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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
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6.ヒヤヒヤでバチバチです。

 息が、苦しい。足が痛い。足を踏み出す度に、魔力が消費されるごとに体力が着実に奪われていく。


「はぁ・・・はぁ・・・」


 (フレンダ)はリンに出された障害物競争の最後の障害、絶壁の丘を死闘の末にどうにか突破し、息も絶え絶えな状態でゴールライン目指して走っている。


「はぁ・・・あ、あと少し。」


 そう声を漏らした私の耳に一人の少女の声が届く。


「フレンダ~!あと少し!がんばって!」


 声のする方へ目を向けると、そこには私よりずっと早くにゴールしたあかりが長い黒髪と紅い帯をなびかせながら大きく手を振っている。


 私は最後の力を振り絞って地面を駆ける。腕を振って足を踏み出し確実に前へ。


 そして、ようやく私の身体はゴールラインを超えた。


「お疲れさま。」


 体力を使い果たし崩れる様に膝に手を突く私にあかりが優しくそう言った。


 彼女は競争が始まった直後、帯を急に伸ばし始めて何をしているのかと思っていると、最初の障害物をいとも容易く破壊し目まぐるしい速度で次々とステージを突破して、最後にはこのグループ内で一番にゴールした少女だ。


「あ、ありがとう。はぁ、はぁ・・・それにしても、あかり速過ぎ。一瞬で見えなくなっちゃったよ。」


 まだ息が整わない中、私はあかりに言葉を返す。すると、彼女は首を傾げて答える。


「そう?結構遅かったと思ったんだけど。」


「あれで⁉」


 思わぬ言葉に私は驚愕の声を上げた。すると、急に大きな声を出した為か、息がむせ上がってしまう。


 苦しそうに咳き込む私を見てあかりが心配そうに「大丈夫⁈」と戸惑いの声を上げる。私はそれに「大丈夫」と答えて彼女をなだめると改めて彼女に尋ねた。


「あれで遅いの?確か二分四十秒・・・くらいだったよね?充分早いと思うけど・・・」


「エカチェリーナが一分半だったから私なんてまだまだだよ。」


「いや、クラス内二位の成績だし、そもそも十分切るだけで相当早いよ。」


 そう返した私の言葉にあかりはキョトンとした顔をする。その可愛らしくも憎たらしくもある顔に呆れながら私は空中に映し出されたタイム表を確認した。


 魔術によって投影された半透明のタイム表にはこのグループのシスター達の完走時間と、このクラスのトップの順位表が表示されている。


「私は・・・十五分五十六秒か・・・ギリギリ平均値だぁ、あぶな・・・」


「そうだね。でも、フレンダはしっかり障害物に対処できてたし結構良かったと思うよ。」


「・・・あかり、嬉しいけど貴方が言うと全部皮肉に聞こえるよ。」


 あかりはまたキョトンとした顔をする。少しだけ目線の低いその表情に私は最早呆れを通り超して何とも言えない愛らしさを感じてしまう。


 私の身長は百五十九.八センチと私も身体が小さいんだけど、あかりはもっと小さいみたいで、恐らく本当は百五十センチもないと思う。


 当の本人もそれを気にしているのか、靴底がかなり厚いレースアップのブーツを履いて身長を誤魔化している。それでも私より少し低いくらいだけど・・・


 だからなんだろうか、余計に可愛く見える。幼い子が背伸びをしている感じがして——


「何、どうしたの?私の顔見て顔がにやけてるけど、何か付いてる?」


 そう言ってあかりは自分の顔を擦る。どうやら知らず知らずの内に私は顔が緩んでいたようであかりが怪訝な目線を向けている。


 そんな視線を受けて急に恥ずかしくなった私は慌てて話を逸らす。


「それはそうと、その帯。やっぱりあかりの魔法だったんだね。」


「え?ええ、一応ね。」


「って事は武装系?・・・なんか意外。」


「意外って?」


「あかりは私と同じ自然系だと思ってた。ほら、昨日助けてもらった時とかすごく優しかったし。」


 私がそう言うとあかりは不思議そうに首を傾げる。そして、優しく笑みを浮かべて言葉を返す。


「そう?歴とした武装系魔法だよ。そう言うフレンダは花の魔法だよね。いいな、自然系魔法憧れる。」


「そ、そうかなぁ~」


 あかりにそう言われて私はまた顔が緩んでしまう。でも、私は彼女にその事がバレない内にそれを誤魔化そうとまた話を逸らす。


「それにしても武装系ってなんかこう・・・厳ついイメージがあるけど、あかりの魔法は凄く可愛いね!」


「ふふっ、ありがと。」


「って事は、あかりは帯の魔女って事になるの?」


「ああ、それは——」


「そこまで‼」


 あかりが私の言葉に答えようとした時、リンの声が演習場に響いた。シスター達の視線が一様にリンへ集まる。それと同時にまだコースを走っていた数名のシスターの顔が青ざめるのを感じた。


 そんな事などつゆ知らず、リンは手に持った槍の石突を地面に叩きつける。すると、再び演習場の地形が音を立てて変化していき、さっきまでの地形が嘘のように元の平坦な地形を取り戻した。


「全員集合。」


 リンが冷たい口調でそう言った。


 彼女の言葉を合図に演習場・待機室の全シスターがリンの前へ集まる。そして、素早く集まったシスター達を確認した彼女はその全員を見渡すと徐に語り始める。


「まあ、全体の評価としては及第点と言ったところでしょう。魔法の操作性を挙げれば評価できる範囲です。・・・〝素人〟としては、ですが。」


 中々に厳しい評価に集まったシスター達の表情が暗くなっていく。なのに、リンはそれに追い打ちをかけるように言葉を重ねる。


「さて、問題は脱落者・未完走者に関して。」


 一部のシスターの息が止まる気配がした。


「開始前に言ったように脱落・未完走だった者にはこの専科をやめてもらう。そう話しました。」


「・・・・・・」


「・・・・・あれ、嘘だから。」


「「「「「「「・・・・・え。」」」」」」」


 リンの思わぬ発言にシスター全員が困惑の声を漏らし、そして同時に驚愕の声を上げた。


 この世の終わりの様な顔をしていた脱落・未完走のシスターの中には膝から崩れ落ちる人もいて辺りは騒然となっている。


 でも、リンの言葉にシスター達は安堵し「良かった。」、「脅かさないでよ。」「死んだかと思った・・・」とそんな声が周りから聞こえてくる。


 私も周りの雰囲気に呑まれて息が詰まりそうになっていた為に、リンの言葉を聞いて一気に身体から力が抜ける。


 だが、やっと緩まったその雰囲気を壊す様にリンが言葉を加える。


「ただ、一つ警告しておきます。」


 安堵したシスター達がリンの言葉に再び固まり付く。


「私の判断次第ではそういった処分を下せるので、決して驕った態度をとらないように。以上、講義終了。解散。」


 そう言い残してリンは演習場を立ち去った。


 静まり返る演習場、凍てついた空気に呑まれ固まった私達、そこに講義終了を告げる鐘が響く。それを耳にして凍り付いていたシスター達は徐々にその硬直が溶け始め、皆各々にリンの言葉に頭を抱えながらそれぞれに散っていく。


「・・・今回は嘘だけど、嘘じゃなかったと。まあ、それはそうか。」


 あかりがポツリと声を漏らした。


 その言葉に駆られてなのか、私もリンの明らかな脅しに怖くなってあかりの袖を掴んで彼女に話しかける。


「何か、怖い先生だったね。」


「そうだね。あんまり敵に回したくないって感じ。」


 私の不安にあかりも同調して不安気な言葉を返す。


「どうしよ、もし退学になったら私・・・」


 弱々しくそう漏らした私にあかりは苦笑いしながら言う。


「流石にそこまでは言ってないよ。処分って言ったって、たぶん普通科の移籍でしょ。」


 私はあかりの言葉が理解できず思わずその理由を尋ねた。すると、彼女はあっさりとした表情で答える。


「バチカン条約。若しくは魔女条約かな?修道院での魔女の教育は国連によって義務化されてるし、ここを卒業しないと魔女は人権が与えられないから、退学なんて処分は受けないだろうし、先生もたぶんそこまではできない。」


 はっきりと断言したあかりの言葉に私は少し気が晴れる。それでも一抹の不安が残るけど・・・


「だとしても、不安だなぁ・・・」


 そう言って私は肩を落とす。そんな私にあかりは「大丈夫だよ、きっと。」と励まして次の講義の部屋へ行こうと私を促した。


 だが、私達が歩き出した途端、何処からか声が上がる。


「ちょっとあんた。待ちなさい。」


 その声がする方へ私達が振り返るとそこには三人のシスターが立っており、その内の赤髪の子があかりに向かって声を苛立たせている。


「あんただよね。昨日、悪魔狩りしたシスターって。」


「え。」


 私は思わず声を漏らす。そして、あかりを見つめる。彼女は否定する様子はなく凛とした表情のまま赤髪のシスターを真っ直ぐ見ていた。


 昨日、説明会の前に悪魔が現れたという騒動の事は私も知っている。その悪魔を狩ったのが悪魔狩りの資格を持たないシスターだったという事も。


 でも、そのシスターがまさかあかりだという事は知らなかった。


「何?私はもう悪魔を狩れますよって言いたい訳?」


 赤髪の子が不機嫌な声であかりにそう言った。すると、私達のただならない気配に気付いて周囲に人が集まってくる。


 ピリピリとした空気が漂う中、あかりは毅然とした態度で答える。


「別にそういう意味でやった訳じゃないわ、ラウラさん。私は現場の状況を見てそうすべきだと——」


 その時、凄まじい音と熱気が私達を包んだ。


 一体何が起きたのか私には理解出来なかった。だが、反射的に閉じてしまった目を開けると、いつの間にかあかりの帯が私とあかりの前に移動しており、辺りには僅かに土埃と火の粉が舞っていた。


「悪魔一匹殺したくらいで調子に乗らないで。あれくらいの悪魔なら私にだってやれる。」


 そう口にしたラウラの周囲には赤い火の球がゆらゆらと揺れている。どうやらさっきの爆音と熱気はラウラが放った火の球をあかりが帯で防いだ時に生じたものだったみたいで、私が気付かない内にあかりは高い反射神経で私を守ってくれていた。


「そう。なら今度は貴女に任せることにするわ。私は別に戦わなくて済むならそれでいいもの。」


 そう言ってあかりは私を連れてこの場から離れようと歩き出す。だが——


「調子に乗んなって言ってんの‼」


 ラウラが声を荒立てる。そして、無数の火球があかりに向かって放ってくる。迫る危機に焦る私とは対照的に落ち着いた様子のあかりは振り返って腕を差し出す。


「花帯・梅」


 その言葉と共に差し出されたあかりの手の中に紅い和傘が現れる。白い花の柄があしらわれたその和傘は襲い掛かる火の球を防ぎ私達を守った。


 火球の被弾によって舞い上がった土埃が晴れるとあかりはその傘を肩に掛けて再びラウラに視線を向ける。すると、ラウラは両手から火の球を出しながら偉そうにあかりに言う。


「帯の魔女なんてちんけな魔女はここで潰しておいた方が今後の為だから、大人しく今潰れてくれる?」


 ラウラの言葉にあかりは呆れた様にため息を吐く。このまま相手の挑発に乗りそうなあかりを見て私は彼女の服を掴んで声を落とし話しかける。


「相手する事ないよ、あかり。次の授業だってあるし・・・」


「こうなったら嫌でも相手するしかないわ。」


「でも・・・」


 心配する私を案じてなのか、あかりは私に視線を向けて優しく微笑むと穏やかな声で私に言う。


「それに、間違いは直してあげないとね。」


 あかりの意味深な言葉に私は首を傾げる。間違い?そんなの在ったかな——


 結局その意味が分からないまま私に下がるように言ったあかりはゆっくりとラウラの方へ歩み寄っていく。ラウラもそれ釣られるようにあかりの方へ近づいてくる。周囲の人間の視線が集まる中、二人の魔女が武器を構えた。


「フレイム・ゴースト‼」


 その言葉を合図にラウラの周囲に漂っていた火の球が一列に並び、前へ突き出したラウラの腕に沿って勢いよく連射される。


「花帯・芒」


 でも、あかりはそれに動じる事は無く、冷静な口振りでそう口にする。すると、あかりの帯が不気味に揺らめきうねりながら舞い上がる。そして、あかりに降りかかる火の球を残らず払い消していく。


「やるわね。でもこれならどう!」


 そう言って更に凄まじい量の火の球を出現させ、続け様に連射攻撃を開始する。


 だが、その攻撃も二本の帯に阻まれてあかりに届くことはない。それどころかあかりは反撃の余地がありそうな余裕な振る舞いをしている。


 これには流石にラウラも焦りが隠せず攻撃を一層激しくするが、それでも彼女の帯の壁を超えることは出来ない。


「花帯・桜」


 すると、今まで防御に徹していたあかりの帯が再び大きくうねりラウラの足元の地面を抉った。突如襲った攻撃にラウラは驚き思わず後ずさりをする。


「もう、充分でしょう?ラウラさん。」


 あかりがラウラに向かってそう言った。彼女は動揺しつつも「何ですって?」と強気に言葉を返すがあかりは呆れた口調でラウラに言う。


「もう充分実力の差は分かったでしょう?こう言ったらあれだけど・・・これ以上やっても時間の無駄だと思う。」


「まだよ!まだ私は——」


「第一、貴女は一つ勘違いをしているわ。」


「・・・・・何よ。」


 あかりの言葉にラウラは怪訝な表情を見せる。私も含めて彼女の言葉の意味を探る中、あかりはその答えを徐に語る。


「貴女は私の事を〝帯〟の魔女って言ったけど実際は違うわ。」


「じゃ、じゃあ何だって言うのよ。」


 ラウラが私達の疑問を代弁して尋ねるとあかりは困った表情をして答える。


「あんまり自分の力をひけらかすような事はしたくないけど、見てもらった方が早いし、折角だから見せてあげる。私の魔法。」


 そう言うと手に持っていた傘を消失させる。すると、あかりの身体が光に包まれ次第にその容姿が変わっていく。そして、光が晴れてその姿が鮮明になる。


「あれは・・・」


 思わず私の口から声が漏れた。


 光と共に彼女が身に纏ったのは日本の伝統衣装『着物』だった。


 黒を主体とした艶やかな花の着物に前で結われた鮮やかな紅い帯、彼女の綺麗な黒い髪は結い上げられ煌びやかな簪を挿しており、更に歯の長い下駄を履いて優雅なその姿を際立たせている。


 今の彼女はまさに、私が幼い時に読んだ日本のマンガに出てきた『オイラン』という人にそっくりだった。


「私の魔法は着物の魔法。つまり私は〝着物〟の魔女。この帯は私の魔法の一部でしかないわ。だから、帯さえ突破できない貴女に私を倒すことなんて出来ない。」


 さっきまでの幼い感じとは打って変わって一気に大人びた雰囲気になったあかりがラウラにそう言った。


 だが、あかりの変わり様を目にしてもまだ諦めきれないラウラは苦し紛れの強気な態度であかりに言葉を返す。


「き、着物の魔女だからって何よ、そんなの関係な——」


 彼女がその言葉を言い終わる前にあかりの帯が目にも止まらぬ速さでラウラの首元に迫り、寸でのところで静止する。


 突然起きた余りの事に彼女は声を詰まらせた。


「まだ続けてもいいけど、貴女の首が繋がってる保証は出来ないわ・・・それでも、いい?」


 ラウラは何も答えない。いや、刃が首元にあるんだから答えられないと言った方が正しいけど、あかりとの圧倒的な力の差に彼女は言葉を失っている。


 周囲が唖然とする中、ラウラが反論しない様子を見るとあかりはそっと帯を収めた。自身に向けられた脅威が遠ざかりラウラは膝から崩れ落ちる。


 彼女の戦意が失ったのを確認したあかりは魔法を解き、元のセーラーワンピースの姿に戻った。そして、私の元へ歩み寄り「行こっか。」と口にする。


 だが、この場から立ち去ろうとする私達を阻むように歓喜した周囲のシスターが取り囲む。そして、皆口々にあかりに声を掛ける。


 「凄いね、あなた!」「ねえ、授業終わりにお茶しない?」「ちょっと私が先でしょ」そんな声に揉まれて私達は動けなくなってしまった。突然の事に私は動揺を隠せないが、今の今まで落ち着いた様子だったあかりも興奮したシスター達に囲まれて動揺し固まってしまっている。


 次の授業の時間も迫っている。このままでは色々と危険を感じた私は困惑して動けない彼女を助けようと声を上げる。


「あ、あの!私達次の授業行かないとだから、通して!」


 そう言って私はあかりの手を引き強引に人の壁を引き裂いてその場を立ち去った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦装束が着物って良いですよね… [気になる点] もう少しTS設定を活かしてもいいと思う 今後に期待
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