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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 二章 ギルド本部・ダルバーダッド
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33 クルドレファミリア

 ギルド本部の応接室。メドリルから試験が明日だと言われたこの場所で、木造ソファに羊毛クッションが敷した簡易ベッドでテレレンが眠っている。ボクの後ろでドリンも不安を隠せずそわそわした様子を見せているが、わずかに瞼が揺れたかと思うとテレレンはやっと目覚めた。


「起きたか。体の調子はどうだ?」


「うん。テレレン、寝てたの?」


「気絶してたんだ。実技試験の時に魔法を無理に発動してたけど、憶えてないか?」


「あ、そっか。あの時に倒れたんだ。魔法が全然反応してくれなくて、なんでなのー! て怒ったら、なんだか胸の中から凄く強い力が溢れた感じがして、気がついたら、テレレンの中から風がブワーってなってた」


「あの威力はボクも驚いた。まさかお前の中にそんな凄い力が隠されてたなんて」


「うん。テレレンも知らなかった」


 回復の効果に加え、風属性の効果も持つ魔法。まさかの二つの力を持った魔法だったとは。


「……ちょっと待てよ。ボクは魔法を二つ同時に発動しようとすると腕が痺れるって言ったけど、テレレンの場合もそうなんじゃないのか?」


 パッとしないテレレンに代わり反応するドリン。


「回復と風属性が一緒ってことダヨか?」


「そうだ。二つセットで発動されてるから頭痛が起きてる可能性がある」


「そうなんだ。でもテレレンにとって、使っている魔法は一つだよ。分けて使うとかは無理そう」


「そうなのか。そうなると頭痛を受けるのは我慢しないといけないんだな」


「そんな……。また気絶するのは嫌だよ……」


「使い方を制御していけばいいだけのことだ。あまり無理しないように気をつけよう」


「うん、分かった。ところで、アルヴィアお姉ちゃんは?」


 部屋に唯一いなかったアルヴィアだったが、テレレンが訊いたと同時に扉が開いて彼女が顔を見せた。


「起きたのね、テレレン。無事みたいでよかった」


「困らせちゃってごめんなさい」


「気にしてないわ。もうどこも痛くない?」


「うん! もう平気だよ!」


 耳によく響いてくる声。いつものテレレンだ。


「それで。ギルドの登録は出来そうなのか?」


 ボクはアルヴィアに訊く。


「とりあえず。試験はみんな合格よ」


 その発表のひとまずボクは安堵する。テレレンも大声で「ヤッター!」と喜んで、アルヴィアは手に持っていた紙を、ソファの前に置かれたテーブルに乗っける。


「後は書類を作って提出するだけ。それでギルドの登録が済むんだけど……」


「何か問題があるのか?」


 何かを言いよどむような様子にそう訊いたが、アルヴィアは「問題ってほどじゃないけど」と言って紙の一番上の空欄を指でトントンと示した。


「ギルドの名前、何にしたらいいか全く考えてなかったなって思って」


「名前、か」


 ギルドの、ボクらがチームとして活動する名前。普通に考えればそういうのも必要だよな。


「んー、名前かー」


 口元を人差し指で叩きながら考えてみようとして、けれどもそう簡単にポンッとイイ感じのものは思い浮かばない。


「アルヴィアが活動していた時はどんな名前だったんだ?」


「『ソルディウス・エスト』って名前。太陽神ソルディウスと、エスト・コールっていうワインから名前を取った感じね」


「神とワイン。奇妙な組み合わせだな」


「前のリーダーのセンスがそうってこと。他に私が知ってるのは、最高ランクの『ユースティティア』とか、メンバー全員が炎の魔法使いの『メギドフレイム』。師弟で一緒に活動してるギルドで『熊流派の団』なんてのもあったわね」


 みんなそれぞれ自分たちの特徴を捉えたものが多いみたいだ。ボクらに特徴的なものから考えるのもアリか。


「みんな一個ずつ案を出していくか。その中から最終的にみんながいいと思ったものを選ぼう」


 ボクの提案にまずアルヴィアが即答してくる。


「シンプルに『モンスターテイマー』でいいんじゃない?」


「まんま過ぎるだろ。それに、ボクとしては別に、テイマーという認識じゃないし」


「そう。私、こういうの一番苦手なのよね」


 どうやらアルヴィアは頼りにならなそうだ。


「ドリン。お前はどうだ?」


「オデは……『クイーン様御一行』とかどうダヨか?」


「ふむ。ボクが目立っているのは評価できるが、もうちょっと何か欲しい気もするな」


「はいはーい! テレレンは『クルドレファミリア』がいいと思いまーす!」


「クルドレファミリア?」


「クイーン様の『ク』、アルヴィア姉ちゃんの『ル』、ドリン君の『ド』、テレレンの『レ』。四つの名前を合わせて『クルドレ』で、ギルドっていう運命共同体だから家族って意味のファミリア!」


 三人してほーと感心してしまう。ボクらの名前と家族を合わせてクルドレファミリア。いつ家族になったんだってツッコミたい気持ちもあるが、ギルドの活動では命を預けることだってあるだろうし、それだけの絆や結束力という意味でも家族は当てはまっているか。


「テレレンはセンスがいいのね。私じゃ絶対に思いつかなそうな名前だわ」


「本当!? センスあるんだ、テレレンって」


「それで、あとはクイーンだけね。何か思いついた?」


「聞いて驚け。『ワールド・オブ・クイーン』だ!」


「ワールド?」


「いずれ世界を束ねる者。ボクに相応しい名前だろ?」


「うーん。あなたらしいっちゃあなたらしいけど、私はテレレンのが好きかしら」


「え!?」


「オデも、それよりかはテレレン殿のがいいと思うダヨ」


「ドリンも!?」


 三対一。多数決により、ボクの案は呆気なく崩れる。


「イエーイ! テレレンの案が採用だね!」


「くっ……。仕方あるまい。みんなで決めるって言ったのはボクだからな」


「そんなに悔しがること? フフッ」


 ふいに笑みをこぼしながら、アルヴィアはテーブルに置いてあった羽ペンを手に取り、空欄に『クルドレファミリア』と記入していく。ボクはがっくしと肩を落としたまま名前が書かれていくのを見ていると、アルヴィアが最後まで書ききって羽ペンを戻した。


「どうせあなたはこの世界を束ねるわよ。誰よりも強いんだから。でも、それは決してギルドでの活動がすべてじゃない。私たちが一緒にいる間は、この名前で活動していきましょう、リーダー」


 もっともなことを言われて言いくるめられた。まあ、確かにギルドでの活動はあくまで未来のための礎の一つでしかない。依頼で受けるもの以外にも、ボクがやるべきことはたくさんあるはずだ。クルドレファミリアっていうのも別に悪いものでもないし、それでいいってことにしとこう。


「……ってちょっと待て。ボクがリーダーか? アルヴィアじゃなくて?」


「そうよ。もう書類にもそう書いたわ。クイーンならむしろ喜びそうだと思ってたけど、嫌だった?」


「何を言う。このボクがリーダーを嫌がるわけないだろう。元ギルド所属のアルヴィアが適任かとも考えてたけど、お前がもうそう決めたのなら、ボクはちゃんとその役目を果たしてみせるさ」


「頼りにしてるわよ」


「うむ。それじゃ、みんなで書類を提出しに向かおう」


 ボクはみんなの先頭に立ち、応接室の扉を開ける。試験を乗り越え、やっとボクらはギルドを結成する。


 ――クルドレファミリア。三人の仲間を引き連れた新たな門出だ。

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