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悪魔狩りの魔女  作者: 華井夏目
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5.障害物競走?

「「「「「「・・・・・・障害物競走⁉」」」」」」


 予想だにしなかったリンの言葉にシスター全員が一様に驚く。そして、同時に困惑の声が上がる。あんなに厳格な講師から出される課題がまさか〝障害物競争〟だなんて・・・


 私達の困惑を代弁するように一人のシスターがリンに尋ねる。


「障害物競争って・・・それは魔法と関係があるんですか?」


「当然。先ず大前提として自分の武器を知らなければ真面に戦うことも出来ないでしょう?だから、先ずは自分の武器となる魔法を知ることから。障害物競走はそれに適しています。」


 尤もらしい返答にシスター達は口を閉ざす。


 確かにそうかもしれないが、障害物競争なんて小学校でやったきりなんだけど・・・


 そう思いつつも反論しない私達を見てリンは一つのグループを指名して演習場に残るよう指示した。そして、私とフレンダを含む残りの二グループを連れてどこかへ歩き出す。


 連れられるままリンに付いて行くと、辿り着いたのは細長い演習場のおおよそ真ん中に位置する待機室だった。


 中は簡素な造りで等間隔に長椅子が並べられており壁沿いにロッカーが置かれている。更に演習場を見渡せるようにはめ込み式の大きな窓が設けられている。


 リンは二つのグループが部屋に入ったのを確認するとここで待つように指示し、演習場へ戻って行った。


 そして、演習場に居るシスター達に指示を出している。


 待機室の窓から見た限り、演習場の全長は凡そ五百メートルくらい、幅は百メートル弱だろうか。地面は平坦で何も置かれておらず、あるのは無駄に長い演習場の両端に一本のラインが引かれているくらいだ。


 彼女はこの何もない状態から一人で障害物を設置するのだろうか。


「ねえ。」


 私の隣にぴったりと付いてきていたフレンダが不安そうな顔をこちらに向けて尋ねる。


「障害物って、何だろう?」


「さあ?普通なら跳び箱とか平均台とかだと思うけど。」


 フレンダの言葉に首を傾げながら私が言葉を返していると、待機室のスピーカーからリンの声が響いた。


「全員、聞こえるわね。」


 少し擦れたその声に釣られるように待機室のシスター達は窓の周りへと集まってくる。


「ルールは言わなくても分かるとは思うけど一応確認する。こっちの端のラインから向こうの端のラインまで走り切ればそれで合格とします。制限時間は二十分、平均完走時間は十五分。それじゃあ、始めるわよ。」


 マイクを手にしたリンの説明を受け、周りのシスター達の口から「何だ、じゃあ簡単か。」、「二十分もあれば余裕でしょ。」という声が聞こえてくる。


 すると、演習場のリンは急に自分の魔法である槍を出現させ、槍の石突を地面に叩きつけた。その瞬間、突然演習場の地面が——と言うより地形そのものが凄まじい音を立てて変わり始める。


 平坦だった地面は隆起と崩落を起こし、驚異的な速度で巨大な丘と底の見えない谷を形成していく。


 更には無数の石像群、スタート地点付近に魔法陣が多数出現し、魔法陣から巨大な斧が二本現れてゆっくりと振り子運動を始める。


「障害物は見ての通りです。対処の方法は各自の判断に委ねます。」


 落ち着いた声でリンがそう言った。


 だが、その言葉は恐らくシスター達には届いていないだろう。


 何故なら、皆一様に変わり果てた演習場に言葉を失い、目を丸くしているからだ。


 そして、彼女は更に僅かに残ったシスター達の希望を捻り潰すような言葉を口にする。


「ああ。始める前に一つ、忠告しておく。これで〝もし〟完走できなかったり脱落したりしたら専科を辞めてもらうから。そのつもりで。」


 待機場、そして演習場のシスターが再び硬直する。そして、動揺の声が上がる。


 その反応に対してリンは当然と言った様子で言葉を返した。


「当たり前でしょう。これくらいの事が出来ないようなら狩り人になるのは不可能です。ただ魔法で遊びたいだけなら普通科にでも行きなさい。」


 確かにそうだ。私達はこれから狩り人になるんだ。このくらいの事は余裕でこなさなければ狩り人なんて夢のまた夢だろう。


 演習場のこの余りの変わりよう、自分の置かれた目の前の状況にフレンダは「これ最悪私達死ぬんじゃ・・・」と声を漏らした。彼女に服を掴まれる私もこれには流石に言葉を失う。


 すると、思い出したようにリンが「安全面には配慮しているからそこは安心なさい。」と取って付けた様に言葉を足した。


 そんなリンの言葉も届かないほど冷たく凍り付いたシスター一同を余所に彼女は声を上げる。


「以上。ほら、時間がないんだから早く位置に着きなさい。」




「——はい、そこまで!今やっていたグループは待機室へ。最後のグループは演習場に来なさい。」


 今、二グループ目の競争が終わり疲れ果てたシスター達が次々と待機室へと帰ってくる。


 一グループと併せて競争の様子を見ていたが、このクラスはかなり成績が良い様で、脱落者は数えるほどしかいなかった。だが、流石に個々の実力にはかなりのバラツキがあり、数分でゴールする子もいたりすれば時間ギリギリにゴールする子もいたりと区々だ


 でも、やはりあの金髪の彼女は別格だった。


 名前はエカチェリーナと言うみたいだが、彼女は最強の魔法と名高い光の魔女で、光の魔法の速度と破壊力を活かして障害物を突破し、平均十五分と言われたタイムに対して驚異の一分三十秒という記録を叩き出した。


 そして、もう一人の私が気になっていた眼帯の彼女は召喚系の魔女で、タイムこそは平均的だったものの、蛸?の様な触手を召喚して障害物を封じこめ悠々と完走した。


 次は最後のグループ、私達の出番だ。私とフレンダは前のグループと入れ替わりで演習場に立つ。


 だが、演習場にいざ実際立つと目の前の障害物群の絶望感が増す。待機場で受けた印象とは打って変わってそれらは殺意が高く、安全性に考慮されているとはいえ身体が危険を感じて震えだす。


「位置について。」


 そんなこちらの心境など意にも介さないリンがそう言う。


 優しさなど微塵も感じないその声に引っ張られてシスター達は徐にスタートラインに立つ。同様に私もフレンダも駆られる不安を押し殺してスタートラインに立った。


「始め!」


 リンの声が演習場に響く。それと同時にシスター達が走り出した。


 最初は三つに分かれた道の上に巨大な斧の振り子が揺れるステージ。振り子は二本一対の斧がそれぞれの道に三つずつ、ゆっくりとした速度で揺れている。走者は行く手を阻むその斧を避けながら進まなければならない。ゲームとかでよくあるシチュエーションだが、現実でやりたくはなかった。


 他のシスター達が次々とステージへ足を踏み入れる中、私はその場に立ち尽していた。


 他とは違うその異様な様子に周りと同じように走り出していたフレンダが気付き私に尋ねる。


「あかり?どうしたの?」


 その言葉を余所に私はぽつりと呟く。


「花帯・桜。」


 その言葉と当時に私は腰の帯に魔力を流す。帯は魔力を受けて揺らめき、急激にその長さを伸長させる。


 そして、大きくしなり空を切った帯は障害となる斧の魔法陣を両断した。その途端、斧が魔力を失いまるでガラスの様に音を立てて砕け散る。


 その光景にフレンダを含め多くのシスターが呆然とする中、私は伸ばした帯を次のステージの地面に固定し、一気に収縮させる。


 腰に負荷を感じ、身体が宙へ舞い上がる。空気の圧が身体を押し潰し、風が私の黒い髪を撫でていく。


 私はなびく髪を直しながら崩れた体勢を直し次のステージへ足を踏み入れた。


 次は無数の石の弓兵像。迫る対象物に対して石像達が矢を放ってくるというもの。放たれた矢を掻い潜って向こうへたどり着かなければならない。しかも、その弓兵達は私がこのステージに立ち入った時点で弓の弦をいっぱいに引いている。


「花帯・萩。」


 私は帯を正面に立つ弓兵に目掛けて一直線に放った。鋼鉄の様に硬質化した帯は目標に真っ直ぐと飛んでいき捉えた弓兵を見事に打ち砕く。


 だが、その一方で残りの弓兵達が無防備になった私目掛けて矢を放った。私はすぐに弓兵を砕いた帯をその場に固定し収縮させる。


 引き寄せられる私の身体、迫りくる矢がすぐ脇をすり抜けていく。余りのギリギリさに私は背中に嫌な汗が滲むのを感じた。


 次のステージは底の見えない谷に僅かに残った地面、それを繋ぐように縄が架けられたステージ。走者はその架けられた頼りない縄を伝って向こう岸へ渡らなければならない。


 そして、ここには更に仕掛けがあり、どうやらここは飛行魔法が封じられる様で、前のグループで飛行魔法を使っていたシスターが魔法を封じられ僅かに残った地面や暗い谷底へ落ちていた。


「強引だけど、やるしかないか。」


 私はそう呟くと腹を括って岸から身を乗り出した。


 途端に私の身体は谷底へ吸い込まれる。胃の中の物が浮き上がる気持ち悪さが私を襲う。


 落下に焦る気持ちを抑えて私は収縮させた帯を飛び出した岸の縁へと掛ける。そして、一気に伸ばし体を押し上げる。


 帯によって強引に押し上げられた私の身体は重力に逆らい空を駆ける。


 しかし、次第に勢いを無くし再び降下を始める。ゆっくりと降下の速度が増し、暗い闇の底へ身体が引きずり込まれる。私は凍り付く様な冷たい風を感じながら、伸ばした帯を今度は向こう岸の縁へ伸ばす。


 落下の恐怖に息が詰まる。不快な空気が身体に纏わりつく。


 恐怖に引きずり込まれそうな心をどうにか引き留めながら私は必死に帯を伸ばす。そして、帯が向こう岸に着くや否や帯を収縮させた。


 強い負荷が身体に掛かり私は暗い谷の闇から日の当たる地上へ引き戻される。暗闇に引きずり込む力を無理やり振り解き、ステージの仕掛けを完全に無視して私の身体は向こう岸になんとか到達する。


 最後は高さ十メートルにも及ぶ巨大な絶壁の丘。これを超えてようやくゴールとなる。だが、壁には手を掛けるような突起物はなく、素手で上ることは困難だろう。


 私は丘の麓まで近づくと帯の二本を地面に付け、自分の脚力と帯の力で垂直に飛び上がった。元々の自分の脚力と力強い帯の力で強引に押し上げられた私の身体は難なく丘の頂上へと達する。


 私は身体を翻し頂上に下りるとその勢いのまま丘の上を走り、再び丘から飛び降りる。


 この短い時間の中で何度も味わった引力をまた感じながら、私は帯を丘の峰につけ身体を押し出した。


 そして、私の身体はゴールラインを超える。


 私は姿勢を直し帯で着地の衝撃を吸収してゆっくりと地面に足を下ろす。しっかりとした地面の感触を感じると張り詰めていた緊張が解かれ、強張っていた肩から力が抜けて呼吸が乱れる。


「何とかなったわね。」


 ホッとした私の口から不意にそんな言葉が漏れた。

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