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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 二章 ギルド本部・ダルバーダッド
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30 グウェンドリン対ミノタウロス

 ――国王陛下、ログレス・セルスヴァルアの名の元に。メドリル・アッガー。貴殿をギルド本部・ダルバーダッドの本部長兼最高責任者に就任することを認める。




 あの日から、私は失敗が許されない身となった。ギルド本部は役所仕事であり、国においてとても重要な機関である。ここでの失敗は、責任者を選出した国王陛下の尊厳を失わせる行為。そんなことはあってはならない。


 そんなこと、この私が犯してしまってはならない。


 それなのに、昨日訪れたあの連中。モンスターテイマーになりたいなどとほざきよった。


 文献には確かにその役職は存在する。だが、あの国王陛下が魔物の存在をお許しになるわけがない。たとえ正式な役職として受理できるものだとしても。


 ――あの方は、魔物に最も大事なものを奪われたのだから。




「それでは、試験は明日ということで。お気をつけてお帰りください」


 彼女らを部屋で見送り、全員が出て行って扉が閉められる。


「……試験内容は変えられるか?」


「え? いきなりですか?」


「そうだ」


 あいつらをギルドに登録させるわけにはいかない。もしも登録させたものなら、私は国王陛下になんと言われるか分かったものではない。


「筆記試験の内容は二週間に一度変えるという規定です。それに、残り半日で別のものを用意するのも、本日は担当の者がお休みを取っているので……」


「なら実技だ。実技試験は受験者に合わせて内容を作る。とっておきのものを用意しておかなければ」


「はあ……」




 あいつらはモンスターテイマー志望。そんなのこの先現れることもなかろう。とっておきのものを用意してやるんだ。そうしてあいつらを、絶対に試験に不合格にさせる!




 ――その後、私は国の知り合いに頭を下げたのだ。どうしてもそうしなければならないと。私の命にも関わることなのだと。


 そうして借りれたのが、魔物の中でも極悪の筋力を誇る存在。三大魔物の内の一つに数えられるほどの凶悪魔物。


 上級ミノタウロスだ。


「ブモオォォ!」


 人間では到底敵わない筋力に、どこから持ってきたか分からない刃が極太な斧。背丈だってそのフロストゴーレムよりもわずかに上回っている。おまけに普段監禁しているからか、普通よりも気が立っている個体らしい。


「ヒイィィ!? ミノタウロスダヨォ!」


「落ち着けドリン。戦いの場で委縮したら遅れを取るぞ」


「なお、ギルドの規律第六十六章より、テイマーの試験ではテイムした仲間との連携を見て判断するため、テイマー自身が手を加える攻撃は原則禁止とする」


 さあどうする。ちびっこモンスターテイマー。こんなのを前にお前みたいなのが戦えるのか?


「ブモオォォ!」


 早速襲い掛かったか。振り下ろした斧が、惨めにオドオドしているゴーレムの腕にガツン! と。


「グウェ!? い、痛いダヨォ!」


 おお。岩のように頑丈な腕に、見事な切り傷がついている。さすがは怪力の化身。ゴーレム相手じゃ分が悪いようだなぁ。


「イルシー!」


 なんだ? いきなり白い炎がミノタウロスとゴーレムの間に壁のように……。あの小娘の仕業か。


「クイーン殿。魔法を使用するのは禁止と言ったはずですが?」


「禁止なのは直接攻撃することだろ? 裏で指示するだけのあるじがどこにいる?」


 チッ。とんだ屁理屈を。だが……。


「確かに。今までのテイマー志望の方も、手を加えないなりに援護をしてたな」


 隣で何も知らずにあの女の言葉に頷いてしまっている審査官。もう片方はあくびをこぼしていやがる。


 彼らは私の裏の狙いを伝えていない。短い時間の中で集められたのがこいつらだっただけで、素性も知らないヤツらにこんなことを口にすることなんて後が怖すぎる。


 ここは大人しく見るしかないか。だが、相手は上級ミノタウロス。最高ギルドが赴いてやっと生け捕りに成功した強力な魔物。そう簡単にヤツらが攻略できるわけがない。




「アルヴィアお姉ちゃん。ドリン君、とっても痛そうだけど、大丈夫かな……」


「魔物の中でも特に危険な三体を、私たちは三大魔物って呼んでるけど、ミノタウロスはその内の一体なの。下級が存在しなくて、他の魔物に比べて上級が遥かに手強い。私も相手したことがなかったけど、まさかゴーレムの体を一撃で削ってしまうなんて」


「クイーン様がどうにかしてくれるかな?」


「きっとどうにかするはずよ。魔王の娘が、こんな逆境覆せないなんてことあるわけない」




「ドリン。腕を見せてみろ」


 幻影の炎でミノタウロスとは一時離れることが出来た。今の内に体勢を立て直さないとだけど、腕を抑えているままじゃとても戦えない。


 ドリンは必死に抑えていた手を離すと、そこから黒緑の液体がドバッと地面に落ちた。むせるような血生臭さに一瞬怯みながらも、ボクは傷口の状態をしっかり確認する。


「深い傷じゃない。氷で傷口を塞ぐんだ。最初は痛くても後には響かない」


「わ、分かったダヨ」


 ドリンが氷魔法を腕の内側から発動させ、傷口に振れる痛みに歯を食いしばりながらも、開いた傷口をピッタリ氷で埋めていった。


「よしよくやった。ドリン。お前の持つ技は、村で見せたもの以外にないのか?」


「オデの技は、フロストウェイブにフロストジャベリン。あと、フロストパンチくらいダヨ」


「お前の氷魔法はまだ伸びしろがある。これからボクの言う通りのことを――」


 そのタイミングで丁度ミノタウロスが斧を豪快に振って風を起こし、壁となっていたイルシーを吹き消してしまう。


「ボクの幻影がバレたか」


 今にも向かってきそうなミノタウロスに、ボクはドリンに振り返ってとにかく指示を出した。


「口からだ!」


「口?」


「口から魔法を発射しろ! 両手両足をつけて固定砲台のようになれば、強力なものが打てるはずだ!」


「そんなのやったことないダヨ!」


「お前ならやれる!」


 ドスドスと足音が近づいてきて、ドリンも慌てるように両手を地面につけた。口を開き、そこに冷気を集めていって塊を生み出す。


「打て!」


 ボクが叫んだと同時に氷が発射される。ドリンが一点に溜めた魔法は、弓矢のような速さでミノタウロスに飛んでいった。人間の顔面くらいありそうな氷塊の大砲。それを体に受けたミノタウロスが衝撃に後ろによろめいた。


「いいぞ! 連続で叩き込め! あいつを近寄らせるな!」


 再び大口開けるドリン。顔の目の前にまた氷塊を生み出していき、彼は威勢よく技を放つ。


「フロストブレス!」


 一発が胸筋に砕け散り、もう一発も肩に当たってミノタウロスをよろけさせる。


「今だ! こっちから行くぞ!」


「分かったダヨ!」


 フロストブレスを放ちながら、ドリンは四つ足になってミノタウロスに近づいていく。一方的にこちらが攻めている状態で、そいつとの距離もどんどん近づいていく。


 ドリンの言っていたフロストパンチ。それがあれば止めを刺せる。そう思った時だ。


「ブモオォォ!」


 ミノタウロスは立ち上がり、フロストブレスの氷塊を斧で叩き割った。うろたえたドリンが急いでまたブレスを撃ち込むが、それも豪快な一振りで軽く払われてしまう。


「うえ!? み、見切られてるダヨ!」


「いやまだだ!」


 ドリンの後ろからボクは飛び出す。「クイーン様!?」と呼び止めるのを聞かず、ミノタウロスの横を全速力で駆け抜けてようとする。持ち上げられた斧が頭上へと迫ってきたが、足を止めず間一髪でそれを走り抜け、後ろに振り返ってドリンに叫ぶ。


「ボクに撃ち込め!」


「ええ!? クイーン様に!?」


「いいから早く!」


 地面に刺さった斧を抜き取るミノタウロス。その目がドリンに向けられると、ドリンは動揺した様子のまま、それでも両手をつけて体勢を取り、フロストブレスを放った。


 氷塊はミノタウロスの真横を通り過ぎてボクに。前から見るとあっという間に迫ってくるそれを、ボクは予め準備していた腕を振ってあの反射鏡を創り出す。


「レクト!」


 透明な板にぶつかるような音を立てて、氷塊がボクの目の前で反射する。微妙に角度を変えて発動したレクト。反射した先にミノタウロスがいると、そいつが気づく前にヤツの背中にブレスが見事命中する。


「ブフォッ!?」


 突然の衝撃に思わずミノタウロスは前のめりによろけていって、そしてドスンと勢いよく地面に倒れ込んだ。握っていた斧がドリンの足下にいったのを見て、すかさずボクは命令する。


「斧だ! 斧を破壊するんだドリン!」


 冷気が彼の右手に溜まっていく。自分の五本の指の手を氷でまとめて固めていき、メイスのような小型の槌に仕立てて、それを高々と地面へ振り下ろす。


「フロストパンチ!」


 ビキッ! と耳に鋭く刺さるような音が響く。その後すぐにパーンと陶器が割れたような音も鳴ると、ドリンが殴った斧の太く大きい刃が真っ二つに割れた。それを見てボクは、ふう、と安堵の息をつくのだった。


「んな!? ミノタウロスの斧を割っただと!」


 声を荒げるメドリル。倒れていたミノタウロスが顔を上げ、あらぬ姿に変わった斧を目にする。


「オノ……オノ……」


 その力なき声は、ボクらに戦意喪失の意を示していた。

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