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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 二章 ギルド本部・ダルバーダッド
35/134

34 ランク

「ふーん。これがギルドに登録した証の『タグ』か」


 ネームプレートに紐づけされたものを持ち上げる。なんらかの木で作ったザラザラの紙に『クイーン』とこげ茶色のインクで書かれていて、その横にギルド本部を表す印鑑。そして金色の宝石の欠片が埋め込まれている。


「登録祝いの50クラットと、新しいタグ。ひとまず、やっと活動が始められそうね」


 色々頂いたものをポーチに整理していくアルヴィア。


「前のタグはどうなるんだ?」


 ふと気になって訊いてみる。


「本部の方で処理してもらったわ。二つ所持するのは規約違反だから、昔のは捨てないといけないみたい」


「そうなのか」


「けど、まさかゴールドランクからスタートできるなんて。私がミスリルまでいたのと、試験の結果を受けての判断らしいけど、ちょっと驚いたわ」


 アルヴィアはそう言うが、ボクら三人はいまいちそのゴールドランクという価値が分かっていない。


「前々からランクってのは聞いてたけど、具体的に教えてもらってもいいか?」


「下からブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ミスリル、オリハルコンまで階級付けされてて、ランクが高ければ報酬が高い依頼を受けることが出来る。依頼をこなせばギルドの内部ポイントが増えていくけど、ポイントの管理は本部の方がやってくれるからあんまり気にしなくていいわ。知りたかったら教えてくれるしね」


「要は適当に依頼をこなしてれば勝手に上がるってわけで、上がったら依頼を受けれる幅が広がるってことだな」


「別名として、ブロンズからE、D、C、B、A、Sランクって呼ばれることもあるわね。これはギルドにあんまり詳しくない人からよく呼ばれる印象だわ。ランクが高ければそれだけ周りから一目置かれる存在になれる。クイーンたちには分からないでしょうけど、ギルドに登録するだけでも簡単なことじゃないのよ」


「じゃ、テレレンたちって特別ってこと?」


「異例って言った方が正しいかしら。実技試験で初めて本物の魔物と対峙して、まともに武器を構えてられない人だっているくらいだから」


「へっぴり腰過ぎないか、それは?」


「街中にいたら滅多に魔物を見ないから、それが普通なのよ。それを魔物を従えたモンスターテイマーとして登録したんだから、異例中の異例よ、クイーンとグウェンドリンは」


 人間の間ではやはり魔物は恐れを抱く対象で、警戒すべき敵か。彼らにとってのその常識を、これから覆していかなければ。そのためにドリンはよく目立ってくれる。ギルドの活動でモンスターテイマーの名が広まれば、人間が魔物への見方を改めてくれるかもしれない。


「アルヴィア殿」


 ドリンが彼女を呼ぶ。彼は特例で、首元にボクらのより十倍デカいタグが付けられていて、周りからもギルドに所属していることが分かるようになっている。それでも、周りからの視線が集まるのはやむなしだ。


「ゴールドランクだと、どれだけ強い魔物を相手するダヨ?」


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。ゴールドランクが相手できるのは中級魔物まで。グウェンドリンにとっても余裕の相手でしょ?」


「よかったダヨ。もうミノタウロスみたいなのを相手するのは嫌ダヨ」


 怯えるドリンにボクははっきりこう言う。


「たとえミノタウロスが出たって問題ない。あの時はボクが手を出せなかったが、これからは一緒に戦える。それにアルヴィアもいるし、テレレンも助けてくれるから、何も心配することないさ」


「た、確かにそうダヨ。みんながいると心強いダヨ」


「大概のことはボク一人でどうにかなるさ。早速何か依頼を受けて、初仕事と行こう」


「依頼を選べる掲示板があるの。こっちよ」


 そう言ってアルヴィアはボクたちを掲示板まで案内してくれる。


 受付のすぐ横。横長の木板が付けられたそこに何十枚もの依頼書が張り出されていて、それを何人かの冒険者が見つめて吟味している。


「依頼は基本、この掲示板から好きなのを選んで受付で契約金を払って受けるの。掲示板の上に宝石が飾られてるけど、自分たちのランクと同じ宝石が飾られてるところに行けば、大体適性の依頼が集まってるようになってるわ」


 真っ先にテレレンが質問をする。


「ゴールドでも一番難しい依頼って受けられたりするの?」


「それは無理ね。ゴールドだったらゴールド適性までの依頼しか出来ない。プラチナとかミスリルとかは、もっとランクアップしないとね」


「結構あるダヨ。こんなに魔物に困ってる人がいるダヨか」


「全部が全部魔物討伐ってわけじゃないけど、八割方はそうね」


「残りの二割は?」とボクは気になる。


「錬金術に必要な素材集めとか、店で窃盗した犯人捜しってところが多いかしら。稀にユニークな依頼もあったりするわね」


 様々な種類のものがあるらしいが、ボクらがするのは魔物関連のものがほとんどだろう。本音を言えば高ランクのものに言って自分たちの知名度をさっさと上げたい気持ちがあるが、規約違反となっているのなら地道にやっていくしかない。


「クイーン。あなたが選んでよ。このギルドのリーダーなんだし」


 アルヴィアにそう催促されて、ボクはそうだなー、と呟きながら掲示板と顔を突き合わせる。ゴールドランクに貼られた依頼書を、討伐という内容を流し見し、主な魔物という欄や報酬金というところに注視していく。


 そして、ひとまずはこれでいいか、と思って一枚の依頼書に手を伸ばそうとした。釘で打たれたそれを引きはがそうと、紙に触れた瞬間。


「――あ」「――おっと」


 誰かと手がぶつかった。隣を見てみると、そいつは女の黒髪を雑多にした、やや褐色の肌をしている人間で、顔つきというか態度が男らしく思えた。明らかにアルヴィアよりも年上で、身に着けてる装束や腰に鉤爪かぎつめという武器を携えているのを見て、すぐに冒険者だと理解する。


「同じタイミングで同じ依頼を取ろうとするなんて、初めての経験だな」


 先にそう話しかけられた。そいつは後ろにいるドリンに目を移しているように見えると、ふーん、と言ってからボクらにニヤッと笑いかけた。


「アタイはラケーレ。アンタら、あの時ギルドに転移して押しかけて来たモンスターテイマーだろ?」


「見てたのか」


「丁度ギルドにいたからな。急にあんなの見せられたら忘れられないさ。でも、そっちの魔物を見ると、無事登録できたみたいだな」


「言っとくが、ボクらは何も不正なんかしてないからな。むしろやられそうになった側だ」


「アッハハ。疑ってなんかないさ。アタイも分かってるつもりだからね~。魔物にだって色々いるってことは」


「そうなのか。ラケーレと言ったか。イイヤツだな、お前」


「お? そう言ってもらえるなんてありがたいね~」


 彼女の喋り方は勝気で、ギルドの奥の壁まで届きそうなほど真っすぐ飛んできて、そのせいか、彼女に裏表がないような気がする。


「でも、悪いけど――」


 気安い笑顔を浮かべていたラケーレは、パッと掲示板からボクが取りたかった依頼書を先に取った。


「この報酬金は譲れないな」


「んあ! それボクが取ろうとしたヤツ!」


「ははーん。悪いね新人ちゃん。一応ここでの規則は早い者勝ちなんだ。アタイもさっさと上に登っちゃいたいからね~」


「大人げないぞ!」


「のろいおこちゃまほど、よくその言葉を使うんだぜ。覚えておきな」


 それを捨て台詞にラケーレは受付の方へ歩いていく。ボクは勝手なそいつにブーッと頬を膨らませたが、背中を向けたそいつは見向きもしない。


「怒っててもしょうがないわよクイーン。どうせ依頼は山ほどあるんだから」


 アルヴィアにそう諭されて、ボクは不服なまま掲示板に振り返る。少々苛立ったまま、別の依頼を決めよとする。


 その裏で、密かに二人が話しているのをボクは気づかなかった。


「どうしたのドリン君? なんだか震えてるけど?」


「オデ、震えてたダヨかテレレン殿?」


「うん。小刻みに体の岩が。なんか怖いことでもあったの?」


「……いや、あのラケーレっていう人から、なんだか強い気配を感じてたダヨから」

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