7.放課後にカフェで一杯です。
あの騒ぎからしばらく経って今は放課後、私とあかりはエレナ達と合流し第四区画にあるカフェ「Hexe」に来ている。この店はシスター達に人気がある様で周りを見渡すと多くのシスターが集まり席を埋めている。
そこでみんなそれぞれの好きなケーキを頼みお茶を飲みながら和気藹々と話していた。
「——ちょっと、あかりそんな事やってたの?」
私から授業での事、そしてあかりとラウラのひと悶着の話を聞いたエレナが両手で包んだコーヒーのカップを口元から下ろしてそう言った。
すると、あかりはケーキを運んだフォークを銜えながら不貞腐れた様に答える。
「やりたくてやった訳じゃないわよ。ああなったら、彼女止まらないだろうし、下手に相手するとフレンダに飛び火しそうだったから・・・仕方なく。」
「でも、あかり綺麗だったよ。カッコよかった!」
「『貴女の首がつながっている保証は無いわ』。」
「ちょっと!からかわないでよ!」
私とヘレンがあかりをからかうと彼女は顔を赤くしてそう声を上げた。その姿が可愛くて私は更に彼女をからかう。
「私知ってるよ。あれ、オイランって言うんだよね。凄く綺麗で私見とれちゃった。」
「・・・よく知ってるね。」
「何?その『オイラン』って。」
私の言ったオイランと言う言葉に反応してエレナが興味深そうに尋ねてくる。
「大昔に日本に居た娼婦の事だよ。すっごく綺麗なんだ~」
「へぇ~、私も見てみたかったな~」
「もう!」
私とエレナの会話に我慢できなくなったあかりは顔を膨らませて不貞腐れる。本当に彼女はいつも落ち着いていてかっこいいのにどこか幼くて可愛い。
「あはは、ごめんごめん。でも、あの時のあかりはホントにカッコよくて綺麗だった。・・・ホントだよ?」
私がそう言うと彼女は少し複雑そうな顔をして「そんな顔で言われたら悪い気はしないけど・・・」と答える。
すると、私達二人のやり取りを眺めていたエレナがニヤニヤと不気味な笑みを浮かべながら私達に言う。
「はいそこ、堂々とイチャイチャしない。」
「別にイチャイチャしてないわよ。」
急なエレナの言葉に私は恥ずかしくなって返す声が強くなる。そんな私の反応にまたイヤな笑みを浮かべると彼女はあかりに話しかけた。
「それはそうと、あかりってそんな強かったんだ。こう言っちゃぁあれだけど、そんな風には見えなかった。」
「同じような事フレンダにも言われたけど、そんなに意外?」
「うん。あかりは・・・なんかこう、ふわふわしてるから。」
「ふわふわ・・・」
「その、何ていうかケンカを知らないお嬢様?みたいな感じ。だから、そんなに強かったことにも驚きだし、クラスメイトとケンカしたことにも驚いたよ。」
「・・・私ってそんなに上品に見える?」
「「うん。」」
私とエレナが声を重ねてそう言うとあかりは首を傾げた。
「それにしてもそっちは障害物競争だったんだ。いいなぁ、楽しそうで。」
エレナが羨ましそうにそう言うが、私は今の言葉で不意にさっき受けた授業の事を思い出す。殺意の高いステージにリンの口から出た死刑宣告・・・今思い出しても身の毛がよだつ。
「ソウダネ、タノシカッタヨ。」
「・・・何で急に片言なの?」
私の反応に怪訝な表情で尋ねるエレナがそう言った。その真相を知っているあかりは「まあ、色々あったから。」と言葉を足してエレナを納得させようとする。
私達のその様子の意味が分からず首を傾げるエレナに今度はあかりが尋ねる。
「そう言うエレナ達は?何やったの?」
「魔法と魔術の違いについての座学と基本魔術の構築術。でも、先生の話は面白くないし、殆ど午前の授業みたいで終止眠気との戦いだったよ。」
そう答えたエレナの隣で同調するようにヘレンが「つまらなかった・・・」と空になったお皿を眺めて呟く。
あかりもそれには同情して「それはヤダね。」と声を漏らす。
「座学になるのは別にいいんだけど、先生がつまらないとね・・・」
「それは災難でしたわね。」
エレナの声に反応して誰かの声がする。
その声のした方へ私達が視線を向けるとそこには数名のシスターとさっきの授業で圧倒的な力を見せたエカチェリーナが立っていた。
純白のドレスに身を包みヒールを履いている彼女はブロンドの長い髪を払い私達を見つめて言う。
「ですけれど、魔術は狩り人に必要な力ですわ。よく勉強しておいた方がよろしくてよ。特に、アナタ方の様な力に乏しい方はね。」
挑発的なその言葉に眉をひそめたエレナが明らかに不機嫌な声で彼女に言葉を返す。
「急に何?その態度。失礼じゃないの?」
「あら、私は事実を申し上げただけですわ。それともそんな事も分からないくらい理解力がないんですの?」
「—ッ!いい加減に——」
「ちょっとやめてエレナ!」
エカチェリーナの言葉に我慢できなくなったエレナを私は必死に抑え込む。だが、そんな事知らないといった顔でエカチェリーナは傍に居たあかりに話しかける。
「それよりも私はアナタに用があるんですわ、ミスあかり。」
「ちょっと!」
「私?」
戸惑いながらあかりがそう返すと彼女は綺麗な髪を耳に掛けて言葉を返す。
「ええ。先ほどの決闘は見事な腕前でしたわ。」
「あ、ありがとうございます?」
「ですが、一つ忠告しておきます。」
エカチェリーナはそう言うと急に前屈みになって顔をあかりに近づける。そして、彼女の耳元で冷たい声を掛ける。
「あの彼女が言った様に余り調子に乗らない事ですわ。アナタの様な方こそ自身の力を過信して足元をすくわれ易い傾向にありますから。些細なことで命を危険に晒しますわ。」
「・・・・・」
「まあ、それはあの子もですけれど。」
「・・・御忠告ありがとうございます。精々用心することにいたしましょう。」
一切表情を変えることなく平然とあかりがそう返すと彼女は不気味に表情のない顔をあかりに見せて言う。
「そうなさってくださる?私も出しゃばった真似をした方が命を落としていく様は見ていて不愉快ですもの。それではご機嫌よう。」
そう言い残してエカチェリーナは去って行く。すると、途端にエレナが声を上げる。
「何よ!あいつ。」
苛立ちが収まり切らないエレナは言葉を荒立てる。ヘレンもこれには流石に癇に障ったのか熟睡中に起こされたかのような嫌そうな顔をしている。
私は、エカチェリーナの雰囲気に呑まれて何も言えなかった。でも、ただ一つ思ったのは——
「何か・・・怖い人だったね。」
「もう!あんたもなんか言い返しなさいよ!」
エレナがあかりにそう声を掛けるが、彼女は平気な顔をしてコーヒーカップに手を掛けている。
「・・・ん?別に彼女間違ったこと言ってなかったでしょ?調子に乗ってると怪我するよ。って親切に教えに来ただけ。カッとなる事じゃ無いわ。それに、ああいうのは真面に相手しない方が良いわよ。言ってもどうせ言葉なんて通じないんだから。」
あかりはそう言ってコーヒーを口へ運ぶ。彼女のその余りにも呑気な様子にエレナも圧倒されて「そうかもだけど・・・」と声を漏らす。
「ああもう!イライラする~!・・・ああ!もういい、ケーキもう一個頼も?」
「さ~んせ~い。」
気の抜けたヘレンの返事とは裏腹に苛立ちを隠せない声でそう言ったエレナはすぐに店員を呼びつけてその仕事を邪魔する様に長時間悩んで悩んで悩み抜いた結果、特大のパフェを頼んで一人で物の見事に完食していた。
「ああ、美味しかった~」
「ケーキじゃなかったの?」




