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第2章第9話 二難、三難、当たり前

「おうおう、やはりここにおったか。では行こう」

 無駄に元気でデカい声で変な男が割り込んでくるのを騎士が制止しようとする。

「貴様、邪魔をする……、これはマルホンド師。こんなところで何をされているのですか?」

「そんなことを答えるいわれはない。ほれ行くぞ」

 騎士に対するこの傍若無人な態度は間違いなく、魔法の大家で歩く傍迷惑のマルホンドだった。

 なぜか髪の毛が7色に色づいていたので気づくのが遅れてしまったが、まあ俺じゃなくてもこの変貌ぶりにはそうなるだろう。


 騎士たちはお互いの顔を見合わせた。

 魔法学院のお偉いさんがそう言うなら仕方がないという風情である。

 マルホンドは俺の肘を持っていた騎士との間に割り込むと俺を数歩前に押し出した。

 何やら呪文を唱えると上を向く。

 その瞬間にどこかの建物の屋根の上にいた。

 2度ほど景色が切り替わると、俺たちは1棟の建物の前にいる。


 この建物には見覚えがあった。

 ゼークトに連れられてティアナの能力の検証に来たところに違いない。

 マルホンドは建物に入っていきながら振り返りもせずに怒鳴る。

「ほれ、ここからは歩きじゃ。さっさと来んかい」

 仕方なくその背中を追いかけた。

 廊下を進みマルホンドに続いて部屋に入る。

 ソファに腰掛けると厄介な爺様は身を乗り出してきた。


「ようやく会えた。ワシはなかなかカンヴィウムの町を離れることができなくての。その髭と傷跡、実にカッコいいな」

「それはどうも」

 褒められてもあまり嬉しくない。というかどういうセンスをしているんだ?

「それでティアナという娘は息災か?」

「まあ、先日別れたときは元気にしていたな」

 先ほど聞いた予言が胸をチクリと刺す。

「それは重畳。ということは今はお主と一緒にレッケンバーグに住んでいるということじゃな。ふむ。レッケンバーグはちと遠いの。カンヴィウムに越してこんか?」

「それはつまり、ティアナの修行のためということか?」


「話が早くて助かるのう。そういうことじゃ。まあ、ちこっとはあの娘のことを調べさせてもらうが」

「それを決めるのはティアナ本人だ。まあ、そういう依頼が改めてあったことは伝えよう」

「いや、お主の承諾が欲しい。その上であの娘に勧めてもらえんか」

「そうするメリットがない。仮にも妻を調べると言われていい気はしないな」

「なんじゃ、ワシがいかがわしいことをすると疑っておるのか?」


「初対面のときのことをお忘れで?」

「うーむ。ほんのジョークのつもりだったのだがしくじったな。では、必ず誰かを立ち合わせるということでどうじゃ? そうだ、エイリアなら文句あるまい」

 思わぬところで思わぬ名が出て咄嗟に返事に詰まる、

「あの娘なら頼みを断るまい。お主、見た目によらずモテモテじゃの。羨ましい」

 なんでこの変人は俺とエイリアのことを知っているんだ?

 エイリアの存在を知っていてもおかしくはないが彼女の気持ちまで把握するというのは普通じゃない。


「心配するな。あの神官はなかなかの実力者じゃ。ショックの魔法はワシの手を痺れさせよったからな」

 どういうシチュエーションだよ?

 まさか、ちょっかい出して反撃を食らったのか?

 俺の疑問を余所に、いいアイデアだろうということなのかマルホンドは両手の指をパチパチと鳴らしてご機嫌だった。


「率爾ながら、エイリアさんが協力を嫌がるということは考えなくていいので?」

 親指と人差し指を伸ばした状態で止まったマルホンドはふんぞり返る。

「そんなことはありえんな。ワシがお主の居場所を教えてやった貸しがあるからの」

 そうだったのか。

 俺のことをほぼ探し当てる寸前だったが、どうやって居場所を知っていたのかの謎が1つ解けてスッキリしたぜ。

 このマルホンドが俺の居場所を教えた犯人だったのか。

 魔神降臨未遂事件のせいで、どのみち俺と運命的な再会は果たしてしまったわけだが。


「まあ、とりあえず俺は今はレッケンバーグを離れられないんだ。エレオーラ姫殿下のご命令でね。そちらの了解を取ってもらわないと勝手なことはできないな」

 いきなり魔法をぶっ放されても困るので姫様の名前を出した。

「うーむ。そういうことならば仕方ない。ティアナによろしくな。そうじゃ」

 マルホンドは菓子店の名前と場所を告げる。

「そこの店のピーチパイをティアナ嬢に進呈しよう。店でワシの名を告げれば出してくれるはずじゃ。実に美味いぞ」

「そいつはどうも。それでは失礼するぜ」

「ああ。姫様の許しが出たら提案のことを考えてくれ」


 意外とあっさり解放された。

 やれやれ。

 建物を出て歩き始める。

 夜ということで魔法学院の生徒の姿はほとんど見かけない。

 魔法学院のある場所は今日泊まる予定の宿から離れたところにあった。

 結構歩かなければならないことにうんざりしながら道をてくてくと進んでいく。


 早く宿に帰って寝たい。

 おっかねえギルドマスターに、人智を超えた存在、変人の大物魔法士とか、今日1日で盛りだくさん過ぎるぜ。

 しかし、吉報は孤独だが凶報は友人と手を携えてやってくる。

 世の中というのはそういうものだという見本が現れた。


 騎士を伴っている神官服に身を包んだ一団が俺の前方を横切る。

 傍目にも服が汚れていて疲れ果てている様子が窺えた。

 ん?

 何か大事件か?

 そう案じた瞬間に集団の中の1人がこちらに顔を向ける。

 パアア。

 その人物の顔が明るくなった。


 比喩ではなくて淡い暖かな光が溢れ出し一団を包み込む。

 足取りも重く背を丸めていた人々に生気が蘇った。

 ざわめきと共に喜びの声が上がる。

「おお、体が軽い……」

「この感じ、戦乙女の祝歌? 歌唱なしで?」

 そんな声を背景に集団から抜けだそうとしたエイリアが周囲を固めている騎士に止められた。


「道を空けてください。通して」

「いえ、危険ですので勝手な行動はお控えください」

 向こうはばっちり俺のことを認識したし、そのことを俺が気が付いたことも分かっていそうである。このまま回れ右をしたいがそうもいかんよなあ。

 エイリアは制止しようとする隊長に何やら囁いた。

 それから列に戻ると何事もなかったかのように歩き始める。

 と思ったら隊長から指示を受けていた騎士2人が俺のところに素早く近づいてきた。

 おいおい。

 また騎士に拘束されるのかよ。

 しかも、今度は精鋭の金獅子騎士団ときたもんだ。

 勘弁してくれよ。


 ###


 ハッピーニューイヤー。

 月1は更新しようと思っています。

 引き続きご愛顧のほどを。

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― 新着の感想 ―
あれ?完結したかと思ってブックマーク外してたら、更新しとるw
好きな作品が更新されるには嬉しいです
なんかみなさん力づくな行為が流行りかしらん?
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