちゃんのこと感心してました。状況に応じて適切なものを使い分ける能力が凄いって。強いものを使えばいいという魔法バカとは大違いだって」

「いつ、そんなこと言ってたの?」


「昨日の夜、寝る前に言ってました。本当は一緒に行ってもらえると安心なんだけどな、ってぶつぶつ言ってましたよ。先約あるんじゃしょうがないって残念そうでした」

「……へえ。そうなんだ」


 お姉ちゃんは抱えていたマグを抱えて飲み干す。ちょっと元気になってきたかな? 良かった。私はほっとして部屋の隅で繕いものを始める。ご主人様の肌着はナイフで破れたり汚れたりしたのがあったので新しいものを作っていた。我ながら以前に比べて良くなった……気がする。なっていてほしい。


 チクチクと仕上げにご主人様の名前を刺しゅうしていく。寒くなりませんように。怪我をしませんように。無事に家に帰ってこれますように。思いを込めて縫い上げた。そこへ急に声を掛けられる。

「ねえ。ティアナ」


 顔を上げるとお姉ちゃんが考え込むような顔をしていた。

「何か用ですか?」

「それは?」

「ご主人様の肌着です」

「ちょっと調べさせてもらっていい?」


 お姉ちゃんは魔法の杖を手にして近づいてくる。ナントカという珍しい木を削りだしたもので、表面には私の知らない文字が彫り込まれていた。お姉ちゃんによると魔法文字と呼ばれる言葉で、ジーナの杖と刻まれているそうだ。この杖があると魔法がより強力にかかるらしい。


 お姉ちゃんは私が持っている肌着に杖を添えて口を動かしている。一瞬パッと光が溢れたと思うとすぐに元通りの明るさになった。

「お姉ちゃん?」

「ああ。ごめんなさい」


「何か変なところがありました?」

「いいえ。そういえば、穴が開いたのがあったわよね?」

「はい。汚れもひどいので許可を貰って雑巾にしてますけど」

 お姉ちゃんはそちらにも魔法を使っていた。いったい何をしているのだろう?


 私が様子をうかがっていると、にこりと笑う。

「前より良くなっているわね」

「本当ですか? 魔法ってそんなことも分かるんですね。私も使えたらいいのにな」

「魔法を使って何をするの?」


「そうしたら、ご主人様のお手伝いができますよね? ご飯を作ったりお洗濯をするだけじゃなくて、もっとお役に立ちたいんです。お姉ちゃん。私にできること他に何かないかしら?」

 期待を込めてお姉ちゃんをじっと見る。


「今でも十分にハリスの役に立ってるわよ」

「そんなことはないです。食事もちゃんと食べられるし、柔らかなベッドで寝られるし、こんな素敵なイヤリングも貰ってるし、この間はお金まで下さいました。それに引きかえ私のしてることは……」


 お姉ちゃんが指を私の唇に押し付ける。

「そんなことは言わないの。ティアナ。あなたが考えてる以上にハリスの役に立ってるわ。あなたは今のまま元気にしてればいいの。あなたがお家で迎えてくれるだけで、ハリスは頑張れるのよ」


 これをしたら、という助言が欲しかったのだけど、お姉ちゃんは優しい笑みを浮かべている。私はコクリと頷くしかなかった。そろそろ買い物に行かなくちゃ。

「夕飯の買い物行ってきます」

「私も一緒に行くわ」


「タックが寝てるから、お姉ちゃんは家に居てください。まだ明るいし、すぐに帰ってきますから」

「でも、ハリスに一緒についていってやってくれって」

「タックが目を覚まして誰もいなかったら可哀そうです。それじゃあ、行ってきます」


 本当はまたあの子に会って何か意地悪をされるんじゃないかと心配だった。でも、私はもう小さな子供じゃない。足早に食料品店まで出かけてさっと買い物を済ませた。ちょっと遠くなるけれど、人通りのある大きな道を注意しながら家に帰る。この間は考え事をしていた私がいけないのだ。注意をしていれば大丈夫。


 コウモリ亭の前を通りかかる。ミーシャさんが中で働いているはずだ。外に出てきたら挨拶しようと思ったけど、あいにくと出てこない。中に入ってみる勇気は無かった。そのまま歩いてギルドの前を通ると、中から細身の俊敏そうな体つきの男の人が出てくる。私のことを見つけるとジロジロと無遠慮に見た。


 会釈をして通り過ぎようとすると声をかけられる。

「お嬢ちゃん。ハリスのところにいるティアナって言うんだろ?」

 ご主人様の知り合いかな? 私は見たことが無いと思うんだけど。

「俺はデニスっていうんだ。ご覧の通りの冒険者で、ハリスとは何度も一緒に仕事をしてるんだぜ」


 やっぱりそうだ。頭をきちんと下げて挨拶する。

「ハリス様にお仕えしているティアナです」

「へえ。随分と行儀がいいんだな。そうだ。世話になってるハリスにお礼の品を送りたいんだが、選ぶの手伝ってくれないか? 俺はセンスがなくてさ。君に選んでもらった方が絶対にハリスも喜ぶと思うんだ」


 困ったな。空を見上げる。まだすぐに夕飯の支度をしなくても間に合う時間だけど寄り道はしたくない。

「そんなに時間はかからないから。頼むよ」

「すぐに終わるのなら……」

「助かるぜ。おっと。財布を家に忘れてみたいだ。すぐそこだから付き合ってくれないか。いやあ、助かるぜ。あいつの驚いた顔が目に浮かぶよ」

 デニスさんが歩き出すので、私はその後についていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 本人は絶対直接褒め言葉を言わないタイプの人間の褒め言葉を人づてに聞くと嬉しくなるアレだーーー! [一言] で、デニス出た〜〜〜!ハラハラです。
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