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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 四章 血と怨霊に枯れる愛
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77 王都捜索

 グルグルと体全体が回転して、フワッとしていた足が地についた感じがしてやっと目を開ける。前に映るは王都の城壁。薄気味悪い森林の中からここまで指輪でひとっ飛び出来るのはやはり便利だ。


「あーグルグルするー」


 目を回すテレレン。思えばボクはそろそろ慣れてきている感じだ。


「よし。王都の前までこれたし、早速セドラスに関する手掛かりを見つけようか」


「それなんだけど」と口を挟むアルヴィア。


「夜も近づいてきてるから手分けして探してみましょう。クイーンはゼレスさんから話を聞いて、私は街中でセドラスさんを知らない人がいないか調べてみる」


「そうか。王都は広いから別れた方が効率がいいな」


 いい考えだと思うとドリンも乗っかってきた。


「そしたらオデは街の周辺で情報を集めるダヨ。セドラス殿が吸血鬼ならその姿を見た魔物がいるかもダヨから」


「それじゃテレレンは……テレレンは……」


 そこから言葉が続かないテレレン。どうやら自分が探せるあてが見つからないようで、そっとアルヴィアが肩に手を置く。


「私と一緒に行きましょう。街中でテレレンみたいな子が一人じゃ危ないしね」


「あ、うん、分かった!」


「時間は夕刻までにして、集まる場所はどうする?」


「ギルド本部前でいいだろう。そこならみんな迷わない」


「分かった。それじゃ夕暮れ時にギルド本部前で」


「ドリン。魔物と変な気を起こさないように気をつけろよ。何かあったらすぐ逃げるように」


「分かったダヨ」


「それじゃ、各自解散だ」




 話し合いで決めた通りボクは一人でゼレスおじさんを探すことになった。この王都は広い。端から端まで行くのにきっと六時間はかかるだろう。そんな大きな範囲であればある程度場所を絞らなければいけないが、そこでもやはり役に立つのはゾレイアの眷属だ。


 街に入る前に十匹程度を走らせ、見つけ次第ボクの元に戻るよう指示しておいた。ボク自身も街中を自分の足で歩いて探しているが、ゼレスおじさんから出る独特の血の臭いをいち早く察知出来るのは、猫の性格を持つ彼らだ。


「お。見つけたか」


 足元に現れた影の猫を、ボクは頭を撫でてあげて褒める。



 * * *



「うぅ……。オデ一人で見て回るっていったダヨけど……」


 右に左にと目を動かし続けるドリン。チョコンと出た足の歩幅はありのように小さい。


「やっぱり、あんなこと言わない方がよかったダヨ……」


 せわしなく首を振り続け、辺りをくまなく警戒しながら進む彼だったが、ふと周りの風景に見覚えがあるのを思い出す。


「あ。この湖。前にクイーン殿とラケーレ殿が戦った場所ダヨ」


 目線がどこかに映る。生い茂った木々から切り立った岩肌。ついそのふもとまで誘われるように動いていく。


「洞窟の入り口がないダヨ。まさか……」


 記憶を頼りにあの時と同じ場所をチョンと指でつつくドリン。すると、固い岩肌だと思ったその表面が布のようにひらりと揺れ動いたのだった。



 * * *



「うーん……」


 ボクはある邸宅の窓ガラスに顔をつけながら唸ってしまう。立派な内装の広いダンスホールの中でゼレスおじさんを見つけたはいいものの、とても華やかで楽しそうに彩られたこの空間に入っていける気がしない。なんだか角に弓の弦を張り、それを杖みたいなのでこすって出てくる音色が漏れ出ていて、ゼレスおじさんは今、この中で社交パーティみたいなものに参加していて、十数人といる美男美女に混じってある女性と手を繋いで踊っているのだ。


「この雰囲気。さすがに入っていったらダメだよな……」


 窓ガラスの縁に座って一緒に眺めている眷属にそう語り掛ける。ここで待つべきか否か。それとも今は置いといて他を探すべきだろうか。


 そんな考えが頭に巡り始めた時だった。


「何か用かいクイーン?」


 突然後ろから声がして「うわっ!」と驚いてしまった。振り向いてみたらそこにはコウモリが飛んでいて、その青い瞳でまさかとボクは思う。


「え? もしかして、ゼレスおじさん?」


「そうだ。私の眷属を通じてお前と話してる」


「そんなことが出来るの?」


「誰でも出来るわけじゃない。世界で私だけが使える能力だ」


「うわぁ! さすがゼレスおじさんだ。眷属ですらここまで器用に扱えるなんて」


 目から鱗が出たようだった。コウモリの口は動いてなくて、直接頭に語りかけられてる感じだ。影から分離させて眷属を生み出すのがゾレイアの効果で、それはボクのとゼレスおじさんで違いはないけど、それ以上の力をゼレスおじさんは持っているんだ。


「それで、私に用があったんじゃないのか?」


「あ、そうだ。ゼレスおじさん。セドラスって吸血鬼は知らない?」


「セドラスか。随分と懐かしい名前だな」


「やっぱり知ってるんだ」


 コウモリがバサバサ音を立てて、窓縁の天井部分に足を引っかけ体が下向きになる。洞窟内にいるコウモリさながらのポーズだ。窓奥で本物のゼレスおじさんが踊り続けてるのを背景に話が始まる。


「彼は分かりやすく言えば、私に次ぐ強い力を持つ吸血鬼だった」


「ゼレスおじさんの次に強い吸血鬼……」


「私は今も吸血鬼の主として吸血鬼領を納めているが、その私に挑んでくる吸血鬼が現れたりする。クイーンも知ってる通り、我々魔物は強者主義。弱き者は力を持つ者に従うのが普通だ」


「うん。お父さんが一番強いから魔王なんだよね」


「セドラスはよく私と張り合ってきてね。自分こそが吸血鬼の主だと言っては何度も決闘を申し込まれたものだ」


「どれくらい戦ったの?」


「ピッタリ百回だな」


「そんなに!?」


「でも私が負けたことは一度もない」


「さすがゼレスおじさん。最強なんだね」


「吸血鬼の主の名を、そう簡単に譲るわけにはいかないからな」


 ふと、ダグレルの残したある言葉がよぎる。


 ――決着をつけてくる。


「ねえゼレスおじさん」


「なんだ?」


「セドラスってヤツは最後に『決着をつけてくる』って屋敷の執事に言い残してたらしいんだけど、その意味は知らないかな?」


「決着、か……」


 羽を毛づくろいしていたコウモリがピタッと動きを止める。フロアの中からも丁度楽器の音が消えて、ゼレスおじさんを含む人間たちも踊りを止めて互いに会釈している。


「恐らく私とセドラスの最後の戦いのことだろう」


「最後の?」


「大事なものをかけた、互いに譲れない戦いだった。まさしく死闘になるほどに」


「大事なものをかけた……」


 屋内では一人が登壇して何か喋っていて、ゼレスおじさんたちは自分のペアと一緒にその人を見て話を聞いている。


「男であればいずれ訪れるもので、他人から見たら馬鹿なものにすら見えるもの。クイーンにもきっと分からないだろうな」


「そうなの? なんなのか教えてほしいんだけど」


 いきなり拍手の音が鳴り響く。どうやら演説みたいなのが終わって、ダンスパーティも終わりに差し掛かったのか各自が自由に動き始めた。


「すまないクイーン。私はこれから忙しくなる。彼女を送ってあげなければいけない。話の続きはまた今度にしよう」


「え? そ、そっか。あ、でも待って――」


 そう口にした時には、既にコウモリは音もなくその場からいなくなっていた。中でゼレスおじさんも踊っていたパートナーと一緒に部屋を退室していって、その後を追うことが出来なくなってしまった。


「行っちゃった。ラルって人物を知ってるかどうか訊きたかったんだけどな」


 夕日の光が当たっていたのに気づく。空を見上げる。アルヴィアの約束した時間が近づいていた。

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