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第38話 屍者の群れ

 キャリーが手を伸ばして壁を触りはじめた。俺はジーナに文句を言う。

「ほら見ろ。気づいちまったじゃねえか」

「別にいいじゃない」

 まあ、そうなんだが。


「ねえ。そっちに立ってみてよ」

 言われてコンバが扉の前に立つ。松明の炎がゆらぐことはなかった。

「やっぱりそうよ。その扉のところは風が吹いてない。でも、この壁のところからは空気の流れを感じるわ」


 さらに範囲を広げて周囲の壁を調べていたフォルクが小さな叫び声をあげる。

「なんか、カチッという音がしたんだが」

 どこか下の方でドゴンという音が響き、扉に向かって右側の壁の一部が音を立てながら扉とは反対の方向にスライドしていく。

「やったぜ!」


 人ひとり分の隙間にコンバが体を差し込んで松明で中を照らした。

「あんまり大きくない部屋っすね。奥の方に何かあるみたいだ……」

「うかつに入るなっ!」

 俺が叫ぶとコンバはびっくりして松明を取り落とす。慌てて拾い上げようとしたコンバが後ろに飛びのいて覗き込もうとしていた3人を弾き飛ばした。


 足をもつれさせたコンバはキャリーを押し倒す形になる。

「ちょっと、どきなさいよ。どこ触ってんの? この変態っ!」

 俺は急いで近寄り、フォルクと二人でコンバを助け起こす。立ち上がったキャリーは胸を押さえていた。


 急なことで鎧を調達できなかったキャリーは厚手のフェルト地の服を着ている。どうやら倒れたはずみにコンバに思いっきり胸を押さえられたらしい。金属製の籠手をはめた手で、しかも体重が乗ったのでかなり痛かっただろう。目じりに涙をためてコンバを睨んでいた。


 これ以上騒ぎが大きくならないように、俺はジーナに部屋の中が見えるように杖を突き出させた。

「ほら。見てみろ」

 皆の視線の先で床がうねっていた。いくつもの突起が波打ち、コンバの落とした松明を包み込んでいる。


「なんなのあれ?」

 シルヴィアが気持ち悪そうにしていた。

「スライムだな。ねばねばした体で相手を包み込み窒息させて消化する。なかなか弾力が強くて刃物じゃ簡単には切れないが、動きは遅いので注意してりゃ脅威じゃない」


 俺が説明している間にジーナのアイスブレイクが炸裂する。スライムは粉々に砕けた。完全にオーバーキルだな。周囲をざっと調べてから俺を先頭に中に入る。奥の壁のところには小さな宝箱があった。調べてみたが罠もなければ鍵もかかってない。期待せずに開けてみると黒ずんだダガーが1本と銅貨が6枚。


 周囲の落胆した声に俺はダガーを皆の目の前に出す。

「黒ずんじゃいるがこいつは純銀製だぜ。そこそこの値打ちもんだ。第1層で出るものとしちゃ最上級に近い」

 部屋から出て壁をいじると隠し扉を閉める。


「この偽扉に引っ掛からなかったのは大したもんだ。こいつは壁に精巧に描いたものにすぎないんだよ。うかつに触れると、馬鹿でかい音で警報音が鳴る。止めるには隠されている仕掛けをいじらなきゃならないから、おたおたしているうちに群れてやってくるモンスターにご対面ってわけだ」


「それじゃあ、兄貴。もし、引っ掛かっていたら大変なことになったじゃないすか」

「その時は俺が止めたさ。仕掛けの場所は分かってるんだ」

 俺は隠し扉とは反対側の壁の隅を示す。

「ここの目立たないくぼみに手を突っ込んで上側を探ると出っ張りがある。まあ、これが毒ガスが噴き出す罠だったら、お前たちだけで調べさせるなんてしないよ」


 先ほどまでの三差路まで戻りそのまま直進する。100歩ほど進んだところで道は左に曲がっていた。曲がったすぐのところで一群のモンスターに遭遇する。

「なんなのあれっ?!」

 シルヴィアが悲鳴を上げる。うん。まあ無理はない。


 腐臭を漂わせ半分腐った肉がボロ布から見える食屍鬼と骨だけとなり果てたスケルトンの群れだった。見た目もグロいが、こいつはやっかいだな。強くはないが普通の武器で倒すとなると死ぬほど面倒くさい。第1層の面倒なモンスターを引き当てるなんて、冗談で言ったが、誰か本当に不幸の神に魅入られてるんじゃねえだろうな。つまらんことを言った俺が悪いのか。


 豪快にコンバの戦斧が一体のスケルトンの頭がい骨を吹っ飛ばす。カランコロンと転がったが、スケルトンはさび付いた剣を横に払った。コンバは慌てて盾で受け止めている。

「なんすか。こいつら」


「下がれ。こいつらは普通の武器じゃ効きが悪い」

 前衛の間をすり抜けて前に出ようとする。ジーナは呪文を唱え始めていた。ふと見るとキャリーも武器を構えながら唇を動かしている。ショートソードを抜き放ち、コンバに切りかかっていたスケルトンの腰骨を切った。


 俺の剣が骨を砕くと同時にスケルトンは操り人形の糸が切れたようにくしゃりと崩れ落ちる。次のスケルトンに切りかかると横から食屍鬼が腕を伸ばしてきた。剣を止めてバックステップすると、そいつの体が真っ二つになった。キャリーの剣が淡く光を放っている。


 スケルトンに向き直ると横をコンバの巨体が通り過ぎ、戦斧を叩きつけていた。その刃も薄く光っている。骨が砕け散って俺が倒したのと同じようにただの動かぬ骨の塊になった。俺一人では持て余すかと思ったがあっさりとけりがつく。ジーナの魔法の支援があったおかげだ。


「魔力付与の魔法助かったぜ。しかし、同時に複数にかけるとか大変だったろう?」

「え? ああ。うん。そうね」

「私は自分で魔法をかけたから」

 キャリーは自慢げな顔をしていた。いくら初歩のものとはいえ魔力付与の魔法を使える騎士とは正直驚きだ。こいつ意外に出来るのかもしれない。


 その後、数回の戦闘を経て、引き上げを命令する。被害はないものの疲労の蓄積が激しかった。十字路を曲がればダンジョンの出口というところで、細い姿の孤影と遭遇する。単独行しているというのが不安だった。つまり、それだけの実力がある可能性が高い。ジーナの明かりの範囲にそいつが入って来る。髪の毛を振り乱し焦燥した顔の女だった。何かを抱きかかえている。俺は心臓が飛び上がる思いがした。まさか、こんな上層でバンシーだと?

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