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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 四章 血と怨霊に枯れる愛
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73 依頼内容:(幽霊)屋敷の調査

 いつものようにドリンは外に待機し(本人曰くギルド内の人間が一番視線がキツイとのこと)、中に入って依頼書が貼られてる掲示板まで行こうとした。今まで何度かやってきた流れであったが、今日は受付の女性がボクらを見つけると立ち上がって呼び止めてきた。


「クルドレファミリアさん! こちらにお願いします!」


「ん? なんだ?」


 アルヴィアとテレレンと目線を合わせるも、二人も何も分からない様子。とりあえず言われた通りカウンターまで歩いていくと、ギルドの係員はテーブル下にあらかじめ用意されていたカードを四人分取り出した。一つはある魔物用のための特大サイズ。それは冒険者なら全員が持っている証明書のギルドカードだったが、ついてる宝石が純白に輝いていた。


「セルスヴァルア国王陛下から話を聞きました。クルドレファミリアの皆さんがある暴動事件を鎮圧してくれたと」


「あー。ブロクサの件か」


「それを評してギルドのランクアップを、とのことでしたのでこちらをご用意させていただきました」


 そう言えばそんなことを言っていたのを思い出す。依頼じゃなくても誰かに認められてあがる、なんてこともあるのか。


「ゴールド階級のギルドカードと交換する形でお渡しする決まりになっております。今お持ちであればすぐに交換できますが……」


「それならみんな持ってるな」


 ボクはゾレイアの眷属に。アルヴィアは腰裏につけたポーチ。テレレンは首から下げて服の中に隠すように。ドリンならいつでもどこからでも見える位置にある。


「テレレン、ドリン君の持ってくるね!」


 そう言ってすぐに駆けだしていくテレレン。扉を開けて自然と閉まっては、またすぐにバタンと開けられて彼女が俊足で戻ってくる。四つのギルドカードをボクがまとめて受付嬢に手渡した。


「プラチナへのランクアップおめでとうございます。どうぞお受け取りください」


 それぞれ自分の名前の書かれたカードを受け取り、ボクがドリンのものも一緒に受け取った。テレレンがカードを頭上に持ち上げ、プラチナの宝石に目を光らせる。


「うわぁ! 綺麗な宝石……。やったねクイーン様!」


「ま、ボクがいればこれくらい余裕だろう。一番高いオリハルコンだっけ? あれにもすぐにたどりつけるさ」


「おお! さっすがクイーン様! 頼もしい!」


 おだててくれるのがなんと快感か。思えばお父さんに褒められるために本を読んで知識も身に着けたり魔法を極めたりしたんだ。やっぱり誰かに持ち上げられるのは気持ちいい。


「はいはいたのもしーたのもしー。さっさと金になる依頼を見つけましょ」


「おい冷めすぎだろアルヴィア!」


「さっさと稼いでここを出たいだけよ。長くいたらまた厄介なことに巻き込まれるかもしれないから」


「なんだよあいつ。ちょっとは褒めてくれてもいいじゃないか」


 後ろでブーブー言ってても、先に歩き出したアルヴィアは振り返りもせず掲示板前へと進んでいく。テレレンもその後を追っていくのを見て、ボクも渋々意固地な体を前に運んでいく。




 掲示板の前に立った時、ちょっとした景色が変わった。それは掲示板上に飾られた宝石の色だ。今までのゴールドではなくプラチナ階級。その下に貼られた幾つもの依頼書をボクらは眺めている。


「おお。さすがはプラチナ級。依頼の報酬金額がゴールドの倍だ」


 どれも基本は600前後も頂ける。内容に関しても中級魔物の複数討伐か、上級魔物一体をどうにかしてくれというものばかり。次期魔王となるボクにとってはどれもあくびが出てしまいそうな内容だ。まあ、討伐するだけならの話なんだが……。


「あれ? この依頼……」


 そう言葉をこぼしたアルヴィアがある一枚の依頼書を凝視していた。気になって見てみると、依頼の題名が『(幽霊)屋敷の調査』だった。


「これ、私がギルエールのギルドに入ってた頃にもあったものだわ。まだ解決されてなかったのね」


「かっこがついてゆーれーやしきって書いてあるよ。そんなのがあるんだね」


「幽霊か……。一応部類としては魔物に分けられる存在だな」


 ボクにとって何気ない一言にアルヴィアが反応してくる。


「その言い方。まさか幽霊がこの世界に実在してるってこと?」


「いるんじゃないか?」


「曖昧な答えね」


「実のところ。ボクもこの目で見たことはないんだ。城の書物には『古の亡霊たち』っていう本に偉人の幽霊とか、生に執着するあまり現世げんせにある影響をもたらした亡霊の記録とかが残ってたりするんだが、どれも現実味がなくてな」


「ふーん。それは人間の間でも同じかも。幽霊なんて存在は、物語の中でしか語られてない」


「でも、お父さんが言うには実在してるらしい。それも意外とたくさん」


 魔物側と人間側。双方でも一致する存在の幽霊は、やはり話を聞くだけじゃ信じきれないところがある。お父さんの言ってることが間違いってことはないんだろうけど、ボクはこの目で見たものじゃないと信じられない性格なのもあって今日まで半信半疑のままだ。


「ねえ見て見て! 報酬金のところ!」


 いきなりテレレンにそう言われて、ボクの目が自然と依頼書の下部分に動いた。そこに書かれていた金額は、一言で言うと異常だった。


「さ、3500クラット!? なんだってこんな金額が!」


 目玉が飛び出そうなインパクトを受けていたボクに対して、冷静を保っていたアルヴィアが詳しく話してくれる。


「この依頼、元々はブロンズ級が受けれるものだったの。けどブロンズ級ギルドが赴いた際、メンバーのほとんどが精神が不安定な状態で戻ってきたそうよ」


「不安定?」


「やけに震えたり変なことを喋ったりとか、そんなところ。依頼は解決されず、別のギルドが同じものを受けてみてもまた同じ結果で帰ってきた。どのギルドも解決できなくてたちまちこの依頼の話題は広がった。本部の方でも報酬金と受けれる階級を上げていって、その度に怖い者知らずのギルドが依頼を受けたんだけどそれでも駄目。そんなことを繰り返していった結果、報酬金もとうとうここまで来たって感じでしょうね」


「だとしてもこんな金額あり得るのかよ。他のと比べても五、六倍も高いぞ」


「オリハルコン級の、それも高難易度のものと同等かしら。プラチナ級にこれを貼ってるのはきっと、まだ屋敷に潜む魔物が明確になってないからでしょうね。冒険者の話から分かったのが一匹の幽霊が見えたっていう、たったそれだけなの」


「ふーん、気がおかしくなるのは幽霊の仕業だと」


 人間たちは魔物の強さの指標として下級、中級、上級って分けていたが、幽霊の場合そのどれにも当てはまらないってことだろうか。だから高い階級のギルドに限定したくてもルールが邪魔して出来ない。依頼の題名にかっこがついているのもそのせいか。


「本部の方の規定で、これ以上ランクも上げられないんだと思う。本部の方も早く解決してほしくて、報酬金ばかりが増えていったんでしょうね」


 早く解決してほしい、か。もう一度報酬金額をじっと見てみる。アルヴィアが必要だと言っていたのと同じ3500クラット。こんな都合のいい巡りあわせ、人生の内でもそうそう訪れないだろう。


「よし、決まりだ」


 スッと手を伸ばし、釘で刺された依頼書をビッと引き剝がした。すぐにアルヴィアが動転の顔を作る。


「まさかクイーン、その依頼を受けるつもり?」


「当然だろ? こんなに多額の報酬がかけられてるんだ。ボクらは七魔人ですら撃退したことがあるんだし、これくらい余裕で解決出来るだろ」


「そう簡単にいくのかしら? 幽霊が本当かどうかは分からなくても、精神が不安定になってるのは事実なのよ?」


 心配性の一面を見せるアルヴィアだったが、テレレンがボクの方に乗り気だった。


「クイーン様がいれば大丈夫だよ。それに幽霊か何かに精神がおかしくなったって、テレレンはそれ以上の苦痛を経験してるから絶対なんとかなるよ!」


「その話題はまだちょっと触れづらいわよ、テレレン……」


 アルヴィアは苦笑いでそう言うが、テレレンはいたって満面の笑みを浮かべている。


「まあなにはともあれ、受けるだけ受けてみようじゃないか。それで駄目そうなら最後の手段、転移の指輪がある」


「まあそれはそうだけど……」


 何か言い淀むような表情をして、それでも最後は諦めるかのようにため息をついてアルヴィアは頷いた。


「分かったわ。その依頼にしましょう。確かに解決したらすぐに馬車を使えるわけだし」


「よーし。そうと決まったら早速受付を済ませてくる」


 そう言ってボクはテレレンと一緒にカウンターへと向かっていった。

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