つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
「絶対に彼氏はカッコ良くないと嫌」と宣うクラスの美少女が、イケメンの告白を断って僕に告白してきて、さらに強制的にオシャレをさせようとしてくる。「仕方ないのよ。あんたのこと好きになっちゃったんだから」
ちょっと前、クラスはざわついていた。
お嬢様女子とリーダ格の女子を足して二で割ったみたいなクラスの美少女、梨山明音は、こう公言していた。
「絶対に彼氏はカッコよくないと嫌」
いやまあそうだろう。
僕は是非とも見た目よりも中身で評価して欲しい派の人間ではあるが、流石に明音と一緒に歩くとなると多少はカッコよくないとバランスが悪いだろう。残念なことに。
そして、今日、クラスの中でも圧倒的なイケメンが明音に告白した。
結果、そのイケメンは振られた。
まあここまでもわかる。
彼氏がカッコよくないと嫌と言っているだけで、カッコよければ誰でもいいとは言っていない。
なら何故ざわついていたのかというと。
どうやら、好きな人がいるという理由で断ったらしいのだ。
別に好きな人がこの高校にいるとは限らない。
でも高校生とはまだまだ世界が狭いもんである。
みんな確率的に、明音の好きな人はこの高校にいるのではないかと思っていた。
とはいえそのざわつきの時間が続いた時間は昼休みきりである。
明音は確かに美少女であるが、世の中注目人物はたくさんいるのだ。
だから、六時間目になった今、明音のことを考えているのは僕だけだろう。
どうして僕は明音のことを考えているのか。
それは、手紙が入っていたからである。
呼び出しの手紙だ。
しかも誰も知らなさそうな場所である。
学校の敷地の角のフェンスのところらしい。
これは……まさか。
いやでもな。
それでも告白ではないだろうなと思ってしまうのは、やっぱりあのセリフがあるからだろう。
「絶対に彼氏はカッコよくないと嫌」
残念なことに、僕はあんまりカッコよくないのだ。
☆ ○ ☆
だけどいざ敷地の角に行ったら困ってしまった。
明音は顔が赤くなっていた。
名前の漢字が「赤」音だった気がしてしまうほどである。
「……」
「……今の私見たらわかるでしょ。私、あんたが好きなの。だから呼び出したの」
「あ、そうなのか……ありがとう」
まじかよ。
「……あの、一緒にまず、お出かけしたいです。そしたら、き、きっと、私のこと好きになってもらえると思うんだっ。わたしがんばるんだもん」
「うん、わかった」
返答に困っていたからお出かけから始めてくれてよかった。
好きなのは確かだけど、明音はなんとなく僕からしたら世界が違うもんだから、恋してるかと言われると、難しかった。
だから一緒に出かけるっていうのは、とてもしてみたいと思った。
ていうか女の子と出かけたくない人なんているの? 少なくとも僕はなんとしてでも行きたい。
というわけで僕はとても楽しみに感じていた。
ついに僕もデートとかするようになったんだなあ……よしっ。
この時楽観的な僕は、わすれていたのである。
僕は大してカッコよくないということを。
☆ ○ ☆
告白されてから一週間。
「あれーっ。おかしいなー」
明音はうなる。
ちなみに今日は三回目のデートである。いまいる場所は明音オススメの古着屋。
僕は圧倒的なちょろさを見せ、一回目のデートの後に告白を承諾した。
だって素敵なんだもん。特に、笑う時の雰囲気が好きなんだよな。いやこの雰囲気の素晴らしさはまじで知ってる人少ないんじゃないかな。
とかいう話はさっさと済ませよう。
なぜなら今うなっているのだ。明音が。
「どうしたんだよ」
明音に言われた通り試着した僕は尋ねる。
「いや、普通ならめちゃくちゃカッコよくなるはずなんだよ。なのに……ぜんっぜんカッコよくない!」
こんなに大声でカッコよくない! って叫んで大丈夫なのか? お店の営業妨害ワンチャンあるぞ。
「もうちょい静かに……」
「それはそうね。ごめんなさい。で、でも、あんたももうちょい頑張ってよ? どうしたらカッコよくなるの?」
「生まれ変わらないと無理かなあ」
「そんなことはない! はずだと思ってる信じてる確信しつつある!」
「はい。ていうか、彼氏がカッコよくないと嫌なくせに僕に告白したのがいけない気が……」
「し、仕方ないじゃないの。あんたのこと好きになっちゃったんだから。あんた……優しいんだもん」
「……ありがと」
「そんなダサい格好で照れない!」
「明音が選んだんじゃんかよ」
「でも似合ってないのおーっ!」
「悲しいね」
「悲しいわ。ま、でもとりあえずもう今日はここまでにしましょう」
「ほい。すまないな」
「大丈夫よ。明日行くところなら多分、みんな超カッコよくなれるから。さすがにあんたも普通レベルにカッコよくなると思うわよ」
「それ今日ここにくる前も言ってたな……」
僕がカッコよくなる日は、残念ながら来なさそうである。
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