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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 二章 ギルド本部・ダルバーダッド
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39 直感で分かる強者

 仲間の失敗や過去の過ちを掘り返しグチグチと言う非難囂囂ひなんごうごうな様。悪態をつき続けるギルエールにボクも不機嫌な気分になってしまう。


「あんなに言わなくてもいいのにな」


「ランクのせいね」


 アルヴィアの澄ましたような一言。


「ギルエールは常に一番にいることに執着する男。ギルドの最高ランクが何か憶えてる?」


「えっと、オリハルコン級だったか?」


「そう。オリハルコン級冒険者は、この王国にあるすべてのギルドを探してもたった一つだけなの」


「一つだけ! かなり限られた者にしかなれないのか」


「ギルエールはそいつを妬んでるのよ。自分よりも高いところにいるそのギルドのことを」


 高すぎる自尊心が彼に執念を与えている。アルヴィアの話から見えるギルエールという男はそういう風に映った。


 ボクにはよく分からない。たかだか同じ人間同士だろうと思うからだ。


 人間は魔物に比べて特別秀でた力があるとは思えない。唯一魔物より優れているのは知恵ぐらいだろう。力や速さ、戦うスキルに関しては本来なら低いんだ。それを魔法というもので埋め合わせているだけで、体自体が超人に変わるわけじゃない。


 要は人間は一人では生きていけない生き物なのだ。一人でいればあっと言う間に外敵に食われるから。魔物ボクらは肉食獣などから身を守れるからこそ不思議でならない。あの男の行動。仲間に軽く暴言を吐ける彼の心意が。


「この最強のボクだって、アルヴィアに道案内を頼んでいるっていうのに、あいつは誰かに頼って生きているって自覚を持てないんだな」


「最高ランクのオリハルコンは、絶対に一人でたどり着けるようなものじゃない。だからこそ彼も仲間を出来る限り集めているんでしょうけど、肝心なことを理解できていないんでしょうね」


 なおもギルエールは独り言のように何かを言っている。仲間も仲間で何も言い返せないようだ。何か弱みでも握られてるかのように黙り込んでいる。


 窮屈そうなギルドだ。ボクだったら容赦なく言い返すだろうけど。ランクなんてこだわらず、もっと自由にやればいいものを。


 そう思っていると、また回収所との扉が開いた。


 出てきたのは昨日、依頼書を取ろうとした時に手が重なったあの冒険者、褐色の鉤爪戦士ラケーレだった。彼女は報酬を受け取ろうと、受付前にいるギルエールの体を堂々と押しのけた。


「のあ!? なんだお前! この俺になんの真似だ!」


 苛立ちが募っていたことも相まって、強い口調になるギルエール。ラケーレはめんどくさそな顔を作る。


「そんなところにいたら邪魔なんだよ。用が済んでるんだったらさっさと退きな」


「なんだとお!」


 拳を作り上げるギルエールだったが、ラケーレは完全に無視して受付嬢に依頼書を放り渡した。受付嬢が確認し、「少々お待ちを」と裏に行くと、いきなりラケーレは本部内にいるボクらみんなに聞こえるように声を張った。


「それはそうと、お前らに重大な報告が一つある。とんでもねえ話題だぜ」


 全員の目が一点に集まる。ボクらの注目を浴びたところで、ラケーレはハキハキとした喋りで話した。


「最高ランクのユースティティア。あいつらが最近現れた七体の最強魔物、七魔人を倒しに隣街に向かったのは知ってるよな?」


 ボクのよく知る言葉にハッとした。ボクら四人は知らなくて互いに顔を見合わせたりしたけど、周りの冒険者は知っているのか各自頷いたり黙って聞いている。


「その七魔人の内の一体が、この王都のすぐ近くの洞窟で見つかったんだ!」


 洞窟で見つかった――。


「それってまさか」と小声で呟くテレレン。洞窟にいる七魔人と言ったら、ボクらの中ではあいつしかいないが、七魔人が近くにいたことを知らない冒険者たちは一斉に騒ぎ始めた。


「本当かよ!」「七魔人がこの近くにも」「どうすりゃいいんだ? ユースティティアはここにいないぞ」


「落ち着けお前ら!」


 騒々しいのを一瞬で治めるラケーレの一声。再びみんなの視線が集まる。


「みんなして顔を青ざめてるが、アタイは行くぜ。アタイはその七魔人を倒しに行く」


「うえ?」「正気かよ」「無理に決まってるだろ」


 今度は小さなざわめきが起こる。誰もがそんなのは無謀だと、不可能だと顔で語っている中、ギルエールが一刺しするように口を開いた。


「おいお前。どうやら正気ではないようだな」


「至って正気さ。アタイなら勝てるからな」


「その自信はあれか? 一人で、それも二週間でプラチナ級まで上がった自分は最強だと思っているのか? 自惚れるのも大概にした方がいい」


 彼の言葉にアルヴィアが「一人でプラチナ級!?」と驚いていたが、ラケーレはギルエールに睨みを利かせる。


「何が言いたいんだ?」


「その七魔人は俺たちが狩る。お前がプラチナ級なのに対して俺たちはその一個上、ミスリル級だ。どっちが向かうべきかは誰がどう見ても明白だよな?」


「へー。一生ミスリル級止まりのアンタに譲れってか」


「一生だと? 俺の実力はオリハルコン級も同然だ! 七魔人を倒してそれを証明してみせる!」


「威勢だけでいけるもんじゃないって。アタイからしたらアンタは芋虫も同然さ。それくらいアタイらには力の差がある」


「芋虫だと!? 俺なら一人でプラチナ級にだって行けたさ。あまり調子に乗るんじゃないぞ新入りが!」


「新入り、ねぇ」


 ラケーレの目が、なぜかボクに向けられた。途端に何か突き刺すようなものを感じられる。


 強い眼差し。力強く見開かれてるとか、じっと睨みつけてるとかじゃない。だけど感じられる。あの女から。その内側から秘めたる力のようなもの。


 敵を見るような目そっくりだ。


「つい最近も、新入りに幻影の炎で脅されてたベテランさんに言われてもねぇ」


「っな!? 馬鹿にするか貴様! ――っておい! 無視するな!」


 ラケーレがボクの前まで近づいてくる。ふとボクは警戒心を強めたけど、彼女は至って気さくに話しかけてくる。


「アンタ、きっと最強だろ?」


「え? なんだよいきなり」


「アタイの特技なんだ。一目見たら誰が強いヤツなのかすぐに分かる。アンタはアタイの目に留まるほどの強者きょうしゃだ」


 すっと手を出される。それは握手を求めるものだった。


「今だけアタイと一緒に組んでみないか?」


 いきなりのお願いだった。困惑しないわけない。今までボクに突っかかってくる人間は大体、ドリンなんかを見て裏切り者だと勝手に叫んでくる者ばかりだった。


 それなのに彼女は、そんなのを一切気にせずボクに握手を求めてきた。魔物を連れた、人間たちの敵を連れたボクにだ。


 ボクは迷ってしまう。その手を取ってしまっていいものか、躊躇ってしまう。


 どうしてか。それは彼女の存在を危惧しているからだ。


 さっきの発言からコイツは、ボクのイルシーを幻影の炎だと見破った。それだけでなく、ボクから溢れる魔力からボクの強さを感じ取っている。


 そして何よりさっきの目。敵意を込められたような目。今は感じられないけれど、あれは気のせいだったのだろうか。それでも、一瞬感じてしまった感覚が抜けきれない。


 違う。今まで見た目で判断してきた人間たちと明らかに違う。


 彼女は味方なのか? それとも敵なのか?


「おい待て、色黒女!」


 ギルエールがラケーレの肩を引っ張り、ラケーレは途端にダルそうな顔つきになって彼を見る。


「んだよ、性懲りもなく」


「そもそも本当なのか、七魔人が現れたというのは? ヤツらは最近確認されたばかりの魔物で情報も少ないだろうに、根拠はどこにある?」


「見れば一発で分かるっての。アタイじゃなくても、ヤツらから溢れるオーラはアンタでもビンビンに感じられるはずだぜ?」


「フン。嘘だな」


「なんでだよ?」


「お前のしようとしていることなどお見通しだ。そのモンスターテイマーとお前は裏で繋がっていて、一緒に七魔人を倒した、とデマを作ってランクを上げようとしているんだろう」


「はあ? なんだそりゃ?」


「とぼけても無駄だぞ。その小娘は魔物を操れるそうだが、その力を利用して七魔人もどきの死体を持ってくるんだろう? そうしてそれが七魔人だと言い張って、自分たちが倒したと断言する。そうすればオリハルコン級にでもなれるだろうからな」


「そんな豊かな想像力、アタイにはねえって」


「いいや、そうでないとお前たちの存在が説明できん。たった一人で二週間という短い間にプラチナにいったお前と、異例の役職でギルドに登録したこいつら。不正をしないとまず不可能なことをお前たちはしているんだ」


「あっそう。だったら勝手について来いよ。アタイらが七魔人を倒すのを、ちゃんとその目で見とくがいいさ」


「フン。その虚勢もいつまで持つかな?」


 顔を突き合わせた言い争いがやっと終幕する。ギルエールはさっと振り返って仲間の元に戻り、「出撃準備だ」と命令し、ラケーレは気だるそうに首元をさすりながらボクらに振り返る。


「あーあ。ったくメンドウなヤツだな。んで、アンタはどうするんだ? 来るのか?」


 再び質問を突き付けられる。さっきは答えに迷ってしまったけど、二人が話してる間に考えはついた。


 元々ボクは、魔物と人間の醜い争いを止める魔王を志している。それで今目の前にいる彼女らが七魔人を討ってしまう、もしくは返り討ちにあってしまえば、ボクの中に必ず後悔が残る。ボクの手の届く範囲で、無益な犠牲を出すわけにはいかないんだ。


「行くよ。ボクなら戦う以外の選択が出来るかもしれないからな」


「戦う以外の?」


「魔物と話せるからな。それに、扱い方も熟知している。お前たち人間の犠牲は生み出させないさ」


「……へえ、そうかい」


 最後にそう言ったラケーレは、まるで興味がないかのような態度をとって、そのまま本部の出入り口に向かって歩き出した。

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