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記念SS 4 継父となる男(第91.5話) 

(立場が弱い人間はなりふり構っていられないというお話)


 半ば押しかけるようにして間借りすることになった家の家主であるハリスさん。不愛想だし少し胡乱気な雰囲気をまとっている。私の弱みに付け込んで色々と無理強いしてくるのでないかという心配は杞憂だった。部屋の家賃も相場よりはやや少なめで、私の不在時に子供の面倒を見てくれることを考えれば格安ともいえる。


 しかも意外なことに息子であるタックはハリスさんによく懐いていた。多分に子供っぽいところを残しているからかもしれない。ハリスさんがタックと遊ぶ時もおざなりではなく真剣に子供の相手をしていた。そのせいか、庭で遊んでもらっているときも、タックはとても楽しそうにしている。


 ダンジョンで死んでしまった父親のトマスのことを忘れているかのように見えるのは少々寂しくもある。しかし、私もタックはこの先も生きていかなくてはならない。いつまでもトマスのことを思って嘆いているわけにはいかなかった。幸いなことにコウモリ亭という酒場の給仕の職もあっせんしてもらえたので食べていくことには困らない。でも、将来のことを考えると不安でしかなかった。


 女手一つで子育てができるほど世の中は甘くない。私自身も誰かに頼りたかった。もし、ハリスさんにその気があるのなら身を任せるのも悪くないかもと思い始める。ぱっと見に反して子供には優しいし、女性に対しても無体なことはしない。ハリスさんならタックの継父としても問題はなさそうだし、いいアイデアだと思った。


 問題は二つある。一つは命の危険がある冒険者を生業としていることだ。元夫のトマスのように帰らぬ人となる危険が常にあるということに私が耐えられそうにない。もうあんな悲しい思いはしたくなかった。そして、そもそも、ハリスさんの方に私を妻とする気が全くなさそうだ。気立てのいい少女のティアナと張り合っても私の勝ち目はないだろう。


 ティアナは首に奴隷の証である首輪をつけていた。でもハリスさんは妹のように優しく接している。ちょっと派手に怪我をしたときは血相を変えて治療の為に神殿に連れていっていた。そして、ティアナも気立てが良く、何くれとハリスさんの世話をやいている。私が割り込む隙がまったく無い。


 ハリスさんとの間で子供でもできれば話は違ったのかもしれないが、常にティアナと一緒に寝ておりそんな機会もなかった。他の男性に目を向けようとしても職場のコウモリ亭で声をかけてくるのは、一夜限りの関係を目論む冒険者たちばかり。困っていた私に光明が見えたのは、ハリスさんと一緒に王都カンディールにある聖騎士ゼークト様のお屋敷に逗留したときだった。


 ゼークト様のお屋敷の庭師であるノイマンさんから求婚される。私が子持ちであることも気にならないと言ってくれた。それほど高給取りではないが、苦労はさせないし、主が出世すればそれに伴って稼ぎも増えるはずだと口説いてくる。何より命の危険がない仕事というのはとても魅力的だった。


 お話を受けると伝えるとゼークト様の結婚に合わせてすぐにでも結婚式を挙げようという話になる。日頃から世話になっているハリスさんやコウモリ亭の主人のアーガスさんを出し抜くような形になるのは心苦しかった。でも、こんないい話を逃したら次があるとは思えない。私は二つ返事で了承した。これが最良の選択だと信じて。

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