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晴れと雨の境界に陽はさしますか?  作者: 夏みかん
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晴と雨の出会い

木戸晴人が織りなす再生の物語。

登場人物メイン4人の再生は『くもりのち、はれ』シリーズの最後に何をもたらすのか?

前作、『明日、晴れるかな?』で名前だけは出た木戸本家の長男がそのラストを彩ります。

名前に『晴』なんて文字が入っているのに、全く晴れる様子はない。天気が、ではなく、心が、だ。あの日から俺の心に陽は差さなくなった。ずっと雨だ。当然だろう、太陽を失くしてしまったんだから。俺を照らしてくれる太陽はもう存在しない。だからあの日、俺も死んだんだ。なのにこうして生きている。心は死んでも体が生きているのは、あの日の言葉が自らの死を許さないからだろう。心が死んでいるのに、あの約束を守る意味はあるのだろうか、そればかりを考えて今を生きている。



降りしきる雨が窓を叩きつける春の夜、木戸晴人きどはるとはそんなことをぼんやりと考えながら、ただじっと窓に当たる雨粒を見つめていた。この地へ来て約7か月、生活にも慣れているとはいえ、何もしない日も相変わらず多い。眠れない夜ももう慣れてしまっている。心が死んだあの日、思い出の残る故郷を去る決意をしたのはどこかで野垂れ死ぬことを期待していたはずだ。なのに、今もまだのうのうと生きている。死にたいはずなのに、こうして生きている自分に嫌悪する。自分を縛り付けている呪いのような約束によって生きている自分を恥ずかしいと思う。そうしているといつの間にか眠ってしまったようだ。まだ肌寒い3月の朝、いや、もう昼に近い時間だ。のっそりと起きた晴人は惰性的に顔を洗い、歯磨きをする。朝食を食べなくなって久しいためか、これが日常となっている。そうしているとインターホンが鳴り響く。どうせまたくだらない勧誘かと玄関に向かうと、返事もせずに虚ろな目のままでおもむろにドアを開いた。カギをかけないのはいつものことで、この田舎で空き巣もなにもないだろうとの判断からだ。いや、ただ単に面倒なだけかもしれない。いっそ強盗か何にかに刺されてもいいかと思うが、それはそれでないと思う。幼いころから仕込まれた古武術によって即座に身体が反応するのが目に見えている。歴代でも最強と呼ばれ、そういう自負もあったのだからそうなるだろう。扉の向こうは昨夜の雨が嘘のようなすがすがしい天気になっていた。その天気に勝るとも劣らない、とびきりの笑顔が目の前にある。髪は茶色で大きく目立つ胸元まである。目はぱっちりで化粧がやや濃い気がするものの、その美人さはそれを気にさせないものをもっていた。そんな美女を前にしても晴人の表情は暗いままだ。不愛想なその顔を見ても笑みを消さず、美女は手に持っていた包みを差し出した。


「隣に引っ越してきました、宇都宮です。宇都宮雨うつのみやあめ


にこやかにそう自己紹介する雨に対し、晴人は表情を変えずに小さく頭を下げた。


「木戸晴人です」


表情に似合った暗い声を聞いてもなお笑顔を絶やさない雨。


「ハルト?春の人?」

「いや、そうじゃなくって」


そう言い、晴人は雨の後ろに広がる青空を指さした。


「晴れの人」


その言葉に笑みを消したのも一瞬、さっきまでとは違う笑みを浮かべた雨は包みを受け取る晴人を値踏みするようにしてみせた。


「私も天気の雨・・・・一緒だね」

「なにが?」

「名前と性格の不一致が」


雨はそう言い放つと心底馬鹿にした笑みを浮かべて見せた。ああ、これが本性かと晴人が納得すると同時に、雨は最初に浮かべていた作り笑いをしてみせた。


「まぁ、よろしく」

「どうも」


そう言うとそそくさとドアを閉める晴人に対し、閉じられたドアを見つめる雨はペッと唾を吐くと自分の部屋に戻るのだった。


「クソだね、あいつも」


玄関にある下駄箱の上に置いている別の包みをポンポンとしながらそう言う雨は冷たい目をしつつ再びドアを開くのだった。



これが出会いだ。

運命的でもなく、特別でもない出会い。

だが、後々に思うのだ、これは奇跡の出会いだったと。

そう、これは4人の男女が紡ぐ再生の物語。

その物語は、ここから始まる。

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