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二人の追放者が出会う時 ~魔王の娘の帰宅奇譚~  作者: 耳の缶詰め
 二章 ギルド本部・ダルバーダッド
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24 解放の儀式

「七魔人ウーブ。お前の力、見せてもらおう!」


 依然だらんと座り続け、殺気を隠し続けるウーブ。彼に向かって威勢よくボクは一歩を踏み出した――瞬間だった。


「なんで急にやる気になってるの?」


「え?」


 ピタリと動きが止まる。ウーブは態度を変えないままこう続ける。


「僕は戦う気一切ないよ」


「え? え? どういうことだ? 七魔人はボクの首飾りを狙ってるってさっき……」


「確かにそう命令されたけど、僕は別に。戦うのって嫌いだし、叶えたい願いだってない。命令って言われても、僕がやらなくてもきっと誰かがやってくれるだろうしね」


「そ、そうなのか……」


「魔王様からもよく言われるよ。その怠惰な性格をどうにかしてくれないかって」


 未だに困惑する気分が収まらない。が、とりあえずウーブに敵意がないのは明白だ。ひとまず落ち着こうと両手のフレインをフッと消し、なんとなく咳払いをしてみる。


「ま、まあ。戦う気がないなら分かった。ここはボクも魔力を収めておこう」


 裏でこっそり「早とちり」とアルヴィアが呟き、ドリンも警戒を解くように安堵の息をつく。テレレンはうんうんと大きく頭を振って頷き、「平和が一番」とまとめる。ハートマークのアホ毛の揺れが激しい。


「そろそろお引き取り願えるかな?」とウーブ。


「僕はここでひっそり、誰にも見つからずに過ごしていたいからさ。これ以上騒がれると困る」


「お、おうそうか。それならボクらも戻るとするよ。色々疑って悪かったな。あと七魔人の情報、ありがとな」


「どーいたしまして」


「バイバーイ、ウーブさん。また遊びに来るねー」


「うん。二度と来ないでね」


 テレレンの挨拶を耳にしながら、ボクは再び手に明かりを発して来た道を戻ろうとする。アホ毛がすぐ隣に来て、ドリンの重たい足音、そしてアルヴィアも後ろからついてきて、そのままボクらは洞窟の外まで出ていった。




「……さてと」


 外に出て元の道に戻ろうとしながら、ボクはそう一声洩らす。


「結局テレレンの記憶に関しては、何も分からなかったな」


 ウーブから分かったことは、降霊術でテレレンを外に追いやったということだけで、当初知ろうとと思っていたことについては何も分かっていない。


「気がついた時に外にいたって言ってたけど、どこら辺とか憶えてない?」とアルヴィア。テレレンはうーん、としばらく考えてみるが、出てきた結論は「分からない」の一言だった。


「テレレン、本当に何も思い出せないんだ。自分が何者なのか。なんで外にいたのか。友達とかいたのかどうかだって分からない。名前だけは憶えてたんだけど、不思議だよねぇ」


 だよねぇ、ってそんな他人事みたいに言われても……。実際になったことがないからはっきり分からないが、記憶喪失ってこんな軽いものなのか?


「お前ってもしかして、記憶喪失のままでいいと思ってないか?」


「うーん。思い出せるなら思い出したいかなー。それで知り合いとかいたらその人が困ってるだろうし。まあ無理なら無理で全然いいんだけど。あ! 憶えてること一つあった!」


「お。それはなんだ?」


「これだよ!」


 パッと両腕を伸ばすテレレン。全力まで開いた小さな手に、何やら魔力の気配を感じられると、徐々に黄緑色の空気の流れが目に視認できるように浮かび上がった。その空気はそよ風のように流れていって、前にいたアルヴィアの体を優しく撫でるように当たっていく。


「この感じ。もしかして『ヒール』? 回復の魔法みたいね」


「そうそう。テレレンはこの魔法が使えるんだよ。アイタッ!」


 いきなり頭を抑え出すテレレン。すかさずアルヴィアが「どうしたの?」と訊くと、テレレンは頭をさすりながらも苦笑いを浮かべる。


「えっへへ。魔法を使うと急にこうなっちゃうんだよね。頭がビビッと痺れるような感覚が」


「頭が痺れるような感覚?」


 腕組みをしたアルヴィアが頭を傾ける。ふいにボクに目線を送ってきたが、ボクも詳しく分からないという風に首を横に振った。


「魔法の副作用かしら? 魔力を使うと頭痛が起きるなんて初めて聞いたわ」


「うーん。ボクの場合、複数の魔法を同時に発動しようとすると、体内の魔力の流れに異変が起きて腕が痺れたりはするな。それに近いのかも」


「へえ。そんなことがあるのね。私も初めて知ったわ」


 このせいでボクは一度に二種類以上の魔法を使うことが出来ない。と言っても、一回止めてすぐに別のを発動することが出来るから、特に不自由だと感じたことはない。


 テレレンの場合がボクと同じことなのかは分からないけど、そもそもボク自身人間の魔法事情を詳しく知らないな。


「思ったんだが、人間って産まれながら持ってるのって魔力だけだよな? ボクら魔物はそもそも何かしらの魔法を持っていて、体の成長と共にその効果も大きくなっていくんだが、人間の場合、魔法はどうやって手に入れるんだ?」


 前にアルヴィアが話していたのは、産まれながら魔力を持っていないと魔法は一生使えないということで、その言い方はまるで、魔法を使うことを選べるような意味合いに捉えられたけど、果たして。


「私たち人間の場合は、魔力を持ってる人が『解放の儀式』を行うことで魔法を手に入れることが出来るの」


「解放の儀式……そんなのがあるんだな」


「魔法は天から与えられた特別な力。自分の血液を適量採血して、錬金術で作られる秘蔵の霊薬と混ぜてそれを一滴足らず飲み干す。その霊薬は魔力にとって毒だけど、体中の魔力を犯して魔法を発動する力に変えてくれるの」


「じ、自分の血を飲むダヨか?」


「解放の儀式を行う人ってあんまりいないけど、生理的に無理って感じてる人が実際多いわ。霊薬自体も臭いし味も嘔吐物みたいで最悪。おまけに寿命が十年削れるって言われてるわ」


「命を犠牲にしてまでしてやっと手に入るのかよ。大変だな、お前たち人間は」


「だからこそ、あなたが四つも魔法を持っているのに驚いたのよ。そして逆に、あなたが本当に魔王の娘だって確信が出来た」


 なんてまあ不便な種族なんだ、人間ってのは。けど、この話の中からテレレンの記憶の手がかりを見つけられる気がする。


「そう言えば、クイーン様って魔王の娘なんだね。凄いね!」


 いきなりテレレンにそう言われる。そう言えば彼女にはまだ話してなくて、ウーブとの会話で聞いた時に知ったのだと気づく。


「ボクの凄さに気づいたか。ボクならお前の記憶喪失の謎を解き明かしてやらんこともないぞ。今も丁度、一つ考えが浮かんだ」


「ホント! 一体どんな方法なの?」


「お前が魔法を持っているということは、解放の儀式というヤツをやったということになる。そしてそれは、儀式と言われるほどだからきっと関係者とかがいるはずだ。そいつを捜してみればいいんじゃないか?」


「確かに」と呟いたのはアルヴィアだ。


「解放の儀式は専門の役職者に協力してもらう必要があるわ。儀式をしている館を探し回れば、テレレンを知ってる人に出会えるはず」


 ボクの思いつきからアルヴィアがそう推理を広げると、テレレンは「おおー!」と感心の声を上げた。アルヴィアが続けて、これからの目的地を示す。


「ここから一番近い街は『ダルバーダッド』。国の王都だからかなり広いけど、館の数ならそんなに多くないからすぐに見つけられるはず」


 ダルバーダッド。さっきアルヴィアが栄華の街と言われていた、セルスヴァルア王国の王都か。ボクが城へ帰るまでの寄り道としては、悪くない場所じゃないか。


「街が広いってことは、それだけ情報を得られる機会も多いってことだ。早速そこに向かおう。集団で暮らしている人間の様子も、この目で見てみたいしな」

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