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 ロン様のその変わり具合に周りに居た者達が騒めく。

 

何が起こったというの?


「姉上が失礼しました。行きましょう。リチャード殿下、聖女様。下がらさせて頂きます。義兄上、失礼します。」


ポールは素早く一礼し、私はポールに支えられ、訓練場を後にする。


気付くと手が冷たくなり、震えていた。


「姉上、大丈夫ですか。顔色が悪い。すぐに邸へ戻りましょう。」


 ポールは私を心配し、抱えるように馬車に乗り込む。私の震えていた手をポールの温かい手が包み込み、優しく言葉を掛けてくれる。


「姉上、驚きましたね。ロン義兄さんはきっと何か訳があるのだと思います。気にしなくていい。それより、今日は疲れたでしょう?ゆっくり休んで下さい。」


 

 邸に着いてからは私の部屋まで手を繋ぎ、部屋に入る。ベッド横まで連れて来てくれたポールに私は微笑む。


「昔は私が心配してポールのベッドまで手を繋いで連れて行き、トントンして寝かせてあげたのに。いつのまにか反対になっているわね。」


「姉上、少し休んで。私は少し用事がありますから。」


 そう言ってポールはファナスタの額を撫でると、ファナスタはポールから発する淡い光と共に目を閉じベッドへ寝かせられた。


「シャナ。姉上の事を頼んだよ。後で詳しく話す。」


「了解致しました。」


 シャナはファナスタが孤児院で見つけてきた侍女。この邸の従者達の殆どはファナスタが孤児院から見つけ出しては召し抱えており、従者達からの信頼は絶大である。



俺は姉の寝息を聞いてから急いで父の書斎へ向かう。



― トントントン ―



「父上、只今戻りました。」


「お帰りポール。どうした?そんなに暗い顔をして。ファナに何かあったのかい?」


一瞬、ロンがファナスタを突き飛ばした時の記憶が蘇り、憮然たる面持ちで答える。


「事実のみを報告します。今日、聖女様が編入されました。放課後に騎士科の訓練を見学している時、聖女様が姉上の前でロン・ウッド伯爵子息の胸を触り、跪いた彼に追い討ちを掛けるように肩に触れました。


その後、心配して駆け寄った姉上にロン・ウッド伯爵子息は『聖女様に近づくな!』と突き飛ばしました。 


俺はロン・ウッド伯爵子息の豹変具合から見て、聖女に魅了を掛けられたと推測します。」


「それが本当だとすると厄介だな。分かった。ウッド伯爵家と王宮へは知らせを出しておく。ポール、お前はファナスタを支えてやっておくれ。婚約破棄もあり得る。」


「もちろんです。」


ポールは父に報告するとすぐに姉の部屋に戻る。


「・・・また聖女か。」


父は一人になった執務室でそっと呟く。





「起きた?姉上。どう?具合は。」


「心配かけてごめんね。もう大丈夫だわ。」


「だといいんだけど。そうだ、明日から学院の登下校はポールと一緒にするように、って父上に言われたよ。勝手に一人で帰らないでね。」


「分かったわ。ポールったら心配性ね。」


 夕食は家族みんなで食べた。母も私の体調を心配してくれて明日の学院を休んだ方がいいって言われたけれど、休めば噂が噂を呼んでしまう。頑張って登校する事にしたわ。



 翌日、ポールにクラスまで送られて自分の席に座る。昨日一緒にいた令嬢達がさっと私を取り囲んで心配そうにしながらもあの後の話を教えてくれた。


ロン様は人が変わったかのように聖女様に微笑まれ、訓練を止めて聖女様をエスコートしてリチャード殿下と共に王宮へ向かったそう。


何が彼にあったのかしら。


いつもならお昼をロン様と食べていたのに、今日は来ない。心配したクラスメイトが声を掛けてくれる。


 じわりと澱に心が侵食されるような感覚。私は人を避けるように中庭の一番奥で隠れるように昼食を摂っていると声が聞こえてきた。


「もうっ、ロン様ったら。婚約者様が居るんでしょう?」


「彼女なんて七海様に比べたらその辺の雑草と変わらない。もうすぐ婚約破棄をするんです。気にしなくていいですよ。七海様は俺を見ていればいい。」


「ロン。七海は未来の王妃。私の妻だよ。」


「ロン、本当?嬉しいわ。リチャードも。ふふっ。私、超幸せかも!」


苦しい。


苦しくて息が出来ない。


知りたくなかった。


息を殺して彼らが行き過ぎるのを待っていたけれど、胸が張り裂けそう。



 なんとかクラスへ戻り、令嬢達から心配される。もう、周りを気にする余裕も無いほど。どうやら青い顔をしてそのまま景色が暗転した。



 気付くと、ポールが手を握ってくれている。


「ここは?」


「姉上。気がついた?ここは医務室だよ。姉上が倒れたとクラスの令嬢から聞いて急いで迎えに来たんだ。姉上。とりあえず、邸へ帰ろう。」


ポールはそう言って私を抱き抱えて医務室を出る。


「ポール!?私、歩けるわ。重いし、恥ずかしいわ。」


廊下を抱き抱えられながら進むのは恥ずかしい。顔は真っ赤よね。


「姉上。恥ずかしいなら俺の胸に顔をくっつけておいて。そうすれば何も見えないでしょう?俺は嬉しいですけどね。」


あぁ。早く馬車に着きたい。


「大丈夫ですか?」


横から聖女様の声が聞こえ、手が伸びてくる。ポールは一歩下がり、


「触らないで下さい。気安く家族以外に触れられたく無いので。」


冷たい視線と共に聖女様達から距離を取る。


「ご、ごめんなさいっ。で、でも!私は怪我人を治せますから!」


「有難う御座います。ですが、治療の必要は無いので、結構です。では失礼します。」


一礼をして去っていこうとしてロン様に止められる。


「七海様に向かって失礼だぞ。」


「ロン義兄さん。俺は失望しましたよ。婚約者の心配も出来ない人に成り下がるとはね。ではまた邸で。」



 ポールは私を抱き抱えたまま馬車に乗り、ポールは私の頭を撫でていた。


「姉上。もう泣かなくていいよ。俺は姉上の側にずっといるから。俺が大好きなファナスタを支える。」


 ポールのその言葉で私は堰を切ったように嗚咽しながら泣き、目の腫れたまま屋敷に帰ったわ。母も、父も、邸のみんなも心配してくれて私の気持ちが落ち着くまでの数日は学院を休む事になった。


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