第三話 歓迎会
「それでは改めまして。宮ちゃん、うちに入社してくれてありがとう!」
「俺からもありがとう。改めてこれからよろしくね。…乾杯!」
「こちらこそよろしくお願いします!」
宮内さんは小さな両手で細長いグラスを持ち、コツンと傾けた。
グラスの行方を追っていった次の瞬間、俺は目の前に広がる彼女に心を奪われてしまった。
オレンジ色の灯光が反射した瞳、こっくりした唇…
それは、綺麗すぎて汚したくなるほど絶景だった。
「ここのオススメ適当に頼むけど、宮ちゃんも食べたいのあったら遠慮せずじゃんじゃん頼んでね〜!」
「はい、ありがとうございます。」
…柏木には本当に感心する。
店や料理もスマートにリードして選んでくれるし、オフィスにあまり居ないのに俺よりも宮内さんと打ち解けている。
俺はあまりこういうのが得意ではない…特に宮内さんに対しては、躊躇しているところもある。
でもこの気持ちは止められそうにない。
しばらくは他愛もない会話をした。
仕事は慣れたかとか、学生時代の話とか。
宮内さんはお酒があまり強くないみたいで、ジュースみたいなお酒一杯でも、肌がほんのり赤くなっていた。
ボーッと見惚れていると、いきなり柏木がぶっ込んできた。
「宮ちゃんって、今彼氏いるの?」
柏木にも一応未亡人だということは伝えてあるし、そういう気遣いができない奴ではない。
酔ってるのか?…本当にコイツは掴めない男だ。
「…いません。」
その言葉や表情から受けたのは、彼氏がいないという安心感ではなく、これ以上聞いてはいけないという危機感だった。
「おふたりはいらっしゃるんですか?」
間を取り返すように、彼女は続けた。
「俺は居るよ!ちょうど宮ちゃんと同い年!」
「えっ、そうなんですか!」
「機会があったら今度一緒に遊んでやってよー。あいつ友達いないって嘆いてるから!」
「仲良くなれたら嬉しいです。峯田さんは…?」
「俺はいないよ。仕事が恋人!」
「そうなんですね。峯田さんらしいです。」
なんとも複雑な返しキター!!
仕事が恋人とか、我ながら何言ってんだか。
…でも雰囲気は立て直せた気がする。
ー そしてあっという間にいい時間になり、柏木の粋な計らい?により、俺が宮内さんを店の最寄り駅まで送っていくことになった。
柏木はこれから用事があるのだとか。たぶん嘘だけど。
「…今日は参加してくれてありがとうね。」
無言に耐えられず、とりあえず今日のお礼から会話を始めてみる。
「こちらこそ、ご馳走になってしまってすみません。」
「いやいや。正直来てくれると思わなかったよ。」
「えっ、どうしてですか?」
「宮内さん飲み会とか苦手そうだし…そうじゃなくても女の子って会社の集まりでプライベートの時間削られるの嫌がるイメージだから。」
「なるほど…」
彼女は遠くを見つめていた。
「わたしずっと専業主婦だったので、こういうの憧れだったんです。」
「そっか、ならよかった。」
そうのこうのしているうちに、あっという間に駅に着いてしまった。
「じゃあ、俺地下鉄だからここで。気をつけて帰ってね。」
「はい、送っていただいてありがとうございます。」
その時の彼女の後ろ姿は、レンズフレアがかかった写真のように印象的だった。
名残惜しくて見えなくなるまで姿を辿っていると、こちらを振り返って会釈をしてくれた。
あなたは本当に、もっと一緒に居たいと思わせるのが上手な人だ。