第一話 丁寧な彼女
「峯田さん、今お時間よろしいですか?」
「どうした?」
「遅くなってすみません。この契約書、確認お願いします…」
今日も彼女は、自信のなさそうな声で書類を持ってくる。
「ありがとう。後で見ておくよ。」
彼女が俺のデスクに書類を持ってくる時…
それは、唯一彼女の顔をはっきり見ることができる瞬間だ。
彼女はいつもうつむきがちだから、俺は下から覗き込めるこの瞬間を、とても楽しみにしている。
ー 彼女がこの会社にやってきたのは三ヶ月前。
名前は宮内佳代さん。
中途入社の事務員として、俺が採用した。
採用した理由は、丁寧な人だと思ったからだ。
身だしなみ、言葉遣いや字の綺麗さ、一般問題のテストも高得点でありながら何度も見直しした形跡があった。
これなら安心して仕事を任せられる人だと思った。
…というのは建前で、本当の理由は「容姿」と「同情」だったのかもしれない。
不純なのは重々承知だが、俺の好みドストライクだった。
色白で背が低くて、可愛いらしい…男の理想を3D化したような女性だ。
そしてどうやら、26歳という若さで未亡人らしい。
結婚してからは専業主婦だったようだ。
経験者からの応募もあった中、未経験の彼女では即戦力に欠けるとは思ったが、彼女の新たなスタートを応援したくなった。
俺が彼女をサポートしたいと、そう思った。
俺の会社は、元職場に不満を持っていた数人の同僚達と独立して立ち上げた小さな会社で、一応常務という立場なのだが、やっていることはいわば何でも屋。
人事や経理も含めて、総務的なことを全部一人で任されていた。
しかし、この前の役員会議でそろそろ本格的に会社を大きくしていこうということになり、社員数が増えることが見込まれる。
そうなると作業量が一人では抱えきれなくなる為、部下を迎える運びとなった。
三ヶ月たったが、彼女はよくやってくれている。
努力家で覚えもはやいし、全体的にミスが少ない。
だがしかし、俺の方にひとつ重大な問題がある。
どうやら彼女のことを好きになってしまったらしい…